新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(61)-「指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」へ(1)
※ 当ブログのCOVID-19関連記事リンク集 → https://shoyo3.hatenablog.com/entry/2021/05/06/210000
新型コロナウイルス感染症を、「指定感染症」の2類相当から5類に引き下げよという議論がかねてよりあったが、先月(2021/2/13)、新型コロナウイルス感染症は、「指定感染症」から「新型インフルエンザ等感染症」になった。この経緯について少し詳しく見ていきたい。
まず、新型コロナウイルス感染症を「指定感染症」として定める政令が、2020/1/28に公布された(内閣が制定・公布)のだが、この内容をみていこう。(「指定感染症」の2類相当がどういうものかを理解しておく必要がある)
その前日の2020/1/27に、第36回 厚生科学審議会 感染症部会が「持ち回り」で開催されており、そこで新型コロナウイルス感染症を「指定感染症」とすることが了承されている。議事録はない。
そこで、2020/1/24の第35回感染症部会からみていこう。
第35回感染症部会(2020/1/24)
この部会は、厚労省が新型コロナウイルス感染症に係る現状や取り組みにつき説明し、委員の意見を聞くというものである。
厚労省発表の2020/1/24 12:00現在の状況は次の通りである。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09093.html)
1.国外の発生状況について(新型コロナウイルス関連の肺炎と診断されている症例及び死亡例の数)
・中国、感染者830名、死亡者25名。
・タイ、感染者4名、死亡者0名。
・韓国、感染者2名、死亡者0名。
・台湾、感染者1名、死亡者0名。
・米国、感染者1名、死亡者0名。
・ベトナム、感染者2名、死亡者0名。
・シンガポール、感染者1名、死亡者0名。
2.国内の発生状況について
1例目の感染者は既に軽快。濃厚接触者は全て特定し、健康観察対象者としている。現時点で、当該感染者の健康観察対象者15名全員について感染者は確認されていない。健康観察は本日で終了予定。なお、当該感染者は外出時にマスクを着用していたことを確認済み。
本日(1月24日)、2例目の感染者が確認された。当該感染者の行動歴について調査が進められており、現時点で濃厚接触者2名を特定し、健康観察を実施しているが、感染者は確認されていない。なお、当該感染者は中華人民共和国湖北省武漢市在住の旅行者であるが、日本滞在中はほぼ常に部屋に滞在しており、移動時にはマスクを着用していたとのこと。
この他、海外で発生した感染者の接触者として3名が同定されており、25日に出国予定。
こういう状況を踏まえて「指定感染症」としたことに留意しておこう。
宮嵜健康局長が説明している。
本日未明、WHOの緊急委員会からは、今般の新型コロナウイルス感染症につきまして、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態PHEICに該当するとは判断されず、また、我が国を含む加盟国に対し、積極的なサーベイランス等の対策の実施とWHOとの情報共有などを求める助言が出されたところでございます。
厚生労働省といたしましては、この助言も踏まえまして、水際対策の徹底、原因不明の肺炎患者を把握して検査につなげる疑似症サーベイランスの確実な実施、国内の検査体制の整備、国民の皆さんへの迅速かつ適切な情報提供など、引き続き感染拡大の防止等に取り組んでまいります。
国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC: Public Health Emergency of International Concern)とは、
国際保健規則(IHR)に基づく、次のような事態。
(1)疾病の国際的拡大により、他国に公衆の保健上の危険をもたらすと認められる事態
(2)緊急に国際的対策の調整が必要な事態
・WHO事務局長は、当該事象が発生している国と協議の上、緊急委員会の助言等を踏まえ、PHEICを構成するか否かを認定し、保健上の措置に関する勧告を行う。
・勧告には、当該緊急事態が発生した国又は他国が疾病の国際的拡大を防止又は削減し国際交通に対する不要な阻害を回避するために人、手荷物、貨物、コンテナ、輸送機関、物品及び/又は郵便小包に関して実施する保健上の措置(例:出入国制限、健康監視、検疫、隔離等)を含めることができる。ただし、拘束力はなく、また勧告に従わない場合の規程等もない。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09093.html)
WHOは、2020/1/30に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)を宣言した。
「WHO『緊急事態』宣言 新型ウイルス肺炎と闘う」(時論公論)(https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/420460.html)
風邪のウイルスの潜伏期間は2~4日。主に鼻炎、上気道炎、下痢等を引き起こします。通常は重症化いたしません。治療は、特定の治療法がなく、対症療法の治療となっております。
SARS、MERSについては、感染経路がSARSについては、咳、飛沫、接触による感染以外に、便にも注意が必要ということが言われております。潜伏期間は2~10日がSARS、2~14日がMERS、上記症状に加えて、SARSでは高熱、肺炎。MERSでは高熱、肺炎、腎炎を起こし得る。治療については、先ほど申し上げた内容と変わりはございません。
潜伏期間(病原体に感染してから、体に症状が出るまでの期間)*2と治療方法に注意。SARSについても、特定の治療法がなく、対症療法の治療であるということ。
資料2(新型コロナウイルス関連感染症の対応について)*3の説明
水際対策、医療体制、国内サーベイランス、情報提供の説明があった。情報提供については、
情報提供として、国際的な連携を密にし、発生国における罹患の状況や感染性・病原性等について、世界保健機関や諸外国の対応状況等に関する情報収集に最大限の努力を払う。
国民に対して、引き続き迅速かつ的確な情報提供を行い、安心・安全の確保に努める。なお、情報提供を行う際には、感染者の個人情報の取り扱いには十分に留意するということを関係閣僚会議で決定しております。
国境を持たないウイルスに対処するのに、国家単位でしか対処できない現状が根本的問題であるという認識が必要である。仮に国家単位の対処を認めるとしても、他国の状況把握が必須であるのに、そのような情報収集・情報提供が不足しているように思える(WHOの機能不全?)。
資料3(WHOのEmergency Committeeの助言について)*4の説明
WHO緊急委員会の加盟国に対する助言の内容は、
封じ込めのために、積極的なサーベイランス、早期発見、患者の個室管理、適切な管理、接触者の健康観察等を含む対策を実施し、WHOにデータを共有すること。ヒトへの感染を減らすこと、二次感染及び国際的拡大を防ぐために、関係機関と連携すること等に重点を置くこと。WHOの渡航勧告に従うこと。この渡航勧告は、手洗いの徹底やマスクの着用など一般的な感染症対策を行うこと、海外渡航の制限はしないこととされております。
新型コロナウイルス感染症を「指定感染症」と定めるにあたり、このWHOの助言が大きく影響していると想像する(感染者数、死者数はほとんど影響していないだろう)。
この後の委員からの質疑応答のうち、ちょっと目についたところのみピックアップしておこう。
○脇田部会長 きょうからリアルタイムPCRの系が動き出しましたので、リアルタイムPCRで確定診断とするということにしています。
○大曲委員 現状のように、疑い例の定義を満たすだけの軽症の患者さんは疑似症サーベイランスには載せないということであれば、診療は何とかなります。ただ今後、疑い例の定義を変えて対象となる中国の地域を広げていくなどしていくと、疑い例が増え、疑似症サーベイランスに載る方が増えていき、その結果入院が必要になる方が増えてくると、医療機関にはかなりの負荷がかかるだろうと思っています。…感染症法で何らかの感染症に指定をするとなると、医療体制が大分変わってきます。端的には、特定の指定医療機関への負荷が非常に大きくなります。
○今村委員 1つの医療機関の中では重症例がどれぐらい入ってくるかによって限られたマンパワーの中の負担が大きく変わってきますので、今の重症例の数が医療機関である程度分かれている状況であればいいですけれども、必ずしもそうはならないところがあります。そういう意味では、指定感染症という話が先ほどありましたが、利点はあるのですよ。例えば入院の隔離をしにいくときに、海外の人が多いわけですから、そこは法律があるところで説明しやすいとか、あるいは行政との連携をして、いろいろ検体を運んだりとかのいろんなやりとりはもともと法律に載っているほうがスムーズに行えるように習慣がもうついていますので、そういうことは行いやすいとか、一方で利点はあるのです。でも、先ほど言った医療機関が集中してしまう。なおかつ重症例が集中してしまうという形になると、例えば医療センターとかはかなり大変になることが想像できるので、その辺も配慮しつつということではあるかなと思います。
疑い例とは、*5
新型コロナウイルス感染症の疑い例の定義(現時点の定義であり、今後変更の可能性がある。)
以下のⅠおよびⅡを満たす場合を「疑い例」とする。
Ⅰ 発熱(37.5 度以上)かつ呼吸器症状を有している。
Ⅱ 発症から 2 週間以内に、以下の(ア)、(イ)の曝露歴のいずれかを満たす。
疑似症とは、*6
発熱、呼吸器症状、発しん、消化器症状又は神経症状その他感染症を疑わせるような症状のうち、医師が一般的に認められている医学的知見に基づき、集中治療その他これに準ずるものが必要であり、かつ、直ちに特定の感染症と診断することができないと判断したもの。
「感染症を疑わせるような症状」については、感染症を否定できない初期症状で急性の経過を示すこと(注:対象とする症候は限定しない)、感染症を疑う所見があること、曝露歴(注:海外渡航歴や、動物・節足動物との接触等)なども考慮して、診察医が総合的に勘案する。
「集中治療その他これに準ずるものが必要であり」については、各疑似症定点で通常使われている重症度を示す指標や、実施された医療行為の内容、また、看護必要度等を用いて判断することする。
「直ちに特定の感染症と診断することができない」については、 以下を考慮する(以下、略)。
「疑い例」の定義は、PCR検査等の検査を義務付けようとする場合の検討事項の一つとなるだろう。
疑似症サーベイランスについては、「疑似症サーベイランスの運用ガイダンス」(国立感染研)に詳しい。
*1:https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000588330.pdf
*2:英語のincubation period、latent periodはいずれも潜伏期と訳されるが、この二つは明確に区別され、病原体に感染してから症状を示すまでの期間をincubation period、病原体に感染してから感染者が感染性を持つ、すなわち他の感受性を持つヒトに病原体を感染させるようになるまでの期間をlatent periodと呼ぶ。この2つは病原体の種類によって異なるが、latent peirodがincubation periodより短い場合(麻疹など)、発症時にはすでに他のヒトを感染させている可能性がある(Wikipedia)。COVID-19において、無症状陽性者の扱いが問題とされるのであるが、latent periodの理解が必要だろう。
*3:https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000588331.pdf
*4:https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000588332.pdf
*5:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000591991.pdf 現在は変更になっているだろうが、未だ確認していない。
*6:https://www.khosp.or.jp/news/wp-content/uploads/2020/01/%E7%96%91%E4%BC%BC%E7%97%87%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%99%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%81%8B%E7%94%A8%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B9.pdf