今回は、第2章 社会心理学の歴史的な実験 のうち、「社会的促進実験」*1である(p.24~)。
- 他者が近くにいる[見ている]ことで、慣れている作業や単純な課題の遂行が促進されることを、社会的促進と言う。
- 反対に、他者が近くにいる[見ている]ことで、慣れない作業や複雑な課題の遂行が阻害されることを、社会的抑制と言う。
これは、こういう術語を知らなくても、誰もが経験的に知っていることだろう。本書はこれを「得意なことはより得意に、苦手なことはもっと苦手に」という言い方もしている。
https://www.hackerearth.com/blog/talent-assessment/webinar-interpersonal-dynamics-work/
問題は何故こういう現象が起きるのかである。
- 社会的促進・抑制は人間だけでなく、ゴキブリや他の動物にも見られる。周りに同種の他個体がいるだけで自動的に興奮状態(生理的喚起)が生じ、人々や動物を行動へと駆り立てる。(ザイアンス)
- 周囲の人たちからどう評価されるかが気になる(評価懸念)ためにうまくやりたいという動因が生じ、得意なことは促進、苦手なことは抑制される。(コットレル、)
- 周りに人がいると、作業に注意を集中することができなくなり、周りへの注意と作業への注意の葛藤が生じる。そのために生理的興奮に伴う動因の上昇が起こる。従って、周りに注意をそらすようなものがあれば、それが人でなくても、同じような効果を持つ(注意のコンフリクト説)。(サンダース)
ザイアンス…「ゴキブリや他の動物にも見られる」というのは面白い。…私の行動は、他者が存在するだけで影響を受ける。「他者」に人間以外の生物を含めても良い。生物以外の物体を含めても良い。私という人間個体が、人間社会のみならず、時空間のなかで存在している限り、それはあまりに当然のことであると思われる。しかし、自然現象(生理現象)だと言ったところで何も説明したことにはならない。他者の存在により、作業や課題の遂行が促進されたり阻害されたりするのは何故なのか、というのが問いである。
コットレル…話を人間社会に限定する。職場で仕事をしている人なら、「評価」を具体的なものとして実感できるだろう。上司・同僚・部下は、私の仕事ぶりを見ている。職場で仕事をするのと、家に持ち帰って仕事をするのとでは明らかに違う。家庭では、上司・同僚・部下の目がない。促進も抑制もない。(「評価」の話は、「人事評価」や「成績評価」の話に展開することもできようが、これは別途とする)
サンダース…私が、作業や課題に集中したいと思っている時、誰かが横でじっと見ていると気が散る。大きな物音と「他者の視線」は、同じカテゴリーに属するのではないか。つまり、私は危険にさらされるかもしれないので、注意をそこに向けなければならない。(「他者の視線」の話は興味深いが、横道に逸れそうなのでやめておく)
この議論は、作業や課題を「個人」で為すことが前提されているようだが、「共同」(協同)で為すことについても考えなければならないだろう。
*1:本書は、「トリプレットの糸巻き実験」、「ビリヤード場でのフィールド実験」、「ハントとヒラリーの迷路学習実験」を紹介している。