神野直彦『財政学』(11)
今回は、第8章 予算制度の構造と機能 の続きである。
財政法では、予算の内容を、①予算総則、②歳入歳出予算、③継続費、④繰越明許費、⑤国庫債務負担行為、という5つに規定しているのだったが、今回は③以降をみる。
本書の説明を、「原則と例外 どちらが重要か?」という目で見ると面白いのではないかと思う。
建設中の八ッ場ダム(2019年8月)/桜井明弘
継続費(単年度主義の原則の例外1)
- 財政の機能が拡大していくと、単年度ではとても完了しない大規模化した事業もある。そこで数年度にわたる大規模な事業を円滑に遂行するために、継続費という予算が設けられている。
- 継続費とは、工事、製造その他の事業で、その完成に数年度を要するものについて、「経費の総額」と「年割額」を定め、あらかじめ国会の議決を経て、数年にわたって支出することができるという制度である。(財14-2)
- しかしこの継続費という予算は、後年度における歳入と歳出に対する議会の決定を制限してしまう。つまり、継続費は厳密に言えば、予算は毎会計年度議決されなければならないという憲法で規定された、単年度主義の原則に反しかねない。
- 継続費には違憲論も唱えられている。そこで継続費には、「特に必要がある場合」に限定され、支出期間も原則として5年以内に設定するとともに、後年度において国会で審議することを妨げないという規定を設けている。
- 継続費は公共事業にも活用されていたけれども、現在では防衛費に活用されている。
予算の単年度主義は、「財政に対する民主的なコントロールを確保する観点から、毎年度、予算は改めて国会で審議されるべき」とするものである(財務省、繰越しガイドブック、コラム2 参照)。これを十分に理解した上で、大規模公共工事のように、特に必要がある場合に限定して、後年度の国会審議を妨げないという条件付きで、継続費という予算を設けることは合理的であると考えられる。状況の変化によっては、工事中止/変更もあり得る。
繰越明許費(会計年度独立の原則の例外)
- 数年度にわたる事業でなくとも、経費の性格上、その年度内に使用が終了する見込みのない経費もある。
- 会計年度独立の原則に従い、年度内に使用の終わらない歳出を、不用として処理するのは…非効率である。
- そこで、「年度内にその支出を終わらない見込みのあるものについては、予め国会の議決を経て、翌年度に繰り越して使用することができる」という繰越明許費の制度を設けた。(財14-3)
- 繰越明許費は、公共事業が大きなウェイトを占めている。
会計年度独立の原則について、「繰越しガイドブック」コラム1は、次のように述べている。
- この原則によれば、当該年度の使用に供すべき物品を掛買いし、その代金決済を翌年度の歳入を財源として行うこと、年度末予算の余裕があるのに乗じて不急の物品を多量に購入し、これを翌年度以降の使用に供すること、年度末に工事が竣功しないにもかかわらず予算の繰越手続をとらず、あたかも年度内に竣功したように作為して代金を支出すること等は許されない。
- 歳入予算が不足する場合には歳出の節約等によりその不足を補うべきであり、翌年度の剰余を見越して歳出を執行すべきではないということを要請している。
予算の剰余/不足が見込まれる場合のいわば「誘惑」にどう対処するかにその人の「センス」が現れるように思われる。
国庫債務負担行為(単年度主義の原則の例外2)
本書の「国庫債務負担行為」の説明はややわかりにくいので、別の説明を参照しよう。
- 国がある事業を行う際には,そのための契約を当該年度内に結ぶ必要があるが,実際の支出は翌年度以降でよい場合がある。このような場合も契約を結ぶには,その支出についてあらかじめ予算の一部として国会の議決を経ておく必要があるが,このようにして国が金銭給付を内容とする債務を負担する行為を国庫債務負担行為という(財15)。(世界大百科事典)
- 国が金銭給付を内容とする債務を負担する行為をいう。…次の二つの場合がある。
①年度内に契約をしておく必要があるが実際の支出は翌年度以降でよいという場合
②復旧その他災害緊急の必要があって国が債務の負担をしなければならない場合- 国庫債務負担行為というのは、国会により債務負担権限そのものを認められるものであり、のちに改めて歳出予算が組まれなければ実際の支出を行うことはできない。財政の健全性の維持のため、この債務負担行為によって支出できる年限は5年以内に限られている。(日本大百科全書)
以上により、国庫債務負担行為がどういうものかわかれば、本書の次の説明も理解できる。
- 「国の債務負担」が当該年度に支出され、「国費の支出」が翌年度以降に支出されるという場合が、国庫負担行為となる。
- 国庫負担行為は、次の2つに区分される。
①特定的議決による国庫債務負担行為…債務負担の内容を予め特定している国庫債務負担行為。
②非特定的議決による国庫債務負担行為…災害復旧などの緊急の場合に、予め国会の議決を経た金額の範囲内で債務を負担する行為。
「国の債務負担が当該年度に支出され」というのは、おかしな言い方だが、「当該年度に契約が結ばれる」と理解しておけばよい。
国庫債務負担行為も継続費と同様に、単年度主義の原則に対する例外となる。
「原則と例外」という点では、次回にみる「特別会計」等と「統一性の原則」が最も重要な論点であると思う。