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COVID-19:ファイザー社のmRNAワクチンは本当に有効なのか?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(64)

※ 当ブログのCOVID-19関連記事リンク集 → https://shoyo3.hatenablog.com/entry/2021/05/06/210000

今回は、ワクチンについて取り上げてみたい。

ワクチンの話は気になりつつも難しいので保留にしてきたのだが、接種時期も近づいてきて、そろそろまともに考えなくてはいけないようだ。

 

日本感染症学会の「COVID-19ワクチンに関する提言」は、次のように言っている。

ワクチンも他の薬剤と同様にゼロリスクはあり得ません。病気を予防するという利益と副反応のリスクを比較して、利益がリスクを大きく上回る場合に接種が推奨されます。国が奨めるから接種するというのではなく、国民一人一人がその利益とリスクを正しく評価して、接種するかどうかを自分で判断することが必要です。そのための正しい情報を適切な発信源から得ることが重要であり、国や地方公共団体および医療従事者はそのための情報発信とリスクコミュニケーションに心がける必要があると考えます。

「国民一人一人がその利益とリスクを正しく評価して、接種するかどうかを自分で判断することが必要」と言うが、そのための分かりやすい情報が提供されているだろうか。

厚労省は、「新型コロナワクチンの有効性・安全性について」のページで、

1.ワクチンごとの情報 2.新しい情報 3.安全性の評価について 4.有効性の評価について 5.海外情報のリンク について説明しているが、決してわかりやすいとは言えないだろう。

 

薬事承認されたファイザー社の新型コロナワクチンの有効性(臨床試験の概要)を見ると、次の表が掲載され説明されている。

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(※)総追跡期間(1,000人年):人年とは解析対象者毎の追跡期間(観察期間)(年)を合計した数値。

海外6カ国(米国、ドイツ、トルコ、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ)において実施されました。ワクチンを接種する人とプラセボ(生理食塩水)を接種する人[ワクチンを接種しない人]に分け、約3週間の間隔で2回接種した時、新型コロナウイルス感染症の発症がどの程度抑制されるか比較されました。なお、発症の確認に当たっては、発熱や咳、息切れ等、感染が疑われる症状が1つ以上あり、PCR等の核酸増幅検査で陽性となった人を、新型コロナウイルス感染症が発症した人と定義されました。 約4万人の被験者を対象に、2回目の接種後7日以降の発症の有無が比較されました。その結果、過去に新型コロナウイルスの感染歴がない場合で95.0%のワクチン有効率が確認され、感染歴の有無を問わない場合でも94.6%のワクチン有効率が確認されました。

ファイザー社の新型コロナワクチンの有効率は95%と報道される根拠となる臨床試験の結果である。

単純な人は、この話を聞いて、「ワクチンを打てば95%の人に効果がある」あるいは「ワクチンを打てば、95%の確率で、感染することはなく、人にうつすことはない」と考えてしまう。そして、このような有効なワクチンの供給が足りないとか、誰を優先的に接種するのか、などと騒いでいる。

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https://triblive.com/news/florida-seniors-begin-swarming-covid-19-vaccination-sites/

 

ワクチン有効率はどのように計算されるのか?

感染歴の無い人について見てみよう。

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この場合、追跡期間(感染期間)は、ワクチンを接種した人も接種しなかった人も同じ期間と考えられるので、無視して良いだろう。そうすると、有効率の計算式は、1-A/Cとなる。1-8/162=0.9506で、95%の有効率である。

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しかし、対象者数が違うので、1-A’/C’ とすると、1-0.04/0.88=0.9503で、95%の有効率である。(先の「提言」は、接種群と非接種群の発症率を比較するとしている)。

この意味するところは、ワクチンを接種しなければ0.88%の人が発症するところ、ワクチンを接種すれば0.04%の発症で済むということである。(ワクチンを接種しなければ100人発症するところ、ワクチンを接種すれば5人の発症で済むということと等しい)。これは、「ワクチンを打てば、95%の確率で、感染することはなく、人にうつすことはない」ということではない。

「提言」は次のように注意している。

今回の有効率はCOVID-19 発症を指標としたものであり、感染を指標としたものではありません。COVID-19 ワクチン接種者でも不顕性感染*1が起き、気道からSARS-CoV-2 を排出する無症状病原体保有として感染源になる可能性は考えられます。

厚労省ファイザー)の説明で、「発熱や咳、息切れ等、感染が疑われる症状が1つ以上あり、PCR等の核酸増幅検査で陽性となった人」を発症者として定義したとある点に留意したい。ワクチンを接種しても、無症状の検査陽性者として、他者にうつす可能性がある。

 

有効率95%の意味

有効率を上記のように定義して計算すれば、95%の有効率というのは何ら誤りではない。

上表をもう一度見てみよう。ワクチンを接種しなければ、0.88%(=162/18,325)の人が発症したのであるが、そうすると、ワクチンを接種した人18,198人が、「もし接種していなかったとすると」、18,198*162/18,325=161人が発症していただろう、ということになる。即ち、161-8=153人(153/18,198=0.84%)にワクチンの効果が認められたということになる。

こうも言える。ワクチンを接種した人18,198人が、もし接種していなかったとすると、161人(161/18,198=0.88%)が発症していただろうということは、18,198-161=18,037人(99.12%)は、接種しても接種しなくても発症しなかっただろうということを意味する。

 

ワクチンの有効性

ここで数字を変更してみよう。

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ワクチン有効率は、1-1/20=0.95で、95%である。

ワクチンを接種しなければ、20%の人が発症するとした場合、ワクチンを接種した人100,000人が、もし接種していなかったとすると、20,000人が発症する。実際には1,000人の人が発症したにすぎないから、19,000人(19%)にワクチンの効果が認められたことになる。先ほどは0.84%の人にワクチンの効果が認められたに過ぎないのに対し、今回は19%の人に効果が認められた。ワクチンの有効率は同じ95%なのに、何故このような差が出るのだろうか。それはワクチンを接種しなかった人の発症率が高いからである。

以上から、「発症リスクの低い感染症の場合、ワクチンの効果は限定的である」という帰結が導かれる。ここで、「発症リスクの低い感染症」を、「多くの人が感染しても無症状や軽症ですむ感染症」と言っても良いだろう。

ここまでのところ、まだまだ雑な議論である。とりわけ、「年齢、基礎疾患の有無、人種、性別、生活習慣」等の要因が考慮されていない。これらの要因を考慮した場合にどうなるか。

COVID-19の死者は、ほとんどが60代以上なので、高齢者世代には有効なのではないかと仮定してみよう。

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人口は、人口推計2020/1/1現在の数字、COVID-19の死者数は、2021/4/21までの累計値。

 

60代以上の死者の60代以上人口に対する比率は、0.02%である。死者は今後も増えるだろうこと、さらにリスクを死亡のみでなく中等症以上に増やしたほうが良いという意見を考慮して、リスク(発症率)を10倍の0.2%としてみる。これは、99.8%の人(60代以上)にとっては、ワクチンを接種しても接種しなくてもリスクがない(発症しない)ということを意味する。

以上は、論点がずれていると批判されるかもしれない。ワクチンを接種した場合の有効性を議論しているのであって、ワクチンを接種する必要があるかどうかを議論しているわけではない、という批判である。

確かに論点はずれているかもしれない。しかし、私は後者の論点が重要だと考える。極端なことを言えば、「今でもエイズで死亡する人がいるから、全国民にエイズワクチンを打て」と主張する議論に似ているように思う。エイズのリスクはほとんど無いと言うなら、COVID-19のリスクはあるのかという議論になる。ここからは、「全国民に」ではなく、「リスクの高い集団に」ワクチンを打てということになるだろう。60代以上の0.2%程度のリスクをどう評価するかにより、判断が分かれる。

 

mRNAワクチンの安全性

長くなったので、安全性の話は後日にしよう。

*1:不顕性感染…細菌やウイルスなどの病原体に感染したにもかかわらず、感染症状を発症しない状態。(デジタル大辞泉