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COVID-19:「PCR検査を拡充すべき」というマスコミなどの誤った主張について

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(11)

久しぶりのコロナ記事です。コロナでダウンしていたわけではありません。

コロナの議論は多岐にわたり、限られた時間の中で、膨大な情報のなかから、何が正しい(妥当)かを判断し、何を優先的にとりあげるべきかは、中々難しいところです。

今回の記事は、「<PCR検査を拡充すべき>と言う議論は誤っている」というものです。これが誤りであるというのであれば(PCR検査を拡充すべきである、と言うのであれば)、以下の議論の誤りを指摘して下さい。考え直します。とはいえ、このような超マイナーなブログに反応は期待していませんので、ほとんど自己満足なのですが…。

■正しく恐れる

■冷静な頭脳と温かい心

 

さて、PCR検査を拡充すべきであると言うのであれば、日本国民全員(1億2千万人)に検査を実施したらどうなるのかを考えてみよう(誰が感染しているかわからないということらしいから)。

f:id:shoyo3:20200430210054j:plain(単位:千人)

この表の赤字に注目である。

・実際には感染しているにもかかわらず、PCR検査では180万人が「陰性」になる。

・実際には感染していないにもかかわらず、PCR検査では114万人が「陽性」になる。

では、この表の数字はどういうふうに算出されたのか。

前提条件は、次の通りである。

①人口:120,000、②事前確率:5%、③感度:70%、④特異度:99%

事前確率とは、全体のうち何人が感染者であるかを示すものである。有病率とも呼ばれる。実際には何人いるかは分からないので、これ位だろうという推定値であり、あるいは仮にこれ位にしておくとこうなるという仮の数字である。ここで5%としているのは、600万人(=120,000*5%)位を感染者として推定/仮定するということである。

感度とは、感染者を正しく陽性と判定する割合である。「問題あり」を見逃さない割合とも言い換えられる。ここで70%としているのは、PCR検査というのは、感染者を正しく陽性と判定できるのは70%程度の検査法であると想定しているということである。だから、180万人(=6,000*30%)を、誤って陰性と判定することになる。

特異度とは、非感染者を正しく陰性と判定する割合である。非感染者を「問題あり」としない割合であるとも言い換えられる。ここで99%としているのは、PCR検査というのは、非感染者を99%正しく陰性と判定できる検査法であると想定しているということである。だから、114万人(=114,000*1%)を、誤って陽性と判定することになる。意外と思うかもしれないが、99%正しい方法であるにもかかわらず、114万人もの人が、陽性(感染者)と誤って判定されるのである。

上記分割表の数字を記号で表すと、

f:id:shoyo3:20200430210406j:plain

感度=真陽性/(真陽性+偽陰性)­=a/(a+c)=4200/6000=70% …「真陽性割合」と覚えよう。

特異度=真陰性/(真陰性+偽陽性)=d/(b+d)=102600/114000=99% …「真陰性割合」と覚えよう。

 

偽陰性偽陽性が問題である。

偽陰性は、第二種過誤(ぼんやり者の誤り)と呼ばれる。

偽陽性は、第一種過誤(あわてものの誤り)と呼ばれる。

 

マスコミは、陰性から陽性になった人がいると騒ぐが、PCR検査の精度がそういうものであることを知らない「ぼんやり者の誤り」である。

またPCR検査を無差別に実施すれば、非感染者を陽性すなわち感染者であるとする「あわてものの誤り」を犯すことになる。

以上は、統計学の初歩であり、(私のような)文系人間でも分かる論理である。(「的中率」や「尤度比」についてもふれようかとも思ったが省略する)。

 

さて以上は抽象論であり、一般論であると言われるかもしれない。何が重要なポイントであるか?

前提条件は、次の通りであった。

①人口:120,000、②事前確率:5%、③感度:70%、④特異度:99%

まず③の感度真陽性割合:感染者を正しく陽性と判定する割合)から見ていくことにしよう。

以下は、柳田絵美衣の『新型コロナウイルスのPCR検査が「偽陰性」となる原因は?』による。

  • 採取された検体の中に新型コロナウイルスRNAが含まれていれば、RNAから変換されたDNAが増幅されて陽性となり、検体の中にRNAが含まれていなければ何も増幅されないので陰性となる。

f:id:shoyo3:20200430210837j:plain

  • 偽陰性」となる原因は、検査の一連の全工程において存在する。
  • 正しい部位から検体が採取できており、かつ十分な量の検体を採取できなければ、偽陰性となる。
  • 検体(ぬぐい液)からDNAやRNAを抽出するのだが、DNAやRNA以外の不要な物質が混ざっていたり、操作中にDNAやRNAをロスしていると、正しいデータは得られず「偽陰性」となる。
  • RNAはDNAよりも不安定な性質であり、分解されやすい性質を持つ。適切な設備や器具を用いなかったり、RNAを低温で取扱わないと、正しいデータは得られず「偽陰性」となる。

 (中略)

  • 検査の精度管理の一つとして「コントロール」となる物質を検体とともに検査し、「この検査は正しくおこなわれたのか?」を確かめる必要がある。ある施設では、これらのコントロールを用いていない。それによる「偽陰性」や「偽陽性」が起きているのではないかとも言われている。
  • まだまだ考えられる原因は存在する。実は、ちょっとしたことでも偽陰性と誘導することもある。例えば、「過剰な滅菌・ウイルス除去」が原因な事例もある。

以上の記述から明らかなように、PCR検査の感度をあげることは中々難しいことである。70%というのは仮の数字であるが、重要なことは「偽陰性」が相当程度ありうることを理解することであり、「陰性」となったからといって、「感染者ではない」という「免罪符」を与えるものではない。

 

次に、④特異度真陰性割合:非感染者を正しく陰性と判定する割合)について。

偽陽性となる原因は、コンタミネーション(他の検体や他の菌・ウイルスの混入)やコントロールの不備からだろうが、この偽陽性の知識がないと大きな問題を生ずる。

上記分割表では、114万人偽陽性とされ、実際は感染者ではないのに感染者とされ、「無症状感染者」などとして、施設に隔離されるのである。誤認逮捕による冤罪と同様である。それは遺伝子検査を100%正しいものと考えるからである。無罪の者を牢屋にぶち込んで良いのだろうか。

 

最後に、②事前確率について考えてみよう。

上記分割表では、「実際の状態」として、「感染者」と「非感染者」に区分している。ところが「実際の状態」は分からない。検査の「陽性」と「陰性」の区分ではないのである。上記分割表の数字をどういうふうに作成したのか振り返ってみよう。

①人口(K):120,000、②事前確率(x):5%、③感度(y):70%、④特異度(z):99% とする。

f:id:shoyo3:20200430211057j:plain

EXCELで、この表を作成し、K,x,y,zの数字を変えて見れば、数字がどのように変わるのか見ることができる。

仮に、x=10%としてみると(全体の10%位は感染していると見ると)、

※ 合計の数値が誤っていたので訂正(2020/5/5)

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感染者の360万人が陰性判定で大手を振って出歩き、非感染者の108万人が陽性判定で閉じ込められる。

全国ではなく、地方小都市を想定すれば、ピンとくるかもしれない。12万人の人口であれば、感染者の3600人が陰性判定で大手を振って出歩き、非感染者の1080人が陽性判定で閉じ込められる。

PCR検査とは、このような精度の検査であると見るべきであろう。

 

だからといって、PCR検査が全く無意味な検査であることを意味しない。

冒頭の分割表は、uminのサイトの記事『新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査の意義をEBM的思考で考える』から持ってきたものであるが、この記事から少し引用しよう。

PCR検査に過信は禁物であり、検査は少しでも疑えば行うというのではなく、症状や経過,状況などを総合的に鑑みて事前確率を高めてから行うべきである。EBM的思考では、検査特性を理解して、必要な検査を最小限行う。そして、検査を行ってその結果で行動が変わるならば、検査を行うのが原則だ。結果で行動が変わらないならば、その検査はやるだけ無駄である。検査を受けることで安心したいという気持ちはわかる。しかし、検査結果が陰性でも全然安心できないのだ。診断にアプローチする際には、まず感度の高い検査を行って病気の可能性の低い人を除外してから、残った人に特異度の高い検査を行って診断を確定するという手順を踏むことが多い。

SARS-CoV-2[新型コロナウイルス]感染で診断意義があるのは、入院患者、特に重症患者における感染防御である。フルPPE[個人防護具]など通常と異なる対処を行うからだ。軽症患者で入院が必要なければ、自宅安静と対症療法であり、これは SARS-CoV-2感染 でなくとも同じである。特別な治療法があるわけではない。したがって、まずは入院が必要かどうかの判断、すなわち肺炎であるか(通常の肺炎は軽症であれば入院不要であるが、COVID-19でああれば1週間ほど経過した後に重症化する可能性があるので、入院が望ましい)どうかの判断が先である。すなわち,胸部X線やより感度の高い胸部CTで肺炎が証明された後に SARS-CoV-2 PCR検査を行うという順番にするべきである。感度が低く特異度が高いPCR検査は確定診断に用いるものであり、除外診断には不向きだからだ。そう考えると,スリガラス像は胸部X線では見えづらいので、必然的にCTの設備のない診療所などでは SARS-CoV-2 PCR検査は行うべきではないことになる。ゆめゆめ,安易に検査を求めるなかれ。

検査をしたからといって、現在のところ治療法はないのである。

PCR検査を拡充すべき」と声高に叫ぶ人は、以上のことを理解しているのだろうか。

 

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独自に「PCRセンター」設置 1人数分で検査(https://www.youtube.com/watch?v=Da_AcUMymRk

 

(参考)山中伸弥5つの提言の一部

(20203/31)

提言3 検査体制の強化(提言2の実行が前提)

これまでわが国は、無症状や軽症の感染者の急増による医療崩壊を恐れ、PCR検査を限定的にしか行ってきませんでした。しかし、提言2が実行されれば、その心配は回避できます。また、このままでは医療感染者への2次感染が急増し、医療崩壊がかえって加速されます。自分が感染していることに気づかないと、家族や他の人への2次感染のリスクが高まります。また感染者数を過小評価すると、厳格な対策への協力を得ることが難しくなります。一方で、検査は検体を採取する医療関係者への2次感染の危険を伴います。さらに検査場に多くの人が殺到すれば、感染がかえって広がる恐れもあります。安全な検査体制を工夫する必要があります。PCR検査を必要な時に必要な数だけ安全に行う体制の強化が求められています。これは世界各国の行政や科学者の知恵比べです

(2020/4/9改訂)

提言3 検査体制の強化

感染者や濃厚接触者の急増により、PCR検査の必要性が急増すると予想されます。必要な人に、速やかに、かつ安全にPCR検査を実施する体制の強化が必要です。検査可能件数に対して、実際の検査数は半分以下です。どこが律速段階になっているかを明らかにし、検査数を増やすべきです。必要な検査が行われないと、医療感染者の感染リスクが高まり、医療崩壊が懸念されます。

また感染の拡大を全国規模で把握するため、無作為抽出サンプルのPCR検査や抗体検査、さらにはビックデータの活用を早急に進めるべきです。抗体陽性の方は、血漿療法など治療法の開発にご協力頂けますし、医療従事者の場合は現場での貴重な人材になります。

(現在)

提言3 目的を明確にした検査体制の強化

検査を国民全員に行うことは不可能です。検査の目的を明確にし、目的に応じた戦略が必要です。

  1. 感染が疑われる方の診断のための検査…医師の判断で、速やかにPCR検査が実施できる体制が必要です。
  2. 院内感染予防のための検査…他の病気で入院される方や医療従事者のPCR検査が必要です。各病院でのPCR検査体制を整備するとともに、無症候であっても保険適用が必要です。
  3. 市中感染の広がりを把握するための検査…数千人単位の調査が必要です。PCRでは困難です。抗体検査がより適しています。感染の広がりを把握することは、活動制限の程度を決定する上で不可欠です。抗体検査は、現状では感度や特異度が不明であり、1人1人の感染の有無の判断に使うのは危険です。しかし、集団として、どれくらいの人が感染したかを推察する目的では、極めて有用です。

(太字は原文ママ、赤字や下線は引用者)

最新の提言がいつ改訂されたのか分らないが、それまでの提言をみて疑問を呈しようと思って今日確認したら改訂されていた。これなら理解できる。

  

(参考)

・感度とか特異度とか (https://www.cresco.co.jp/blog/entry/5987/

・感度と特異度 ~ものの見方、データの見方~(https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/hoken/files/201301_2-1.pdf

新型コロナウイルスSARS-CoV-2)のPCR検査の意義をEBM的思考で考える (http://spell.umin.jp/thespellblog/?p=235

・PCR検査、軽症者に推奨せず―新型コロナ 感染2学会「考え方」まとめる (https://medical.jiji.com/topics/1614

・検査データの読み方と考え方 (https://www.jslm.org/books/guideline/2018/04.pdf