浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

お金で動かそうとする人たち・お金でしか動かない人たちが、組織/社会をダメにする

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(16)

今回は、第3章 競争はより生産的なものなのだろうか-協働の報酬 第2節 競争がなにもならないものだという説明 の続き(p.98~)である。

 

動機づけ

本書を読む前に、動機づけ(motivation、モチベーション)に関する、STUDY HACKERの解説*1を見ておく。

  • 動機づけ…ある目標に向かって行動を起こし、目標の達成に向けて行動を持続させる過程。
  • 内発的動機づけ…なんの見返りがなくても「おもしろい」「もっとやりたい」といった、その行動自体から得られる快感や満足感が行動の動機を与えること。
  • 外発的動機づけ…「賞賛されたい」「賞金が欲しい」といった報酬を得るため、もしくは「怒られたくない」「罰を受けたくない」といった望ましくない結果を避けるために行動する気持ちになること。(例えば、給料のためにしぶしぶ会社へ行ったり、家族に叱られたくなくて仕方なく学校へ行ったりすること)

動機づけ(モチベーション)とはこういう意味であると理解しておけば、コーンが述べていることを理解しやすくなるだろう。

 

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https://coach.co.jp/view/20201202.html

 

アンダーマイニング効果(undermining effect*2

「競争的な活動をする場合には、報酬はまさに『勝つこと』(即ち、他の人間や他のチームを打ち負かすこと)なのだから、実際のところ活動そのものに対して外的なのである」。(E.デシィ)

「報酬=勝つこと」は、外的な動機づけの誘因となる。スポーツ選手によくみられる。そしてマスメディアは、勝者を称賛する。オリンピックでは、メダルをとることが目的となる。

外的な動機づけの誘因を利用すると、実際には動機づけを掘り崩してしまう傾向があり、そのため長い目で見れば作業の遂行に逆効果を与えてしまう。例えば、金銭的な報酬がもたらされると、内的な満足に取って代わるようになるだろう。けれども、以前には作業を遂行するのに何の報酬も求めなかったように、一旦こうした報酬が与えられるようになると、報酬が与えられなければ、活動が行われなくなってしまうだろう。

金銭は、「ある活動を行おうとする内的な動機づけを『買収してしまう』ように作用するだろう(E.デシィ)」。

言い換えれば、外的な動機づけの誘因は、非効率なだけでなく、腐食性を持っているのであり、成果を生み出すような動機づけを蝕んでいくのである。

競争は、ある時点で与えられた課題に対する集中力を分散させてしまうだけではない。長い目で見れば、その課題に対する関心を弱め。その課題の実現を覚束なくしてしまうのである。

これは「アンダーマイニング効果」と呼ばれる。「給料(お金)のために働く」、「努力をお金で報いる」というのは、広範にみられる事例である。

学びたいと思っている子供たちの情熱を台無しにしてしまうのは、われわれ大人たちなのである。幼い子供たちでも、学びたいという情熱は激しいものがある。金星をもらうこと、テストで満点を取ること、作品が張り出されること、通信簿にAが並ぶこと、…など、とるに足りないような卑しい報酬、要するに自分たちのほうが他の誰よりも勝っていると感じる下劣な満足感のために努力するように励ましたり、強制したりすることによって、子供たちを駄目にしてしまうのである。

競争観念に支配されている大人は、「卑しい報酬」とか「下劣な満足感」などという言葉に反発するだろう。「卑しい」とか「下劣」と言うこと自体、偏った見方だと主張するだろう。

 

エンハンシング効果(enhancing effect*3

内発的動機づけと外発的動機づけに関係している心理効果としての「エンハンシング効果」を理解する必要がある。先ほどのSTUDY HACKERの解説によると、

エンハンシング効果とは、報酬などの外発的動機づけを利用して、結果的に活動自体から得られる快感や満足感といった内発的動機づけを高めること。例えば、評価や昇進のために努力しているうちに、仲間と協力してひとつのプロジェクトを成し遂げる楽しさや、仕事に打ち込むことの充足感を知り、プロジェクトの遂行自体に夢中になってしまう。

「褒める」「賞品を用意する」などで外発的動機を与えるほうが、「叱る」「罰則を与える」などよりも効果的にやる気が生じる。

(報酬に結びついている)評価や昇進のために努力するうちに、仕事の面白さを体得するかもしれないが、外発的動機づけが内発的動機づけに転換するわけではなく、併存の状態になるのではないかと思われる。

 

内発的動機づけ

STUDY HACKERは、溝上慎一の教育論より、内発的動機づけを阻害する要素と、内発的動機づけを高める要素を紹介しているが、これはかなり具体的で参考になる。

内発的動機づけを阻害する要素…監視されること。提出〆切を設けられること。ルールや制限を設けられること。目標が課せられること。指示・命令されること。競争があること。評価されること。

内発的動機づけを高める要素…楽しいと感じること。励ましを受けること。肯定的なフィードバックが得られること。

 組織の中で仕事をしている人(仕事をしたことのある人)なら、思い当たるところがあるだろう。内発的動機づけを高めようとしている組織は居心地がよい。逆に(内発的動機づけを阻害する)管理・統制が強い組織は居心地が悪い。

お金で動かそうとする人たち・お金でしか動かない人たちが、組織/社会をダメにする。

*1:https://studyhacker.net/enhancing-effect

*2:undermining…蝕む、弱体化させる、台無しにする。

*3:enhancing…高める、強化。