浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

COVID-19:「症状なき感染者」は、「未病」である。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(23)

COVID-19を広い視野で考えるために、前回に引き続き「病気」について少し勉強しよう。

■正しく恐れる

■冷静な頭脳と温かい心

 

病気の3つのカテゴリー

医師で医学博士の岡本裕は、病気は3つのカテゴリーに分類できると述べている*1。 

カテゴリー1

医者が関わっても関わらなくても治癒する病気

カテゴリー2

医者が関わることによってはじめて治癒に至る病気

カテゴリー3

医者が関わっても関わらなくても治癒に至らない病気

  • 開業医や市中病院の医者が日常診察で遭遇する疾病のほとんどは、カテゴリー1にあたる。(少なくとも70%以上、多ければ90%以上)
  • カテゴリー1の患者は、「おいしい患者」(医者がいなくても、治る人は治っていた患者)である。手間はかからず。薬を飲み続け、診療にも繰り返し来てくれる。
  • 救命救急疾患や癌などは、カテゴリー2に入る。カテゴリー2に入る病態や疾患は、医者の本領を遺憾なく発揮できる格好の領域である。患者も医者を信頼し、医療に期待する領域である。
  • カテゴリー3に入る状態をカテゴリー2に変えていく仕事も、医者にとってやりがいがある。
  • 的確な診断(トリアージ*2)を下すことは、医者の大切な使命である。明確かつ正確に患者をカテゴリー分けすることである。
  • 医者にかからなくていい人をかからなくていいと断定することは、医者の大切な仕事である。

医者が関わっても関わらなくても治癒する病気が多数を占めるということは留意しておいていい。風邪などで医者に診てもらったことのある人なら実感としてあるだろう。

「おいしい患者」の話は、「医療制度」に関わる話であり、別途考えることにしたい。

病気の分類はいろいろある(Wikipedia参照)。岡本の上記カテゴリーは、「医療による要・不要による分類」として、Wikipediaで紹介されている。

 

健康とは

  • 健康とは、「朝の目覚めが良く、体に痛みや違和感もなく、食事をおいしく摂ることができ、排泄もスムーズで、仕事や勉学への意欲があって、不自由なく活動ができ、人に思いやりを持つことができ、そして夜には穏やかに眠りにつける」状態である。

この「健康」の説明は、平易であるだけでなく、「深い意味」があるように思える。

  • ただし、私たちが日常生活で求められる健康な状態というのは、必ずしも完全無比で、完璧な不動の状態を指すのではない。
  • 私たちの体の中では、毎日癌細胞が発生している。しかし、癌患者ではない。何故か? それは発生した癌細胞が、うまく成長することができないからである。つまり癌抑制遺伝子が働いて、正常な細胞に引き戻されるか、そうでなければリンパ球やマクロファージによって悉く処理されてしまう。

癌細胞があるだけでは癌患者ではない! (患者:病気で医者の治療を受ける人。病気にかかっている人)

  • 生体というのは、物質の出入りのない固定した塊ではない。体を構成している細胞も原子も分子も、常に入れ替わっている。変わっていないように見えるのは、同じ状態を保とうとする力が備わっているからである。これを「恒常性」(ホメオスターシス)が保たれているという。そしてこの恒常性あるいは健全性を保とうとする力を「自己治癒力」と呼んでいる。 
  • この「恒常性」は、生物を無生物と区別する一つの大きな特徴である。この恒常性が健全に保たれている快適な状態を「健康」と言い換えることができる。一方、「病気(疾病)」というのは、恒常性が崩れてしまって、元に戻らなくなっているか、あるいは元に戻りづらくなっている状態である。

この「恒常性」と「自己治癒力」という言葉は覚えておきたい。私はこれまで「免疫力」という言葉を使ってきたが、「自己治癒力」という言葉がより適切であるようだ。

 

未病

  • 「未病」とは、恒常性が崩れかけていて、そのまま放っておけば完全に崩れてしまうような危うい状態を指す。
  • 「未病」を軸に、体の状態を要約すると、次のようになる。

状態1(健康)

恒常性が健全に保たれている状態

状態2(未病)

恒常性が崩れかけている状態

状態3(病気)

恒常性が崩れ、そのままでは元に戻らなくなっていて、悪化している状態

未病については、前回記事でもふれた。イメージ図を再掲する(ただし、上下を反転させた図に改変)。

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  • それぞれの間にはっきりした境界があるわけではなく、連続的に移行している。
  • 「未病」と診断されるのは、検査で明らかな異常がなく、明らかな症状もないが、少し調子の悪い状態で、病気になる前段階の心身の微妙な変化を指す。
  • 本物の医者は、発病してからではなく未病の段階で異常を察知し、速やかに対処する。
  • 西洋医学は、未病を見逃し、発病して初めて治療に取り掛かる。即ち、検査で異常が発見されるか、明らかな症状が出るようになるまでは、病気とはみなさない治療の対象にもならない
  • 西洋医学は火事が発生してから対処しようという考えである。中医(中国伝統医学)*3は火事になりそうな危険な場所をあらかじめ点検したり、燃えそうな建材はあらかじめ不燃材に交換したりしておこうという考えである。

前回記事で紹介した日本未病学会の未病の分類:(1)未病Ⅰ(西洋型未病)自覚症状はないが、検査では異常がある状態  (2)未病Ⅱ(東洋型未病)自覚症状はあるが、検査では異常がない状態 は、覚えておきたい。

岡本は、「西洋医学は、未病を見逃し、発病して初めて治療に取り掛かる。即ち、検査で異常が発見されるか、明らかな症状が出るようになるまでは、病気とはみなさない。治療の対象にもならない」と述べているが、この説明だと、「自覚症状はなくても、検査で異常が発見される」と「病気」に分類されるようだ。しかし、これは日本未病学会が言う「未病Ⅰ」(西洋型未病)に分類するのが適切だろう。

COVID-19の「無症状の感染者」は、まさにこの「未病Ⅰ」に該当する。検査精度の問題はさておいても、これにどう対処するか。更にCOVID-19が「未病Ⅱ」である可能性についてはどうだろうか。ここに言及した話は聞いたことがないのだが…。治療すべきなのか。自己治癒力を高めるのか。

 

自己治癒力

  • 中医の考えは、自己治癒力を高めることである。
  • 慢性疾患(癌、心疾患、脳血管疾患、アレルギー疾患、メタボリックシンドローム膠原病など)は、西洋医学的な治療法だけでは限界があり、根本治療も困難である。根本治療には、生活習慣などを是正し、自己治癒力を高めることが不可欠である。

「生活習慣の改善」とか「生活習慣病の予防」とかは、よく聞く話である。これは「未病」を予防し、「自己治癒力を高める」方策であると理解しておこう。

  • 生活習慣の是正とは、運動、食習慣の是正、ストレス対処などである。これをせず、薬をのみ続けていると、状態3(病気)になる。(医者に行くなということではなく、医者に頼る前に「未病」であるかを確認し、そうであれば、努力をして生活習慣や考え方を是正することが大切である)。
  • 自己治癒力とは恒常性を保つ力であり、人は誰でも潜在的に持っている。自己修復能力、復元力、元に戻る力と言ってもよい。しかし、自己治癒力は、年齢を重ねるごとに低下していく[老化]。40を過ぎ50の声を聞くころには無茶はもちろん無理もきかなくなってくる。

自己治癒力は老化により低下する。遺伝子に組み込まれているのだろう。イメージ図を参照のこと。縦軸は年齢を表すと考える。遺伝や病気や薬の副作用などにより、老化と同様に自己治癒力が低下していることも考えられる。

COVID-19による死者は、自己治癒力の低下した人がほとんどであると考えられる。

  • 自己治癒力を高めること。風邪を例にあげれば、直ちに仕事をやめて体を温かくして、水分や栄養を補給しながら、体を休めること。つまり、病気(疾病)が治るには、必ずしも医者が必要だというわけではない
  • しかし、例えば急性硬膜外出血のような場合は、医者の助力が不可欠である。緊急に手術をしなければ、確実に患者は死ぬ。ただ、ここで確認しておかなければいけない点は、医者は治るきっかけを作っただけであって、医者が治したのではないということである。出血があまりにも早く、自己治癒力で対処していては手遅れになってしまう状況下においては、時間稼ぎも必要(物理的に血痕を取り除く)。時間稼ぎをしながら、自分で治す力がうまく働く環境を設定してあげる働きを医者が担っている
  • 何を隠そう正直に白状すると、医者は病気を治せないのである。医者ができることは、ただ患者が治るきっかけを作るだけ。後は患者の自己治癒力が病気を治すのである。したがって、適切なきっかけを作ることができるのが名医ということになる。自己治癒力が乏しい場合には、いくら名医であっても治癒へと導くことは難しい。

確かにそうだ。医者や薬に頼るのではない。自己治癒力を信頼し、高めることが肝要である。ただし、「老化」は受け入れること。

 

風邪は自分で治せる

  • 今は、風邪をひいたからといって、病院や医院で必ず受診する人は少ない。体を温かくして、十分に水分と栄養を補給して体を休めれば、2~3日もすれば治癒する、などということは常識である。発熱はまっとうな生体反応であって、解熱するとそのまっとうな生体反応を妨げることや、あるいは抗生物質そのものは風邪の治癒に全く関与しないことが常識として広く行き渡っている。
  • 風邪は、まさにカテゴリー1[医者が関わっても関わらなくても治癒する病気]の典型的な例である。ただ、中には風邪も医者が治してくれるものだと固く信じている人たちもいまだ皆無ではない。そのため、多くの医者たちは、仕方なく注射をうったり、抗生物質や解熱剤の処方をしたりしている。風邪をひいて、不要な解熱剤を用いたり、抗生物質をのんだりすると、自分で治す力が著明に妨げられる。医者が余計なことをしないほうが、風邪はずっと治りがいい。
  • ただし、風邪であっても、養生することなく(体を休めることなく)無理に仕事を続けていたりすると、場合によっては恒常性を保ちきれなくなって、二次的に細菌感染などをひきおこし、気管支炎や肺炎などになってしまうこともある。

COVID-19は風邪ではない。インフルエンザでもない。SARSに似たコロナウイルス感染症で、呼吸器疾患を引き起こす病気だという。無症状のウイルス保有者は病気なのか。では、どういう症状がでるのか。

  • 最もよくある症状:発熱、空咳、倦怠感
  • 時折みられる症状:痛み、喉の痛み、下痢、結膜炎、頭痛、味覚または嗅覚の消失、皮膚の発疹、または手足の指の変色(WHO)

普通の風邪やインフルエンザとどこが違うのか。どう判別するのか。最もよくある症状が出たとき、カテゴリー1[医者が関わっても関わらなくても治癒する病気]と判定してはいけないのか。

 

カテゴリー1とカテゴリー2の違い

  • 私たちが自己治癒力を高める術を十分熟知していて、なおかつ自分で行うことが可能な状態がカテゴリー1[医者が関わっても関わらなくても治癒する病気]となる。
  • そして知識の有無にかかわらず、自身でなかなか対処できないものがカテゴリー2[医者が関わることによってはじめて治癒に至る病気]となる。つまり緊急措置が必要なもの、特殊な技能を要するもの、そして広範囲な知識を要するもの、さらに総合的な知識が必要なものが、カテゴリー2に分類される。要するに、医者という専門家の介入がどうしても必要な疾患(病態)である。
  • 具体的には、災害外傷、脳出血脳梗塞くも膜下出血狭心症心筋梗塞、大動脈瘤、伝染病、急性薬物中毒……そしてもちろん、癌などが挙げられる。また、救急治療や感染症の治療のように、短期間の勝負であると同時に、治療法が一つか、複数であっても選択肢が数少なく、しかも治療法が一様に決まっているものがある。
  • 外傷の場合は、心肺機能の確保や止血の処置が第一優先(薬剤の投与や手術)。感染症の場合、最終的には免疫力を高める必要があるが、まずは抗生物質などで現状を打開することが第一優先となる。
  • 体に優しい根本治療を施す前に、まずは救命が優先するので、少々のリスクを伴うにしても短期勝負が可能な手術や薬剤などを先に用いる。いわゆる対症療法をまずは用いる。
  • 西洋医学(現代医学)は、対症療法の医学・医療と捉えてよい。今ある症状を速やかに解消させることを主な目的とする。救急救命、再建手術、そして画像診断などにおいては素晴らしい力を発揮するし、他の手法の追随を許さない。

「自覚症状」があり、「検査異常」があれば、「病気」として、「対症療法」を施すことになろうが、どちらか一方が欠ければ、「未病」として、それなりの対処をすればよいと思われる。何がそれなりかは議論があろうが、「恒常性」を根拠に「自己治癒力」を高めることが基本であろう。

COVID-19対策は、「他の感染症」、「他の病気」、「他のリスク」に対する対策とのバランスを考慮しなければならない。

*1:2009年、『9割の病気は自分で治せる』より。

*2:トリアージ(選別)…重症度によって患者を振り分ける意味に用いられる。

*3:中医」と「漢方」は異なる。「漢方」とは、江戸時代末期に蘭方医学(近代西洋医学)が日本に導入された際に、それ以前からあった日本の伝統医学である。(元をたどれば中国から伝わったので「漢方」という)。