浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

賃金格差の現状

香取照幸『教養としての社会保障』(14)

今回は、第4章 変調する社会・経済 第4節 長期不況・デフレのインパクト-格差社会の出現 である。

香取は、「デフレは賃金を直撃しており、実質賃金が下落している」と述べているが、「デフレ」が「賃金」とどのように関連しているのかは、詳細な検討を要するテーマなのでパスする。

本節のサブタイトルに「格差社会の出現」とあり、「給与所得者の二極化」(格差の顕在化と拡大)について、以下のような説明がある。

  • 格差は賃金に留まらず、資産格差、世代間格差、世代内格差へと拡大している。
  • 背景にあるのは、雇用形態の変化(従業員の非正規化の進行)である。
  • その結果、本来社会を支えるべき中間層が急速に薄くなり、貧困層が増加している。
  • 格差の拡大は、社会に大きな歪みと混乱を招いている。

格差は昔からある。その格差が「拡大」しているかどうかは、データで検証しなければならない。

格差の拡大が「社会に大きな歪みと混乱を招いている」というのは、香取の印象論だろう。ある人にとっては「歪みと混乱」に思えるかもしれないが、別の人にはそう思われない。

メディアの報道(特に、派遣や非正規労働の話題)や、膨大な「格差」(そして「貧困」)に関連する論文・著作、にも関わらず、格差(貧困)が解消に向かっているようには思われない。何故か?

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https://newswitch.jp/p/16549

 

香取は、給与所得者の給与階級構成比の年次比較の数表を掲載している。このデータは古いので、最新のデータを見てみよう。

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データは、国税庁の「民間給与実態統計調査」である。(統計表、第3表「給与階級別の総括表」その4「給与所得者の構成比」、https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2018/minkan.htm、注意事項はhttps://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/top.htm#b-00 参照)

 

これを見ると、この10年間、構成比の変化はほとんど無く、格差が拡大しているとは言えない。

香取は、1999年と2009年を比較していたのであるが、それによると中間所得層(400万円~1000万円)が(構成比で)9.8%減少し、低所得層(400万円以下)が12.3%増加していた。それゆえ、「賃金が大きく二極分解し、賃金格差が開いている」と言っているのであるが、これを上掲の表とつなぎ合わせて考えれば、「拡大した賃金格差が解消に向かうことなく固定している」と言える。

以上は、一面的で雑な議論であるが、一つの見方ではあるだろう。

ただし、格差が解消に向かわないのは何故かという当初の疑問に何ら答えるものではない。