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井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

行政機関が規範を定立して良いのか?

浦部法穂『全訂 憲法学教室』(4)

今回は、第7章 国民主権 第4節 国会 1国会の地位と性格 の続き(p.525~)である。

 

国会は、国権の最高機関であり、唯一の立法機関である

  • 国会は、「国権の最高機関」である。…国会中心主義の統治システムを宣言したもの。「政治的美称」。
  • 国会は、「唯一の立法機関」である。…これは、国民自身が立法を行うという「国民主権」の建前からの帰結である。①立法権を独占し、他の機関による立法を認めない(国会中心立法)。②他の機関の関与なしに国会の議決のみで法律が成立する(国会単独立法)。(憲41条)
  • 但し、行政権による一切の立法を認めない趣旨ではなく、法律の規定を実施するための命令(執行命令)や法律によって委任された事項を定める命令(委任命令)は認められる。
  • 行政の専門化・高度化の進んでいる今日、委任を一切否定するのは実際的ではない。しかし、法律による委任は、具体的・個別的に限定された事項について行われなければならない。

私たちが社会生活を送るには様々なルールが必要である。そのルールは誰か特定の人間(グループ)が決めるのではなく、私たちの代表者で構成する国会が決める。だとするなら、私たちの代表者ではない官僚(国家の政策決定に大きな影響力を持つ国家公務員)が決めるべきものではない。

しかし憲法は、内閣が政令を定めることを認めている。内閣は、行政機関であり、立法機関ではない。「内政では法律を執行して国務を総理し、公務員事務を掌握し、予算案を国会に提出し、政令の制定や恩赦の決定等を行う。外交では外交権を行使し、条約を締結する(73条)」(Wikipedia)。ここで政令とは、「内閣が制定する命令憲法および法律の規定を実施するための執行命令と、法律の委任に基づく委任命令とがある」(デジタル大辞泉)。

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日本の法律のほとんどは官僚が作っている? 知っておきたい法律の制定過程(https://koumu.in/articles/1141q

 

行政立法

本書では用いられていないが、「行政立法」という言葉がある。行政立法とは、「行政機関による規範の定立。または、それによって定立された規範それ自体を意味する」(Wikipedia)。

行政機関が規範を定立する?? 規範の定立とは「立法」そのものではないか。

  • 行政立法は、その内容(性質)によって、法規命令と、行政規則とに分類される。
  • 法規命令とは、行政機関が定める法規のことである。ここにいう法規とは、国民の権利義務に関する規範を意味する。日本においては、唯一の立法機関である国会のみが、法規を定立することができると解されているため、法律の委任(法律による授権)がある場合に限って、法規命令は合憲であるとされる。日本における法規命令は、政令内閣府令、省令などの形式をとることが多い。
  • 行政規則は、行政立法のうち、法規の性質を持たないもののことをいう。法規の性質を持たないため、法律の委任は不要である。形式も、内規、要綱、通達によるのが通例である。
  • 行政立法が必要とされる理由として、対象の専門化、状況変化への柔軟性、中立性確保が、挙げられる。第一に、規範の定立(特に法規)を全て議会に委ねることになると、詳細で専門技術的事項についてまで、議会で審議すべきことになるが、これは困難・非効率である。第二に、議会による立法では、状況変化に即応して規範を改正することが困難である。第三に、政治的に中立な立場にある行政機関が規範を定立することが合理的と考えられる場合もある(人事院規則など)、また、地方の事情を考慮した対応をするためには、その実情に明るい行政機関に規範を定立させることが合理的であると考えられる場合もある。(以上、Wikipedia

法律の委任がある場合に限り、法規命令は合憲であるという。仮にそうであるとして、法律による委任により、行政が法規を定立することを認めることは矛盾ではないか。

ここで「現実」を考えてみなければならない。「現実」とは、上に「行政立法が必要とされる理由」としてあげられている事柄である。すなわち、「対象の専門化」、「状況変化への柔軟性」、「中立性確保」を考慮しなければならない。いずれも、「もっとも」と考えられるが、これは、国会議員は、①「対象の専門化」に対処できない。「詳細で専門技術的な事項」を議論する能力がない。②「状況変化への柔軟性」がない。迅速・効果的に規範を改正することができない。③政治的中立性が担保できない。ということを意味しよう。それに対して、行政(官僚)は、①「対象の専門化」に対処できる。②「状況変化への柔軟性」がある。③中立性を確保できる。と考えられている。

ここで疑問が生じる。行政(官僚)にそのような能力はあるのか。…上記のような整理の仕方は問題である。国会議員は能力がないが官僚には能力があるとか、国会議員は能力があるが官僚には能力がないなどといっても、いずれも「程度問題」であろう。0か1かではない。

それでも、国会議員よりは官僚のほうが立法能力があるように感じる。官僚がどこを向いて仕事をしているかである。時の政権に媚びへつらう官僚は論外であるが、感情に流されず冷静に議論できる官僚はもう少し評価されてもよいかもしれない。彼らを行政官と見るのではなく、法案作成ブレーンとして位置付けるべきか?

 

  • 国会単独立法の原則との関係で議論があるのは、法律案の発案権が議員のほかに内閣にも認められるか、ということである。実務は内閣の発案権を認めているが、法律案の発案も立法の一部だとみれば、内閣に発案権を認めるのは国会単独立法の原則に反する。
  • 実際的な観点からいうと、行政の専門化・高度化の進んでいる今日、法律案の作成過程から行政を排除することは現実的ではなく、また妥当でもない。

行政の専門化・高度化が進んでいるとは思えない。「ルール」を決める際に考慮すべきことが専門化・複雑化・高度化しているというべきだろう。従って、「法律案の作成過程から行政を排除しない」というのではなく、行政が保有するデータを有効活用する、というべきではなかろうか。

内閣を行政機関と考える限りは、立法の一部である法律案の発案を認めるのには疑問がある。