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OVID-19:「Go Toトラベル」は、感染拡大をもたらしているのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(51) Q&A(9)

Q&A[素人の自問自答]の9回目です。Go To に関しては、今さらという感じですが、今後のために「論理と証拠」の観点から再度とりあげます。Q8の続きとなります。

 

Q8-4:東大の共同研究チームが、「Go Toトラベル事業が、新型コロナ感染拡大に寄与している可能性がある」という内容の調査研究論文*1を公表(2020/12/7)しています。これは、統計学的に有意な事実であり、有力な証拠と言えるのではないでしょうか?

A8-4:東大研究チームの論文内容は以下の通りです。

  • 研究メンバー:宮脇敦士(東京大学大学院医学系研究科)、田淵貴大(大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)、遠又靖丈(神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科)、津川友介(カリフォルニア大学ロサンゼルス校[UCLA])
  • 調査:15−79歳を対象としたインターネット調査。2020年8月末〜9月末に実施。GO TOトラベルの利用経験(過去1−2ヶ月以内の利用の有無)と、過去1ヶ月以内に新型コロナを示唆する5つの症状(①発熱、②咽頭痛、③咳、④頭痛、⑤嗅覚/味覚異常)を経験していた人の割合との関連を調査。性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた
  • 調査結果:Go To トラベルの利用経験のある人は、利用経験のない人に比べて、新型コロナを示唆する5つの症状を、より多く認めていた。

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  • 評価…この結果は、Go To トラベル事業の利用者は非利用者よりも新型コロナに感染するリスクが高いことを示しており、Go To トラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性があることを示唆している。…このことは、Go To トラベル事業が、新型コロナ感染拡大に一定の影響がある可能性があることを示唆している。現在のGo To トラベルのやり方は新型コロナ感染リスクの高い集団にインセンティブを与える形となっており、感染者数の抑制のためには、対象者の設定や利用のルールなどについて検討することが期待される

 

NPO食の安全と安心を科学する会」*2の山崎毅は、この調査について、次のように述べています。

比較した2つの群は、旅行以外の生活様式について、以下の偏りが起こっているのではないかという疑いがある。

Go Toトラベル利用者 ⇒ 普通に外出している方が多い

Go Toトラベル非利用者  ⇒ ほとんど外出していない巣ごもり状態の方が相当数いる。

もしGo Toトラベル非利用者の中に、まったく外出をしていない巣ごもり状態の方々が相当数いるとすると、最初から感染(発症)するはずのない方が含まれるので、有症率が低くなるのは当たり前である。

今回対象とした疑義言説:「Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに」は事実であったものと評価できますが、本研究発表について査読を受けることなく公表し、「 Go Toトラベル・キャンペーン 」という公共政策により新型コロナ感染症の感染が拡大している(因果関係がある?)かのように公表することは、不正確/ミスリードと言わざるを得ない。

研究チームは、自ら本研究の限界点を挙げています。

  1. Go To トラベルの利用が直接的に新型コロナ症状の増加につながったという因果関係は断定できない
  2. Go To トラベルの利用と新型コロナ症状の発生率との間の時系列的関係が不明
  3. 新型コロナ症状を持つ人が、必ずしも新型コロナに感染しているわけではない
  4. 新型コロナ症状を持つ人が、その原因としてGo To トラベルの利用を思い出しやすい可能性(思い出しバイアス)等。

研究チームは、このような限界点を認識しているにもかかわらず、以下のように結論付けています。

今回の研究では、政策というマクロなレベルでGo Toトラベル事業が日本の新型コロナの感染者数の増加の主な原因であるかは分からないものの、個人レベルではGo Toトラベルを利用している人ほど新型コロナ感染リスクが高いことが明らかになりました。

 

山崎毅は、<エビデンスチェックから導かれる事実検証の結論>を、以下のように述べています。

データ抽出方法に関して明らかに偏りがあり、「Go Toトラベル非利用者」の群のみに全く外出していない巣ごもり状態の市民が相当数含まれるとすると、著者らの「個人レベルではGo Toトラベルを利用している人ほど新型コロナ感染リスクが高い」という結論に関しても疑問符がつく。

これらの点を総合的に評価すると、ファクトチェックのレベルは「不正確(レベル2)」である。

<SFSSファクトチェック・判定(レーティング)基準表>

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私は、次のように考えます。

  • 研究メンバー…肩書によって判断する人は、内容を吟味せず、研究チームの結論を無条件に正しいものとして受け入れるでしょう。
  • 調査対象…インターネット調査であることによる偏り、山崎が指摘するようなGo Toトラベル利用者・非利用者の特性への無配慮による偏りが考えられます。
  • 調査項目…5つの症状は、新型コロナを示唆する特有の症状とは考えられません。(普通の風邪やインフルと同じ)。また症状の有無は本人申告の主観的なものであり、客観的なデータとは考えられません。ゴミとまでは言わないまでも、元データがいい加減なものであれば(詳しいことは分かりませんが)、いかに正確な統計解析をしようと信用できません。
  • 「性別・年齢・社会経済状態・健康状態などの影響を統計的に取り除いた」ということですが、これはよくわかりません。(論文には書かれているのかもしれませんが、読んでないのでわかりません)
  • 限界点…研究チームは、本研究の限界点を知りながら、研究結果を公表することには、「政治的な意図」を疑われても仕方がないと考えられます。
  • 限界点1(因果関係)…研究チームは、因果関係を「断定できない」と言っていますが、直接的な因果関係がないことは、中学生でもわかることです。上に引用しなかったのですが、次のような<研究者のコメント>が書かれています。

今回の結果は、以下の2通りの解釈が可能です。

① Go To トラベル利用によって新型コロナ感染のリスクが増加した可能性 

② 新型コロナの感染リスクの高い人の方がより積極的にGo To トラベルを利用している可能性

①である場合、Go To トラベル事業そのものが新型コロナの感染拡大に寄与しているということになります。

②の場合はGo To トラベル事業は新型コロナの感染拡大の直接の原因ではないものの、新型コロナに感染しているリスクが高い人が移動していることを示唆しているので、その結果として間接的に新型コロナの感染拡大につながっている可能性があります。

  • 限界点1(因果関係)(続)…①である場合云々の説明が理解できません。「今回の結果が、Go To トラベル利用によって新型コロナ感染のリスクが増加した」と解釈されるならば、「Go To トラベル事業そのものが新型コロナの感染拡大に寄与しているということになる」。はぁ? トートロジーではないですか?
  • 限界点1(因果関係)(続)…②はありうることだと思います。「間接的に新型コロナの感染拡大につながっている可能性があります」というのは、そうかもしれません。そうだとすると、【Go To トラベル】⇒【X】→【感染拡大】の因果系列の【X】に言及しなければならないでしょう。【X】を明示的に分析せずに、【Go To トラベル】と【感染拡大】の相関を論じても、因果関係にはなりえないでしょう。【風が吹く】と【桶屋が儲かる】の相関を論じるようなものです。
  • 限界点2(時系列的関係)…「Go To トラベルの利用と新型コロナ症状の発生率との間の時系列的関係」と言うが、「発生率」ではなく「発生」ではないか。「発生」だとすると、「トラベル利用日」と「症状発症日」の時系列的関係が不明だと言っているのでしょうか。トラベル利用後、全く別の会食が原因で発症した場合を含めているのでしょうか。これが不明では、この調査の信頼性は全くないと言っていいでしょう。(これが誤解なら訂正します)
  • 限界点3(新型コロナ症状を持つ人が、必ずしも新型コロナに感染しているわけではない)…はぁ? 「Go Toトラベル利用」と「新型コロナ感染リスク」の関係を分析するのが目的ではなかったのでしょうか。新型コロナ症状を持つ人が、必ずしも新型コロナに感染しているわけではないのなら、「Go To トラベル事業が新型コロナ感染拡大に寄与している可能性がある」などとは言えないでしょう。それでも「可能性がある」と言うのならば、どれほどの可能性があるのかを数値で示すべきでしょう。
  • 限界点4(新型コロナ症状を持つ人が、その原因としてGo To トラベルの利用を思い出しやすい可能性)…Go To トラベルを利用したかどうか忘れるなどということはありえないでしょう。
  • 山崎は、「Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに」は事実であったものと評価できると述べているが、私は上に述べたところから、この意見には賛同できません。
  • また「査読」を受けることなく公表したことを問題視しているようですが、私は査読を受けようが受けまいが、そんなことは関係なく、このような内容の論文を公表することに「政治的意図」を感じます。
  • 以上から私は、「言説の重要な事実関係について科学的根拠に欠けている」「事実に反しているかどうか不明である」「一見もっともらしい数字をあげて、ミスリーディングを誘っている」「フェイクかもしれない」と評価します。
Q8-5:研究チームの「政治的意図」とは何ですか?

A8-5:<研究者のコメント>で、次のように述べられています。

Go Toトラベルのような政策をより適切に行うためには、なるべく感染リスクの低い集団の経済活動を喚起するように制度設計すること(Go Toトラベル利用者は登録制にしてCOCOAなどの追跡システムを用いて感染拡大をコントロールする・流行地発着の除外・感染伝播リスクの高い集団の利用を一時的に制限・感染伝播リスクの高い集団で旅行前のPCR検査の義務化など)が望ましいと考えます。

私は括弧書きの赤字にした部分に「政治的意図」を感じてしまいます。政治的意図とは、Go Toトラベル批判から、「検査・隔離・追跡」の流れです。

  • COCOAなどの追跡システムを用いる。
  • 流行地発着を除外する。
  • 感染伝播リスクの高い集団で旅行前のPCR検査の義務化する。

これはGo Toトラベルに関連しての言及ですが、「人の移動」に関して適用可能な話です。

なお私は、現時点では、「検査・隔離・追跡」を100%否定も肯定もしていません。

 

Q8-6:調査結果の数表に「オッズ比」というのがありますが、これは何ですか?

A8-6:「オッズ比は、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である。オッズとは、ある事象の起こる確率を p として、p/(1 − p) の値をいう。オッズ比はある事象の、1つの群ともう1つの群とにおけるオッズの比として定義される」(Wikipedia)。発熱について見ると、下表のように1.3となります。

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「Go Toトラベルの利用者のほうが、利用しない人より、発症しやすい」という意味です(1.3倍、発症しやすいという意味ではないが、発症率が低いとき、相対危険の近似式として用いられるそうです)。A8-4の数表の欄外の数字(赤字)がそれです。(統計学をまともに勉強していませんので、にわか仕込みの知識です)。

論文では、オッズ比は1.9となっていますが、何故なのかわかりません。どなたか、どういう計算なのか教えていただけるとありがたいです。

*1:https://healthpolicyhealthecon.com/2020/12/06/go-to-travel-and-covid19/

*2:Go Toトラベル利用者の方が、新型コロナウイルス感染症を示唆する症状をより多く経験していることが明らかに⇒「不正確」~SFSSが東京大学UCLA疫学調査研究をファクトチェック!~(2020/12/12、http://www.nposfss.com/cat3/fact/go_to_travel.html)…「NPO食の安全と安心を科学する会」山崎毅によるファクトチェック(事実検証)。