浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

人口減少、少子化、高齢化の衝撃

香取照幸『教養としての社会保障』(8)

第4章 変調する社会・経済-人口減少、少子化、高齢化で「安心」が揺らぎ始めた の目次は、次の通りである。

 (1) 人口減少、少子化、高齢化の衝撃

 (2) 人口オーナスとライフスタイルの変化

 (3) 経済縮小と消費縮小-構造的デフレーション

 (4) 長期不況・デフレのインパクト-格差社会の出現

 (5) マクロ経済の異常事態

今回は、第1節を見ていこう。香取はまず、人口が増大している社会が望ましいような言い方をしている。

高度成長期の日本のように、人口が増大している社会は…マーケットが大きくなり、GDPが増える。経済が成長するから、さらに雇用も増えるし消費も増える。

これは誤解を招く表現のようだ。一般に経済成長の要因は、1)労働力(人口増加)、2)機械・工場などの資本ストック(蓄積)、3)技術進歩(Wikipedia、経済成長)とされており、人口が増加したからといって、必ずしもGDPが増えるわけではない。日本大百科全書は、次の要因をあげている。

  1. 技術革新 技術革新期には新資源、新商品、新技術が続出し、それによって新産業の生成、新生産方法の採用が相次ぐが、それは設備投資の高揚にほかならない。…
  2. 資本蓄積 設備投資による実物資本の蓄積は、労働力1人当りの資本量、すなわち資本集約度を高めることを通じて、労働生産性を上昇させるという一面をもつ。
  3. 資金供給 実物資本の蓄積を進めるには巨額の投資資金が必要である。この資金供給は、基本的にはその国の貯蓄率に依存するが、外資の導入も考えられる。
  4. 人口増加 一方において労働力を増加させ、生産能力を増大させるとともに、他方において消費需要を増大させ、市場の拡大につながる。…
  5. 外市場の拡大 所得分配の改善による国内市場の拡大や、通商範囲の拡大による海外市場の拡大などは、有効需要を持続的に増大させ、経済成長を実現させる。
  6. その他 適切な財政・金融政策、企業間の競争を維持させる産業政策、安定した労使関係、さらに技術開発や労働力の質にかかわる教育水準など、経済成長の要因は広範囲にわたる。(日本大百科全書

土地や金融資産や外国為替が、経済成長にどう影響するのかも論点としてあるのだろうが、経済学に疎いのでいまは何とも言えない。労働、資本、技術進歩の3要因のみをとりあげるのは、数理モデルを構築しやすいからではないか(?)。

 

先の引用では省略したが、人口増大→経済成長を「人口ボーナス」と言っている。聞きなれない言葉だが、次のような意味らしい。

15~64歳の生産年齢人口が、それ以外の従属人口(0~14歳、65歳以上の人口)の2倍以上ある状態。この人口構成になっている国や地域は「若い国」ともよばれ、都市化の進展、工業化による所得増、消費活発化により高い経済成長率を実現する潜在能力がある。日本は1960年代から1990年代初頭まで人口ボーナス期にあり、この間に急速な工業化と高度経済成長を成し遂げた。…人口ボーナスの対になる語は人口オーナスで、オーナスonusとは負担・重荷の意味。人口オーナス期にある国では従属人口の比率が上昇し、「年老いた国」へと変貌していく。日本は1990年代なかばから人口オーナス期に入っている。(日本大百科全書

経済成長云々よりも、生産年齢人口と従属人口の比率が問題である。年少者の減少、65歳以上の高齢者の増加、生産年齢人口の減少が問題なのである。後で、もう少し詳しくみよう。

 

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「高齢化社会」の使い方や意味、例文や類義語を徹底解説!

 

香取は、「今後の日本の社会を見通してみると、残念ながら明るいことはあまりない」として、次のように述べている。

  • 都市化が進み、地方は過疎化が進む。
  • 高齢者が増えるので、医療や介護が必要な人、生活支援が必要な人が増える。高齢者の中でも後期高齢者が増え、支援の量が増える。認知症も増える。高齢者夫婦のみの世帯や独居高齢者[独居老人]の数も増える。
  • 農村社会(三世代同居)には戻れない。…現代は、住居と仕事は関係ない。住む場所は働く場所で決まることになるから、結婚した子供は親とは別居している方が普通になる。田舎に帰るのも、都会に呼び寄せるのも難しい。…都市化が進んだ産業社会では、三世代同居はとても難しい。
  • 高齢者の一人暮らし世帯が多くなり、将来高齢者世代を支えるはずの子どもの数も減っている。これは構造的な問題である。対策を施しても…数年のうちに高齢者の数が大幅に減少したり、労働力人口に加わる10代の子どもの数が一気に増えたりするということは絶対にない。

現状認識としては、確かにこの通りだろうと思う。何もしなければ、この通りになる。だけれども、何か対策を講じれば、希望が見えてくるだろう。小手先の対策ではなく、根本的な対策が必要である。