浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

議院内閣制 - 権力集中と権力分散

久米郁男他『政治学』(27)

前回は、本書を読む前に、権力分立について概観し、「日本では、立法・行政・司法(三権)は分立していなくて、癒着しているのではないか?」 との疑問を提出しておいた。そこではあえて「癒着」という言葉を用いた。

今回は、第10章 議会 第1節 議会の比較 であるが、何が比較されているのかと言えば、アメリカ議会とイギリス議会の比較である。

アメリカ合衆国議会(連邦議会

  • アメリカ合衆国の統治構造においては,権力分立を強調する見地から,行政部[大統領]は立法の勧告や資料の提出をすることができるだけで,法律の発案権が議員だけに属するしくみになっており,きわめて多数で多岐にわたる法案が議会に提出されるために,それらを整理し審議する必要上,委員会制度が発達した,という事情がある。また,アメリカの連邦議会では政党規律が弱く,議員個人の政見や利害主張が強いために,他の国では政党規律のかげにかくされてしまうような実質的審議が委員会で公然と行われ,それだけに委員会活動の重要性を高めている,という事情もある。(世界大百科事典)
  • 合衆国憲法は厳格な権力分立制を採用しているため,議員立法が原則であるから法案数が膨大となり,委員会が高度に発達している。(ブリタニカ国際大百科事典)
  • 上下両院には常任委員会があり、法案の実質的な審議が行われる。この下に多数の小委員会があり、その他臨時の特別委員会、両院の議員で構成する合同委員会がある。両院を通過した法案は、大統領の署名を得て法律となる。(知恵蔵)…[大統領は、議会に法案を差し戻すことができる(拒否権)]
  • アメリアメリカ合衆国連邦政府立法府。他国の議会と比しての合衆国議会の特徴としては、議会の行政府からの独立性、および党からの個々の議員の独立性が比較的高いことが挙げられる。毎年1万件程度の議案が提出される。議題は、法案と決議に分かれる。(Wikipediaアメリカ合衆国議会)

アメリカの政治を理解するためには、大統領の言動ばかりに注目するのではなく、連邦議会の動向に注意しなければならないと思う。権力分立(行政府からの独立)、議員立法、委員会制度がポイントか。

本書は以下のように述べている。

  • アメリカは、立法府、行政府、司法府の三権の間の独立と抑制均衡を基本原理とする大統領制をとる。
  • アメリカにおいては、そもそも大統領は立法権を持たず、法案を議会に提出することもできない。法律を作るのはまさに議員の専権である。
  • 議会は活発に立法活動を行うが、そこで通る法案は執政部の方針を反映した一貫した政策になりにくい。

本書は、議員立法についてのウッドロー・ウィルソン(第18代米大統領)の批判を紹介している。いわく「アメリカの議会は委員会室において機能している。…さまざまな政策が全体としての統一性なしにバラバラに決定されており、無責任な統治が行われている。…委員会に所属する議員たちは、自分が関心を持つ政策分野において都合のいい法案を出し、他の法案を出してきた別の委員会と取引をしながら政策を決めていく丸太転がし(logrolling)を行い、国全体の利益を考えることが無い。…責任ある統治とは、議会における多数党が、自らが実現しようとするプログラムを明確に提起して、議会でそれを採決して実行し、来る選挙で自らの統治に対する国民の審判を受けることである」と。…このウィルソンの批判には賛成できないが、詳細は「後で」ということにしよう。

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行政府・立法府が一体となり災害対応に取り組むよう安倍総理に野党代表らが緊急の申し入れ

https://cdp-japan.jp/news/20180709_0705

 

議員内閣制

あらためて「議員内閣制」とはどういうものであるか見ておこう。

  • 内閣[行政府]が議会[立法府]に対して責任を負い、その存立が議会の信任[信頼して事を任せること]に依存する制度。その原型は 19世紀のイギリスで形成された。議院内閣制の特徴は,議会の多数派が内閣を形成し、政権の座につくことにより立法と行政との間に協力関係が築かれることにある。(ブリタニカ国際大百科事典)

内閣とはどういう機関か。それを大まかに理解するために、憲法第73条の内容を注記しておこう*1

議院内閣制の特徴を、「議会の多数派が内閣を形成し、政権の座につくことにより立法と行政との間に協力関係が築かれる」とするのは一つの見解ではあるが、議院内閣制を否定的に評価するなら、立法と行政との間の癒着関係となるだろう。

  • 他方、一般に議会は政府に主導されるため、議会独自の政策形成能力監視能力が低下し、ともすれば多数派による独裁という危険性も指摘される。議院内閣制のもとでは立法と行政は内閣によって結ばれ、両者は一体不可分の関係におかれる。(ブリタニカ国際大百科事典)

「一般に議会は政府[=行政府=内閣]により主導される」と言うが意味不明である。内閣が議会における多数派により組閣されるなら、「主導」ではなく、まさに一体不可分であるというべきだろう。但し、立法と行政が一体不可分であるからといって、それが多数派による「独裁」であるかどうかは何とも言えない。

イギリスの議院内閣制も日本の議院内閣制も大同小異だろう。

本書は以下のように述べている。

  • イギリスは、立法府における多数派が行政府を握ることで、立法権と行政権が融合し、強い執政部を生み出す議員内閣制をとっている。
  • イギリスの議員内閣制においては、多くの場合、多数党を基盤とする執政部が責任をもって法案を提出し、議会での討論と採決を経て法律ができあがる。

議員が法案を提出するのではなく、執政部(内閣)が法案を提出する。議会での「討論」がどのように為されるのか問題である。ダンレビー(イギリスの政治学者)は、「イギリス議会において首相を中心に議会内の多数を占める与党・執政部が大変強い力を持ち、議会における法案の審議が十分になされていない。事態を改善するために、現在はあまり機能していない議会の委員会を改革して、そこでの審議を活性化すること」と批判しているという。ウィルソンがあこがれたイギリスの議会で、アメリカのような委員会中心の議会運営への改革が主張されている。

*1:

憲法第73条…内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。

  1. 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
  2. 外交関係を処理すること。
  3. 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
  4. 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
  5. 予算を作成して国会に提出すること。
  6. この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
  7. 大赦、特赦、減刑刑の執行の免除及び復権を決定すること。