浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

桜を見る会 予算の移用と流用

神野直彦『財政学』(13)

前回は、一般会計のみではなく、特別会計も見ておく必要があるという話しであった。しかし他に、政府関係機関(いまは組織の変遷等があり、規模は大幅減少しているようだが)もあり、それぞれの予算の間で財源の繰入・繰出がある。

また予算に類似した存在として、「第二の予算」と呼ばれる「財政投融資計画」がある。「財政投融資計画とは郵便貯金、厚生年金、国民年金あるいは簡易生命保険などの国の事業を通じて集められる公的資金を、政策目的を達成する投資や融資に活用するための計画である*1」が、第23章で詳しく説明される。地方財政への国庫支出金や交付税もあり、財政関係は複雑である。

確かに、現代の財政運営では予算原則を貫徹することができなくなり、行政府に裁量の余地を与えることが要求されている。しかし、被統治者である国民が[私たちが]、財政をコントロールするという民主主義的市場社会の建前をとる限り、予算原則を放棄するわけにはいかない。そこで予算原則の適用されない特別会計政府関係機関の活動領域を拡大することによって、国民[議会]が財政をコントロールするという要求と、行政府に裁量の余地を与えるという要求との調和が目指されていると考えられる。

私たちの生活をよくするために、何を行い、どのように優先順位をつけて進めていくかについては、官僚や政治家まかせにするのではなく、私たちが「自分のこと」として、実際になされていることを正確に知る必要があるが、この点、もう少し情報公開のありかたを考え直してもよいのではないかと思う。

 

拘束性の原則

拘束性の原則*2は以前にふれたが、この原則を考える上で格好の事例が明らかになった。

予算はひとたび成立すれば、拘束性の原則に基づいて執行されることになる。つまり、予算に不足が生じたとしても、超過支出も流用も、それぞれ超過支出禁止の原則と流用禁止の原則に基づいて禁止される。(本書)

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(2019/11/29、東京新聞桜を見る会「毎年予算オーバー」の“裏側”  )

予算は、2013年度に1718万円、それ以降は2019年度も含め1766万円で固定されている。

支出は、2014年度は3005万円(予算の1.7倍)。2015年度は3841万円(2.2倍)。2018年度に5229万円(3.0倍)。2019年度は5519万円(3.1倍)。

これは誰が見てもおかしいだろう。東京新聞は、「超過支出禁止の原則」という財政規律の基本中の基本を無視した推移だ、と言っている。予算オーバーの分はどう補っていたのかというと、

井野靖久・内閣府大臣官房長は「内閣府本府の一般共通経費を活用することにより経費を確保している」と答弁。一般共通経費とは、内閣府のさまざまな行政執行に使える財源で、いわゆる「色」のついていないカネだ。

大蔵省(現財務省)や内閣府などの官僚経験のある明治大公共政策大学院の田中秀明教授(財政学)は、超過支出禁止の原則は当然で、「一般共通経費を流用して超過分を賄うのは違法ではないが、毎年繰り返すのは不適切」とした上で、こう語る。「(首相官邸直結の)内閣人事局に完全に人事を握られているから、首相主催の『桜を見る会』の参加者が増えたからといって、内閣府の役人が支出を絞れとは言えない。でも後ろめたいから予算は増やさず、上回った支出は一般共通経費を使って隠れて処理しようとしたのではないか」と話す。(東京新聞

予算の3倍も使って、足りない分は「一般共通経費」で賄っているということでは、予算管理の体をなしていない。

 

移用と流用

一般的に流用とは、予算の執行過程で生じた状況の変化に対応して、予算科目間で財源を融通することをいう。次の2つに区分される。

1.移用…これは「部局等」の間、あるいは「」の間で行う融通をいう。つまり、移用とは予算科目のうち、議定科目*3の間で行う財源の融通である。この移用は原則として禁止されているが、「あらかじめ予算を以て国会の議決をへた場合に限り、財務大臣の承認を経て移用することができる」となっている。

2.流用…これに対して、「項」の下に設けられている「」の間の融通を流用という。つまり流用とは、予算科目のうち、行政科目の間の融通である。この流用は財務大臣の承認さえあれば、原則として認められている。要するに、移用は原則禁止だけれども、流用は原則として認められるということになる。

総理主催「桜を見る会」追求本部のヒアリングで、「項」とか「目」の言葉がでてきた。先ほどの内閣府大臣官房長の答弁と異なるようだが…。(官僚にしてみれば、大した金額ではないということだろうが、その質が問われている)

 

予算に不足が生じた場合、流用あるいは移用によって対応することもできるが、それには限界があるので、予備費補正予算の制度が設けられている。

予備費予備費は予算に計上されているとはいえ、具体的にどういう目的に支出するかについて、議会が承認したわけではない。そのため予備費を使用した場合は、事後に国会の承認を得る必要がある。従ってみだりに予備費の使用を行うべきではない。

予備費を使用した場合、事後に国会の承認を得る必要があるということであるが、予備費の使用実績、そしてそれが妥当なものであったのかのチェックを議員はしている(のだろうね)。

補正予算…本予算が執行されていく過程で、それに追加したり、変更を加えたりする予算を補正予算という。

補正予算もみだりに編成すべきではない。財政法第29条では、補正予算が作成できる場合を、予算の追加と追加以外の変更の二つに分類している。このうち予算の変更については、法律などに基いて当然支出しなければならない義務費*4の場合は、本予算の作成後に生じた事由に基づかなくとも、予算の追加が可能であるが、義務費以外の経費については、本予算後作成後の事由に基づき「特に緊要となった経費」の支出に限られている。もちろん、現代の財政運営では、「特に緊要になった経費」には、災害などの必要やむをえざる経費だけでなく、景気対策などのような政策判断を伴う緊急性も含むことになる。

 他に「暫定予算」というものがあるが、本予算が成立するまでの期間について、必要やむをえざる経費に限って計上した予算ということであり、これはわかりやすい。

 

なお、「財政」の話とはちょっと離れるのかもしれないが、私は、(公社、公団、事業団、)独立行政法人等の「公企業」や、公共的性格が強い民営化企業のあり方に関心があるので、いずれとりあげたい。

*1:財務省の説明によれば、「財政投融資とは、①租税負担に拠ることなく、独立採算で、②財投債(国債)の発行などにより調達した資金を財源として、③政策的な必要性があるものの、民間では対応が困難な長期・固定・低利の資金供給や大規模・超長期プロジェクトの実施を可能とするための投融資活動(資金の融資、出資)」である。(https://www.mof.go.jp/filp/summary/what_is_filp/index.htm

*2:拘束性の原則…議会が決定した予算によって、行政府の財政運営を拘束することを確保する原則。(1)会計年度独立の原則(それぞれの会計年度の支出は、その会計年度の収入によって賄わなければならない。(2-1)超過支出禁止の原則(予算計上額を上回って支出することを禁止する。予算に費目が計上されていないにもかかわらず支出(予算外支出)することを認めない。(2-2)流用禁止の原則(予算に計上された費目から、財源を他の費目に移し変えて支出することを禁止する)。(2019/09/08 予算のプリンシプル(2) 偽造・変造された文書を公開されてもねぇ… 参照)

*3:議定科目国会の議決の対象となる予算科目は「項」までであり、これを議定科目と呼ぶ。これに対して予算の添付書類に計上され、閣議審議の参考となるにとどまる「目」以下の予算科目を、行政科目と呼ぶ。(2019/09/28 現代財政は、予算原則を守れなくなっている? 参照)

*4:義務的経費…一般歳出における人件費・扶助費・公債費のこと。国または地方自治体の一般歳出のうち、支出することが制度的に義務づけられている経費のこと。人件費、扶助費および公債費の3つからなる。人件費は、職員の給料や議員の報酬など。扶助費は、生活保護法や児童福祉法などに基づき公的扶助制度の一環として対象者に支給する費用のこと。また、公債費は国や地方自治体の借入金を返済するために必要な経費を指す。(weblio辞書)