浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

COVID-19:中国・石家荘市の都市封鎖とPCR検査

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(55)

コロナ・パンデミックを、いかに「冷静に、客観的に」見ることができるでしょうか?

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なぜTaylor Swiftの写真がこんなところに出てくるのか?

ブルーな眼」を表現したくて、Taylor Swiftを選んでいます。「ブルー」というのは、「冷静、沈着、知性」の意味です。彼女の歌は、私の好みではありませんが、「民主党支持」発言*1(2018/10/7、11月の中間選挙を前に)で、意外な感じがしてとりあげています。

 

1.石家荘市の都市封鎖

最近のコロナ・ニュースで、意外なことがあります。それは「緊急事態宣言」の話題ばかりで、中国・河北省の省都、石家荘市(せっかそうし)の「都市封鎖」(2021/1/8~)があまり大きく取り上げられていないことです。(石家荘市は、北京に近い、人口約1100万人の都市)

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  • 新華社電によると、石家荘市当局は1月8日、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、全市民1100万人に7日間、自宅にとどまるよう(外出禁止の)通知を出した。中国としてはこの冬初めての大規模な都市封鎖である。
  • 車両が市の外に出ることは禁じられ、公共交通機関も9日午前までにすべて運行を停止した。
  • 石家荘以外でも河北省の住民が北京市内に通勤する場合は14日以内のPCR検査の陰性証明などを持つ必要がある。(2021/1/9、TBS NEWS、共同通信
  • 石家荘市では、1月6日にすべての住民1100万人を対象とするPCR検査を開始し、1月9日午前0時に第1回全員PCR検査を完了した。
  • 2021年1月2日から9日までに、感染者139人、無症状感染者197人が確認された。
  • 検査を受けた人は計1025万人で、陽性者は354人だった。
  • 石家荘市の馬宇駿代理市長は1月9日、「石家荘の第2回全員PCR検査をできるだけ早く開始する」と表明した。
  • 1月8日、PCR検査プラットフォームの「火眼(かがん)実験室(エアドーム型)が、わずか10時間で河北体育館テニス館に建設され、完成から11時間後に運用を開始した。この「火眼」は、1日最高100万人分のサンプルを測定できる。(2021/1/12、AFPBB NEWS

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上記コロナ対策に関して、在北京ジャーナリストの宮崎紀秀が、以下のような記事を書いています。

  • 石家荘では10日、新たに77人の感染が確認された。
  • 河北省の衛生健康委員会は、今回、新たな感染者77人全てに関し、把握した行動を公表した。氏名こそ伏せているものの、感染者の性別、年齢を示した上で、さすがに枝番まではないが住んでいる村などは分かる程度の大まかな住所と、感染が確認されるまでの場合によっては数週間の行動記録を発表した。その目的は濃厚接触者となった可能性がある人などへの注意喚起であろう。
  • 感染確認62号の26歳の女性のケース…去年12月19日からの行動が公表されているが、その日は10時23分に子供を病院に連れて行き、17時29分に赤ちゃん用品の店で買い物をした、という具合である。12月21日にはある店で中華まんじゅうを買った。日本風に言えば肉マンや餡マンなどの小麦の生地に具が入ったホカホカのあれである。実は、その中華まんじゅうの店は、女性のお気に入りだったようで、12月25日の12時54分、26日13時12分、31日には6時53分と12時03分、1月3日9時56分、4日10時19分と1月10日に感染が確認されるまで、合わせて7回買いに行っている。さらに、女性が別の店でも2回中華まんじゅうを買った事実が明かされている。…12月24日のクリスマス・イブには何をしていたかというと、17時53分に市場で食材を買い、その5分後に“お気に入り”の店とは違う店で中華まんじゅうを買った。さらにその4分後に鶏肉を購入。北京などの都会ではクリスマス・イブにおしゃれをして高級レストランで外食をする若者も増えたが、幼子を抱えると見られるこの26歳の女性は、家で家族とつましく中華まんじゅうを頬張ったのだろう。その他にも「携帯電話を修理に出した」や「自宅で10分間おしゃべりをした」といった事実が列挙されており、この女性の行動の範囲やパターンが目に浮かぶ。(2021/1/11、宮崎紀秀、肉まん好き26歳女性のプライバシーを丸裸にする中国のコロナ対策とは?

ジョージ・オーウェルの小説、『1984年』を想起する向きもあるでしょう。(私は、昔読んだことがあるが、内容は忘れてしまった)

 

2.感染症予防の3原則

小学校・中学校・高等学校で教えられることに、感染症予防の3原則というものがあります。「感染源の排除」「伝播経路の遮断」「免疫力の強化」がそれです。*2

  1. 感染源の排除…感染を引き起こす菌やウイルスは、感染している人や、その人の周囲の環境、使用している物品などに存在している。従い、患者(感染者)の隔離、汚染源の排除、消毒などにより感染源となるものを除去すること。
  2. 伝播経路の遮断…菌やウイルスを感受性宿主に運ぶ役割を果たすのが伝播経路である。主な伝播経路として「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」がある。従い、手洗いや咳エチケット、換気、食品の衛生管理などを徹底させ、体内に感染源(病原体)を入れないようにすること。
  3. 免疫力の強化…菌やウイルスが体に入ることで感染を受けやすい人を感受性宿主という。高齢や基礎疾患などによって免疫力・抵抗力が低下している人である。従い、バランスがとれた食事、適度な運動、規則正しい生活習慣を身に付けたり、予防接種を受けるなどして免疫力を高めること。

 

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環境衛生の必要性花王プロフェッショナル・サービス)

 

今回話題にしているのは、「防疫」(感染を広げないこと)の問題であり、「治療」(治療薬、ワクチン、医療体制等)の問題ではありません。「防疫」に限っても、上記3つに分けて考えると、頭が整理されると思われます。

大まかに言って、2番目の「伝播経路の遮断」に関しては、手洗い、咳エチケット、換気、ソーシャル・ディスタンスなど、(一部の例外を除き)かなり徹底しているでしょう。3番目の免疫力(抵抗力)の強化に関しては、ほとんど言及されません。1番目の「感染源の排除」、とりわけ「患者(感染者)の隔離」が最重要な論点だと考えますが、議論が錯綜しているようです。今回はこの「患者(感染者)の隔離」について考えようというものです。

 

3.隔離対象者は誰なのか?-患者(感染者)の隔離(1)

まず、隔離対象者は誰なのか? 患者なのか、感染者なのか、PCR検査陽性者なのかが明確ではありません。テレビ・新聞はこれらを区別せずに「感染者」と称しています。厚労省は、「PCR検査陽性者」を「感染者」と同じ意味に使っています。この言葉の定義に関して、異論があることを知っているはずなのに、説明がありません。これが、政府・厚労省感染症専門家等への不信につながっています。

検査・隔離・(感染ルートの)追跡」が、防疫(感染を広げないこと)の基本である、という考え方を採用している人にとっては、「PCR検査陽性者」が隔離対象者であることは、当然なことでしょう。検査陽性者を隔離する、これが感染源を断つことになるからです。また検査陽性者のまわりにいた人なども「感染を疑われる人」として隔離すれば、より対策が徹底されることになるでしょう。

分科会等の感染症専門家がめざしているのは、「検査・隔離・(感染ルートの)追跡」であるように見えます。そのような対策が「私たちの生活」にどのような影響を及ぼすのかの分析が欠落しているようです。感染源を断つことができればそれで良しという偏った議論であるように思います。

「補償」をセットにすれば良いという議論がありますが、どこからそのような「お金」が出てくるのでしょうか。政府が国債を発行し、日銀が「紙幣」を大量に刷ればどうなるか、真面目に考えた上での発言でしょうか。インフレになったら誰が被害を蒙るでしょうか。(この点は、金融・財政論を勉強したうえでこのブログでとりあげたいと考えています)

 

4.PCR検査で判定して良いのか?-患者(感染者)の隔離(2)

PCR検査には、偽陰性の問題(本当は陽性なのに陰性という結果が出る)があることは、かなりの人が知っています。偽陰性の人を「感染者ではない」と無罪放免することはできないということです。また本当に感染していなくても、1週間後には感染するかもしれない、翌日に感染するかもしれない、1時間後に感染するかもしれない、1分後に感染するかもしれない。従い、どれだけの頻度でPCR検査をすべきかが問題となるが、毎時間検査するというようなことは現実的ではないから、「最悪の事態を考慮して」、検査結果にかかわらずすべての人を「感染を疑われる人」として隔離すべしということになろうかと思います。

PCR検査にはCt値の問題があります。感染力のないウイルスでも、その存在だけで「陽性」判定されるという問題です。この問題提起に、感染症専門家の明快な説明を聞いたことがありません。これが、政府・厚労省感染症専門家等への不信につながっています。Ct値の問題を無視するのは、「最悪の事態を考慮して」、Ct値如何にかかわらず陽性者すべてを「感染を疑われる人」として隔離すべしという考えからであると思います。

いずれにせよ、誰か1人でも「PCR陽性者」が見つかれば、そのまわりの人すべて(その範囲は「市」、「区」、「郡」、「県」、「州」、「国」いずれでもありうる)を隔離するということになります。

「国」レベルで言えば、国境封鎖になります。日本の場合は、空港検疫の強化という話になります。

この文脈では、PCR検査の精度は問題になりません。「感染を疑われる人」はすべて隔離するということです。

 

5.中国の都市封鎖について

冒頭の石家荘市の都市封鎖について考えてみましょう。人口1000万人の大都市で、たったの数百人の感染者にもかかわらず、都市封鎖するということは、上述の「感染を疑われる人」すべてを隔離するという考えにたつものでしょう。

私は、これが中国人に受け入れられるのは、単に習近平独裁政権であるからというのではなく、(恐らく)都市封鎖されても、「職場を奪われるということがなく、生活が立ち行かなくなるということもない」からであろうと想像しています(間違っていれば指摘してください)。

日本や欧米諸国の都市封鎖との違いに、この「体制の違い」を無視できないでしょう。

ここで考えなければならないことは、もし「職場を奪われるということがなく、生活が立ち行かなくなるということもない」ならば、感染源を断つという意味において、「都市封鎖」は一つの選択肢であるかもしれないということです。

仮に、一国レベルでそのような「都市封鎖」がありうるとしても、それで済む話ではなく、国家間の交流がある限り、国際問題として対処すべきでしょう。

なお、以上の話は、「危険な感染症」という前提での話です。もし「危険な感染症」でなければ、以上の話は成り立たないでしょう。そして私はCOVID-19が「危険な感染症」であるという認識に疑問を抱いています。(簡単に言えば、免疫力のある人にとっては「ただの風邪」、免疫力の低下している人にとっては「危険な風邪」というのが、現時点での私の認識です)