浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

COVID-19:「正しく恐れる」ことの難しさ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(5)

「COVID-19」に関する過去記事のタイトルを、以下のように変更します。

2020/3/13 COVID-19:特措法、東京オリンピック新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ

2020/3/21 COVID-19:自由と統制、自助・共助・公助新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(その2)

2020/3/29 COVID-19:首都封鎖、配給制度と行動監視新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(その3)「配給制度」と「行動監視」について

(20020/3/29の記事に追記しました)

 

今回のコロナ報道で、「正しく恐れる」という言葉を聞いたことがあるかと思う。私は、何となく「そうだね」と聞き流していたが、これはどうもよく考えてみる必要があるようだ。

元は、寺田寅彦の随筆にある言葉、「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」だそうである。私の感覚では、コロナを「怖がらなさ過ぎる人」が1割、「怖がり過ぎる人」が1割で、残り8割は中間である。彼らはマスコミ報道に流される。

寺田寅彦「正しく恐れる」とは>、<「正当にこわがる」/「正しく恐れる」>の2つの記事を読んで、私はこれを「リスク状況を的確に把握して対処する」という意味で使うことにしたい。

 

自分のまわりにコロナ感染者がいないから怖がらないというのではなく、「事実(データ)に基づき、怖がらない」というのもあるだろう。私はこれまでどちらかと言えば、この立場だった。どういうことかと言うと…

まず次のデータを参照願いたい。

<COVID-19 100万人当りの死亡者数>

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これは、WHOの国別の感染者数&死亡者数の数表(2020/3/30現在)*1IMFの国別人口ランキング(2018年)*2から、百万人当りの死亡者数を算定したものである。

 

<日本の死因別死亡者数>*3

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詳細は、「平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」*4参照。

脳血管疾患とは、脳梗塞とか脳内出血などである。心疾患とは、心不全とか心筋梗塞である。

上表にない「感染症」については、

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である。なおインフルエンザ(3,323人)は感染症であるが、呼吸器系の疾患に分類されている。COVID-19は、どこに分類されるのだろうか。

 

さてCOVID-19の死亡者数は現在のところ54人なので、人口100万人あたり0.4人であり1人にも達していない。これは2か月ほどの死亡者数であり、年間でどうなるかわからないが、仮に100倍に増えても、5,000人程度、人口100万人あたり40人程度である(10万人の地方都市であれば4人程度である)。5,000人といえば、敗血症による死者数の半分である。自殺者の4分の1である。

つまり、COVID-19の死のリスクは非常に小さいということである。私たちは、さまざまな死のリスクに備えなければならないのである。COVID-19が「怖い、怖い」と騒ぐのなら、その何倍も、何十倍も他のリスクを怖がらなければならない。但し、もちろんCOVID-19対策として、三密(密閉、密集、密接)を避けるとか、手洗いをすることが不要だなどとは言ってない。他のリスクに対しても、もっと目配りをしなければならないと思う。

 

以上、「事実(データ)に基づき、怖がらない」理由を述べてきたが、これには当然反論が予想される。

それは、新型コロナウイルスの特性を理解していないというものである。

下図はテレビでよく紹介された図である。

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この図は、新型コロナウイルス感染症専門家会議(第3回)(2020/2/24)の配布資料2*5である。

この図のポイントは、「医療対応の限界」である。体制強化しても、感染者が急増すれば、限界を超えてしまう。即ち「医療崩壊」である。イタリア、スペインは、既に医療崩壊していると考えられる。ワクチンや有効な薬がない状態で、他国でも感染者の急拡大→医療崩壊が懸念されている。

医療崩壊だけではない。コロナ経済危機(→生活破綻)が現実の問題となっている。

緊急事態宣言を出して、「外出自粛要請」をして済む話ではない。

 

「怖がらなさ過ぎず、怖がり過ぎない」ためには、「リスク状況を的確に把握して対処する」ことが必要であるが、それには専門家(医療関係者だけではない)と公務員と政治家(与党だけではない)の協力体制と、情報の的確な発信が必要である。

さまざまな対策が講じられようが、これまでの動き(欧米を含む)を見ていると、どれほど過去の感染症の歴史に学んできたのか疑問に思う。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」か。