浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

(写真家)ソール・ライターの眼差し -日常と非日常のあわい

2020/2/9のNHK日曜美術館で、写真家ソール・ライター(Saul Leiter、1923-2013)がとりあげられていた。

まず、番組で紹介された写真とネット検索した写真の中から、ソール・ライターらしいと思われる以下の4作品をあげておきたい。

 

① 板のあいだ 1957年

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 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_saulleiter/point.html

 

② 足跡 1950年頃

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 https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/17_saulleiter/point.html

 

③ Daughter of Milton Abery, 1950

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https://www.cocosse-journal.org/2017/11/early-black-white-photos-by-saul-leiter.html?m=0

 

④ ソームズ・バントリー、『Harper's Bazaar』 1963年頃

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https://curiator.com/art/saul-leiter/soames-bantry-harpers-bazaar

 

私は、作者がどういう人物かを知ることなく、作品をみることにしているが、今回はNHKの番組を先にみたので、少し偏った見方になっているかもしれない。

ソール・ライターの解説記事はいくつかあるが、Bunkamura(渋谷にある複合文化施設)の「解説」が最も優れているように思われる。これを読んでもらえば、ソール・ライターなる人物、写真がどういうものかよく分かる。

 

私は、①をみて抽象表現主義マーク・ロスコの作品を思い出した*1。はたして、「解説」によると、

ソール・ライターはニューヨークへ着いて[1946年]間もなく、抽象表現主義の画家リチャード・プセット=ダートと出会う。暗室で様々な実験を試みた写真を使い作品を創作していたプセット=ダートとの親交を通じて、ライターは写真術を学んで行く、この友情がソール・ライターの写真の隠れた才能を引き出す重要な引き金になった。

NHK日曜美術館では、ソール・ライターの写真の特徴として、(1)ガラス、(2)ポイントカラー、(3)1/3構図(画面を3分割しその一箇所に被写体をまとめて配置する)の3つをあげていたが、①はこの1/3構図に該当するだろう。

ただし、私は「被写体」ではなく、その外側に注目する。この被写体を「日常」、その外側を「非日常」と考える。そうするとこの写真は何を表しているのだろうか? ソール・ライターは、いかなる「真」(リアリティ)を「写」しとろうとしていたのだろうか? という疑問が生じる。

「解説」は述べている。

一般的には日常の中で見過ごされる一瞬のきらめきをとらえた「都会の田園詩」ともいえるライターのスタイルは、他の写真家たちと一線を画す。「写真は、しばしば重要な出来事を取り上げるものだと思われているが、実際には、終わることのない世界の中にある小さな断片と思い出を創り出すものだ」、というソール・ライターの言葉は、その写真哲学を端的に表している。

私は、ソール・ライターの写真は、「日常と非日常の間(あわい)にある」(つまり、日常は非日常のなかにあり、非日常は日常のなかにある。混然一体としてある)リアリティを写しとっているのだろうと考えている。だから、時間と空間を超えて、私たちの感性に訴えかけてくるものがあるのではないだろうか。

「終わることのない世界」は、非日常である。

1/3構図を真似たとしても、リアリティを感受する心がなければ、他者に響くことはない。

 

②赤い傘の少女がいなければ、寒々とした雪景色である。人がいなければ「非日常」であり、「終わることのない世界」である。ほとんど「白と黒の世界」である。赤い傘の少女は「日常」である。

 

③のモノクロ写真は、あまり注目されていないようだが、街並みと俯く少女の組み合わせは、とてもストリート・フォトとは思えない。写真の少女が誰かわからないが、妹のデボラが精神を病んだことの影響をみることができるだろう。

 

④ソール・ライターは、ファッション誌の写真家として成功をおさめていた。

ライターの創造の根幹には常に絵画があった。少年時代から図書館であらゆる美術書に耽溺し、画家を志してニューヨークへ向かった彼は、生涯、写真と並行して絵筆を持つことを止めなかった。ボナール、ヴュイヤール、マティスといった西洋絵画の巨匠たちとともに、日本の禅画や浮世絵もこよなく愛したライターが高く評価していたもう一人の画家が、半世紀以上人生を分かち合った女性ソームズ・バントリーだった。二人はモデルの卵と写真家として出会う…純粋に創造に生きることが許されたライターとバントリーとの日々は、ニューヨークという大都会で二人が見出した彩りに満ちた楽園だったのかもしれない。

ファッション誌『Harper's Bazaar』に描かれたソームズ・バントリーも、①に似た趣がある。

 

映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』(予告編)

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予告編 → https://www.youtube.com/watch?v=Y73IGZZK-AU&t=23s

*1:マーク・ロスコについては、本ブログの読書ノート<大岡信抽象絵画への招待』>でとりあげた。