香取照幸『教養としての社会保障』(12)
今回も、第4章 変調する社会・経済 第2節 人口オーナスとライフスタイルの変化 の続き(p.109~)である。
ライフスタイルの変化
少子高齢化は、高齢人口が増加し、生産年齢人口が減少することを意味する。香取は次のように述べている。
- 一人ひとりの人生の中での働かない期間が長くなることで、社会全体での「働く時間総量」と「働かない時間総量」のバランスが崩れていく。
- 65歳を過ぎて高齢者と呼ばれる年齢に達した人は、大体85歳ぐらいまで生きる。
- 親に養ってもらう子どものときは除いて考えると、20歳から65歳まで働くとして、20歳から85歳までの65年間の生活費を45年で稼がなければならない。
- ミクロは一人ひとりが何年働いて残り何年を貯えで生活するかという話で、マクロは何歳から何歳までが働く世代で、何歳からが老後の働かない世代かということである。ミクロのバランスを束にしたのが、マクロのバランス。完全にパラレルである。
- 平均寿命はどんどん延びているが、働く期間はそれほど延びていない。つまり老後が長くなっている。その分、現役のうちに老後に備えて蓄えなければならない負担が重くなった。
私たちの社会には、「働く人」(働ける人)と、子どもや高齢者や障害者のような「働けない人」がいる。私たちが、「社会をなして共に生きている」ということを認識するならば、「働く人」(働ける人)が、「働けない人」の生活を支えるのは、あまりにも当然の道理ではないだろうか。
それは「働ける人」なら(健康度に応じて)働くことができる社会であること、「働けない人」を無理に働かせることのない社会であることを意味する。
「働く人」(働ける人)と「働けない人」を、(平均であるにせよ)年齢で区分することは、少なくとも理念的には、粗雑な議論だろう。
「家族」を考えてみれば分かりやすい。「何歳から何歳までが働く世代で、何歳からが老後の働かない世代である」という基準で、労働や社会保障の制度設計をすることは疑問である。
70歳就業を努力義務とする「高齢者雇用安定法改正案」*1が、2020年3月31日、国会で可決された(2021年4月施行)。新たに企業に課される義務は、次の通りである。
- 定年延長・定年廃止・再雇用制度の導入…定年は60歳から65歳に引き上げられ、努力義務としての定年は65歳から70歳まで引き上げられた。
- 他企業への再就職支援…大手企業の場合は高齢者採用に特化したグループ会社を作り、その会社に高齢者が遂行できる業務を発注することが考えられている。
- フリーランスで働くための資金提供…フリーランス(個人事業主)に資金提供や業務委託をする。
- 起業支援
- NPO活動などへの資金提供…事業主がNPOに資金提供することで、企業イメージのアップやCSRに繋げることが考えられている。
詳細はみていないが、3.4.は問題含みだろう。2.5.は有望な選択肢かもしれない。
ただ、私は「年齢」を基準としない方策が検討されるべきだと思っている。