浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

設計、制御、コピー、組立

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(27)

前回は、フォン・ノイマンの「自己増殖オートマトン[自動機械]」の作り方の説明がよくわからずパスしたのだが、ちょっと気になるので、説明を聞いてみよう。(今も理解できていないのだが、記録として残しておくことにする)

 

自己増殖オートマトン

必要なものは、

万能組立機(A)

コピー機(B)

・AとBを制御する機械(C)[以下、制御機械と呼ぶ]

・AとBとCの設計図(L)[以下、設計図と呼ぶ]

である。

  1. 制御機械は、まず、設計図を使って万能組立機に、「万能組立機とコピー機と制御機械」を作らせる。
  2. 制御機械は、コピー機に、設計図をコピーさせる。
  3. このようにすると、「A+B+C+L」は、新たな「A+B+C+L」を生み出すことができる。
  4. 子の「A+B+C+L」は、同じようにして孫を作ることができ、以下同様に続く。

生命の場合の道具立ては、

万能組立機(A)としてのリボソーム

コピー機(B)としてのDNAポリメラーゼ

制御機械(C)としてのDNA*1

設計図(L)としてのDNA

 である。上記1~4の万能組立機等を、リボソーム等に置き換えて読んでみたが、やはりよくわからない。

 

山口は述べている。

フォン・ノイマンの解答の巧みな点は、設計図を一方でプログラムとして、他方で単なるデータ(記号列)として、二義的に扱うという点にある。設計図は、Aに対してはプログラムとしてAを指揮するが、Bに対しては単なる記号列としておとなしくコピーされるだけである。

DNAを中心とする細胞内の諸分子の振る舞いは、こうした「自己増殖オートマン」としてよく理解できる。DNAは様々なタンパク質の「設計図」であり、タンパク質は細胞内で様々な「オートマトン」として働く。…

このように細胞は、フォン・ノイマンの理論どおりの道具立てを備えた「自己増殖オートマトン」として理解できるのである。

フォン・ノイマンが、コンピュータ・プログラムの基礎理論として、「Aに対してはプログラムとしてAを指揮するが、Bに対しては記号列としてコピーされる」という内容のものを考えたのだとすれば、生命の情報モデルの理論化に寄与したということは理解される。しかし、「自己増殖オートマトン[自動機械]」という表現は、何かロボットの自己増殖をイメージさせ、「ちょっと違うのではないか」と感じさせる。

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http://www.futureconverged.com/Home/articleType/ArticleView/articleId/497/Self-Replicating-Machines.aspx

 

自己減衰オートマトン

プログラム(設計)は必ずしも「増殖」のみとは限らない。「減衰」もあるだろう。「自己増殖オートマトン」と言うなら、「自己減衰オートマトン」もあってよい。この意味では、自己増殖ではなく、自己複製と言ったほうが良いように思う。(無限に増殖するわけではない)。

細胞の老化、死を考えなければ片手落ちである。昔「アポトーシス」という言葉を聞いたことがあるが、現在どれほど研究が進んでいるのだろうか。本書から離れすぎてもいけないから、この話題は「いずれ」ということにしよう。

*1:

DNAが設計図であるというのはわかるが、同時に制御機械であるというのはどういう意味か? 山口は次のように述べている。

制御機械に相当するような、リボソームとDNAポリメラーゼをともに制御するタンパク質は知られていないが、リボソームがあるタンパク質を作るタイミングも、最終的にはDNAの「遺伝子制御プログラム」によって規定されているという点では、DNAは設計図であると同時に「制御機械」として機能しているとも言える。