浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

社会保障と経済成長

香取照幸『教養としての社会保障』(18)

今回は、第5章 社会保障GDPの5分の1を占める巨大市場 第1節 GDPに占める社会保障の規模 と、第2節 経済を支える社会保障 である。

香取は、本章の結論を先に述べている。社会保障は「単なる負担」ではなく、経済成長のエンジンたりうる、というのである。話を聞いてみよう。

 

GDPに占める社会保障の規模

  • データは少し古いが*1、2010年度の社会保障支出は104兆円で、GDP国内総生産)は479兆円なので、GDPに対して約20%の規模である。これは政府一般行政サービスの74兆円より大きい。また企業部門も家計部門も、税負担(直接税負担)よりも社会保険料負担のほうが大きい。

税と社会保険料という性格の異なるものを比較して、「直接税負担よりも社会保険料負担のほうが大きい」と言ったところで、「だから?」という問いは残る。

上記の数字と若干異なるが、次の図表が参考になる。以下、すべての図表は、https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/dl/1-01.pdf による。

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高齢化とともに社会保障支出(年金、医療、福祉その他)が急増している。数十年前から問題とされているのだが、解決(合意)は容易ではない。

 

経済を支える社会保障

  • 社会保障は「負担」という側面だけではなく、国民経済を支えている、あるいは経済活動それ自体の一つという側面もある。即ち、医療や介護、保育といった社会保障のサービスは雇用も生み出しているし、それ自体付加価値を生み出しているから、経済や産業と社会保障の関係は多面的に考える必要がある。

社会保障と言ったときに年金が大きなウェイトを占める(上図参照)が、ここでは「医療、介護、保育」が例示されている*2

社会保障が財・サービスの提供を伴うものであれば、当然に産業との関連がある。

  • 税と社会保障負担が国民所得に占める割合を国民負担率という。国民負担率が高いと経済成長に悪影響を及ぼすという見解があるが、実際には相関関係はほとんどない。(香取は、横軸に国民負担率、縦軸に経済成長率の国別データを示している)。

国民負担率(社会保障負担と租税負担の合計額の国民所得比)を、租税負担率社会保障負担率に分けてみると、社会保障負担率は一貫して上昇している。

潜在的な国民負担率財政赤字を含む国民負担率)も上昇傾向にある。

新型コロナパンデミックにより、さまざまな経済指標がどうなっているかは注目されるところである。

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  • 医療や介護、保育などの財源は税と社会保険料なので、国民の負担であることは確かであるが、同時にこれらの分野はサービス産業でもある。
  • 主要産業の市場規模(2013年)は、情報通信産業8兆円、自動車産業52.0兆円、建設産業48.47兆円、医療産業40.1兆円、不動産業30.4兆円、大型小売店19.8兆円である。(データの出所は省略)
  • ここで言う医療産業は、健康産業などの周辺産業を含まない文字通りの「医師・医療機関が提供する医療」である。これに介護の10兆円を加えると、自動車や建設産業を凌駕する市場規模である。大型小売店よりも大きい。

上記医療産業の数字は、「国民医療費」の数字であり、国民医療費とは「医療機関等における保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用を推計したもの」(厚労省)である。(なお、医薬品・医療機器産業は別で、その市場規模は、合計でおよそ13兆円)

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平成30年(2018年)の国民医療費は43.4兆円で、国内総生産(GDP)に対する比率は7.9%、国民所得(NI)に対する比率は10.7%である。

 

  • さらに、医療・介護の分野で、先端医療やデータヘルス計画などを通じたイノベーションが進行し、地域医療と介護基盤の強化が達成できれば2025年には市場規模は90兆円になると推計され、最も成長が見込まれる産業の一つでもある。この分野は全国あまねく需要があるため、一極集中はなく、地域経済の下支えをしている。今や社会保障(産業としての社会保障)を度外視した産業政策はあり得ない。

データヘルス計画(やカルテ情報の共有システム)は興味深いが、いずれ詳しくみることにしよう。

医療・介護がGDPとかに関連することは当然であるが、それが「成長産業」の一つであると強調することには違和感がある。

医療・介護は、あくまで「社会保障」の一環として考えられるべきものであり、「成長」が望ましいかどうかは別問題である。 

*1:内閣府作成の「2010年度 国民経済計算」による。最新データに置き換えても、香取が言いたいことは変わらないだろう。

*2:社会保障」と言ったとき、どういう分野がありどのように定義されているのか?

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https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/dl/1-01.pdf