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COVID-19:公共財と知的財産権保護(命よりカネが大事?)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するメモ(69)

ワクチンが新型コロナ対策の切り札のごとく報道されている。今回は、ワクチンが切り札となるということに疑念を差し挟むことなく、以下の記事を読んでみよう。

 

1.富裕国は新型コロナ関連製品の独占 一時停止を ー WTOで本日協議(2021/2/4、MSF)

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WTOでの提案に反対する国々の大使館前に集まり、抗議する市民ら=南アフリカで2月2日 © Tadeu Andre

世界貿易機関WTO)は2021年2月4日、新型コロナウイルス感染症の薬やワクチン、その他関連品に対する知的財産権保護を、パンデミック(世界的大流行)収束まで一時的に免除するという提案について協議する。この提案はインドと南アフリカ政府によって昨年10月に出されたが、一部の富裕国が反対し、結論が引き延ばされている。

何故このような提案がされたのか?

この提案の目的は、全世界で集団免疫が獲得されるまで、新型コロナ治療薬やワクチン、検査機器や防護服など関連医療ツールの生産と供給に支障となる知的財産権に関しては、行使、適用、実施しないという選択肢を加盟各国に与えるもの。採択されれば、世界中のジェネリック薬(後発医薬品)メーカーなどが、特許や他の独占的権利に関わらず、医療ツールの生産を開始できる道が開かれる。

知的財産権保有者が権利行使をしなければ、パンデミック(世界的大流行)を収束させるのに大きく貢献すると考えられる。であるならば、知的財産権保有者の独占的利益を保護するのではなく、人命を優先するということは、当然の要求のように思われるが…。

パンデミックの当初から、新型コロナに関連する医療技術の開示や、それらを自由に生産供給する権利の確保が必要であることは、幅広く認識されてきた。複数の国の首脳がコロナ医薬品を「世界の公共財」として扱うことを求めて声明も出したが、現状ではどれもほとんど達成されていない。

経済学でいう「公共財」の定義には合わないかもしれないが、「人類の生存のためには、私的(あるいは国家)独占が許されるべきでないもの」という意味では、「世界の公共財」と言っても良いだろう。しかしながら、

製薬会社は、各国と個別の商業ライセンスや購入の契約を内密に締結するなど、何の制約もなく企業活動を続けている。だがこうした契約は、途上国の顧みられない人びとのアクセスを損ねることとなる。

そしてまた、

日本、欧州連合EU)、英国、米国、スイス、ブラジル、カナダ、エクアドルエルサルバドル、オーストラリアといった少数の加盟国が反対の立場を崩していない。

一部の富裕国は、なぜ反対するのだろうか?

国境なき医師団(MSF)アクセス・キャンペーンの南アジア責任者であるリーナ・メンガニーは、次のように述べている。

特許制度について製薬会社が関心を持つことと言えば、競争を遮断し、独占状態を維持し、価格を高く保つために、ビジネス戦略として制度を利用することだけです。

パンデミックが猛威を振るうなか、これまでは製薬会社を支援してきた各国政府も、企業利益のみを守ることから抜け出す必要があります。私たちは反対する加盟国に対し、議論の引き延ばし戦術を止め、この重要な提案を妨害せずに世界的な連帯を示すことを求めます。時間は刻々と過ぎており、多くの命がいまも危機に瀕しています。

 

7日移動平均死者数

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インド:3502人、ブラジル:2384人、フランス:268人、日本:60人(2021/5/3、Our World in Data)

 

100万人当り、7日移動平均死者数

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インド:2.54人、ブラジル:11.21人、フランス:3.98人、日本:0.48人(20215/3、Our World in Data)

 

2.新型コロナ医薬品:独占権を放棄して公平な普及を ー MSF、日本など反対各国に公開書簡(2021/3/9、MSF)

世界貿易機関WTO)は2021年3月10日から、新型コロナウイルス感染症の医薬品などに対する知的財産権保護を、パンデミック(世界的大流行)収束まで一時的に停止するという提案について再び協議する。本提案はインドと南アフリカ政府によって昨年10月に出されたが、日米欧などの反対に合い、結論に至っていない。国境なき医師団(MSF)は本日、反対する国々に対し公開書簡を送り、提案を阻止せず、WTOでの正式な協議を進めるよう求めた。

本提案が採択されれば、世界中のジェネリック薬(後発医薬品)メーカーなどが、特許や他の独占的権利に関わらず、薬やワクチン、その他関連品の生産を開始できる道が開かれ、世界的な公平な普及に拍車がかかると期待されている。

国境なき医師団(MSF)インターナショナルの公開書簡より、一部引用。

新型コロナウイルス感染症に関わる保健医療技術の知的財産や、その生産に必要な技術、データ、知識は公に共有し、能力ある生産者が世界中で製造・供給できるようにすべきです。しかしながら、パンデミックが1年を経過した今も、製薬企業は市場の独占を続けようとしており、その中には、多大な公的投資の恩恵を受けた製品も含まれています。企業は依然として、非公開の商取引によって、治療薬やワクチンをどこで生産するか、誰がそれを最初に受け取るか、いくらで売られるか、それらの主要な決定権を握っています。開発途上国に存在する生産力を使って製造・供給の拡大に踏み出した企業はわずかです。新型コロナウイルス感染症関連の知的財産と保健医療技術を世界規模でオープンに共有することを推進する、世界保健機関(WHO)のCOVID-19 技術アクセス・プール(C-TAP)*1のような動きに、製薬業界が具体的な支持を示したこともありません

本提案のもたらす公衆衛生上の利益が明らかであるにもかかわらず、ごく一部の豊かな国々がWTOでの交渉を頑なに阻んだり、遅らせたりすることを、私たちは深く憂慮しています。この提案を拒み、遅らせている、オーストラリア、カナダ、EU諸国、日本、ノルウェー、スイス、英国、米国などの国々の多くはまた、現在入手可能なワクチンの大半を確保してしまった国々でもあります。既存の、また今後実用化される、治療薬、ワクチン、検査法などの、命にかかわる医療ツールは、世界の公共財として扱い、私的な独占にとらわれず、すべての人に入手可能で、手が届くものにしなくてはなりません。

新型コロナウイルス感染症の医薬品などに対する知的財産権保護を、パンデミック(世界的大流行)収束まで一時的に停止するという提案」は、多くの国際機関に支持された。

本提案はこれまで、世界中の何百もの市民団体と、世界保健機関(WHO)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(DNDi)、南センター(The South Center)、ユニットエイド(UNITAID)、第三世界ネットワーク(Third World Network)を含む多くの国際機関が歓迎を表明。2月下旬には、115人を超える欧州議会議員(MEP)が、欧州委員会欧州理事会に対し、独占権放棄案への反対を取り下げるよう求めていた。

 

3.コロナワクチン特許権、適用除外巡り富裕国と途上国で合意至らず(2021/3/11、Reuters)

世界貿易機関WTO)に加盟する富裕国は10日(2021/3/10)、貧困国向けに新型コロナウイルスワクチン生産を拡大するために80カ国以上の発展途上国が求めていた特許権の適用除外を認めなかった。

詳細はわからないが、

西側諸国は、知的財産権の保護によって研究とイノベーションが促されるとし、こうした権利を一時的に停止してもワクチン供給の急拡大にはつながらないと主張した。

「金銭的報酬がなければ、研究とイノベーションが促進されない」と主張しているようだ。

 

4.ワクチン増産に向け、WTOで知財を巡る議論が加熱(世界)(2021/3/24、Jetro

ワクチンを含む医療物資の増産を目指し、世界貿易機関WTO)では一部の途上国が知的財産の保護義務を一時的に免除することを提案しており、これが大きな議論を呼んでいる。対象品目はワクチンのみならず、人工呼吸器や医療従事者用マスクなど幅広く、新型コロナ関連製品の貿易に影響を及ぼす可能性がある。

グテーレス国連事務総長は2月17日、安全保障理事会に対して「10カ国が全ワクチンの75%を投与する一方、130カ国以上がワクチンを1回分も確保できていない」と発言 。高・中所得国やドナー(国・団体など)の拠出金を基に、拠出国・途上国向けにワクチン供給を行う国際的共同購入枠組み(COVAXファシリティ)*2などが機能し始める中、ワクチンへの公平なアクセスに向けたさらなる取り組みを促している。

WTOでは、一部の途上国がCOVAXファシリティなどの国際協力を評価する一方、新型コロナ対策に必要な医療物資を確保する上で、現状の対策は不十分であると指摘する。その解決策として提案するのが、医療物資に係る知的財産の保護義務を一時的に免除することで、生産の拡大を図る方法である。この提案(IP/C/W/669)は2020年10月、インドと南アフリカ共和国の2カ国により初めてWTOに提出された。

知的財産の保護義務を一時的に免除するという本提案に対し、複数のWTO加盟国は反対姿勢を見せる。知的財産の保護を通して企業の商業上の利益を確保しないと、今後の研究開発投資へのインセンティブが失われることを懸念するためだ。しかし提案国は、新型コロナのワクチンの開発が成功した理由として、公的資金の投入や公的研究機関の貢献、さらには世界レベルでの公衆衛生情報の共有を挙げており、知的財産の保護が企業の研究開発の動機付けとなったことには否定的な見解を示す。

本提案については、現在もTRIPS理事会内で審議が継続する。…知的財産の保護が目標達成に果たす役割について、加盟国の見解は分かれたままで議論は平行線をたどる。…WTO加盟国は、次回のTRIPS理事会(6月8~9日)に先立ち、4月にも追加の会合を開催することに合意している。

「公共財」と目されるものに、「知的財産権」を認めるべきか否か、そしてまた「公共財」と目されるものの研究開発のありかた(公私の関わり方)が論点であるように思われる。

 

5.WTO知的財産権免除提案:ゆらぐ先進国の「反対」姿勢(2021/4/4、AJF)

バイデン政権が「賛成」に転じる?…報道によると、米国ホワイトハウスで3月22日(2021/3/22)、中堅レベルの政策スタッフが集められ、南ア・インド等の知的財産権免除提案への「反対」政策を変え、これに賛成すべきかどうかの検討が行われた。これは、ヤン・スカコフスキー氏ら民主党の下院議員が、同提案への賛成を求めて記者会見を行い、その後60名の連邦議員がバイデン政権にこの提案に賛成するように要求したことを受けたものである。この会議で、結論は出なかった。一方、知的財産権の強化に向けて常にロビー活動をしている製薬企業やその他の産業界は、バイデン政権に対して、この提案に反対し続けるようにロビー活動を続けている。…バイデン政権はホワイトハウスに数多くの製薬企業や業界出身のスタッフを抱えており、最終的に「免除」提案支持に転じるかどうかは不透明である。

欧州議会でも118名の議員が方針見直しを要求…欧州でも、欧州理事会および欧州委員会に対して、免除提案への「反対」を見直すべきとの働きかけが強まっている。

「第3の道」:製薬企業の自発的ライセンシング拡大…「第3の道」は、これまで限定的かつ不透明な形で行われてきた、特許権保有企業の「自発的ライセンシング」によるジェネリック企業への技術移転による生産を加速するというものである。…知財権免除提案を支持する多くの市民社会は、「第3の道」を、免除提案に代わり得るものとしては認識していない。その理由は、自発的ライセンシングは特許権者が恣意的に運用でき、透明性や公開性が保障されず、結局のところ、メガ・ファーマ(欧米の巨大製薬企業)による医薬品の独占を変えるものにならないからである。

ジェネリック企業が生産可能となったとしても、特許権保有企業の「自発的ライセンシング」によるものであれば、巨大製薬企業の利益が損なわれることはないだろう。

 

6.新型コロナ医薬品の知財保護免除案 米通商代表部も支持表明 ー 反対国は今後の協議に向けて譲歩を(2021/4/22、MSF)

著しい不公平は、全く受け入れられない…米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ氏は先週、「ワクチンへのアクセスにおいて、先進国と途上国の間に見られる著しい不公平は、全く受け入れられない」と声明を発表し、HIVエイズまん延の際に「無用の死と苦しみ」をもたらした過ちを繰り返してはならないと強調した。

MSFインターナショナルの国際医療主事、マリア・ゲバラ医師は次のように述べる。「コロナ禍で私たちが改めて直面している医薬品の欠乏という問題には、関連の知的財産権を一時的に放棄し、多様な製造・供給者を参入させることで対処できます。 MSFは米国や欧州連合EU)など、本提案に反対するすべての国が歴史の正しい側に立ち、賛成する国々と力を合わせるよう求めます。大切なのは命を救うことであって、既存の体制の維持ではありません

日本を含む少数国の抵抗続くブラジルやインドといった国々は新型コロナの急速な感染拡大に見舞われ、治療を必要とする感染者の増加が医療機関や既存の医薬品の供給を著しく圧迫している。このパンデミックに対峙するすべての国が、既存の、また新規の新型コロナ関連医薬品を不足も遅れもなく速やかに入手できるようにすることが喫緊に必要だ。

世界中の人を守るため、あらゆる手段を…現在、新型コロナの予防と治療に有望な複数の医薬品が臨床試験の段階にある。その有効性が証明されれば、世界的なワクチン普及に遅れと偏りがあり、ウイルスの変異株が出現するという現状において、決定的な役割を担うことになる。しかし、このパンデミックの下でも、製薬企業はいまだ知的財産権を堅く保持し、従来の商習慣通りの対応を維持している

自国にワクチンが確保されればそれでよいと考えているのだろうか。「国際協力」という言葉は、どこへいったのだろうか。

*1:WHOは「COVID-19技術アクセス・プール」(C-TAP)の取り組みに指導力発揮を(2021/1/31、AJF)参照 

*2:

国際的共同購入枠組み(COVAXファシリティ)新型コロナウイルスワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組みで、2020年に発足した。世界保健機関(WHO)が主導し、途上国へのワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」や感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)などと連携して取り組んでいる。高・中所得国は、拠出金をCOVAXに支払い、拠出金は開発や製造設備の整備に使われる。日本や中国を含む180以上の国・地域が参加する。高・中所得国がワクチンに共同出資・購入して人口の2割分を受け取る一方、低所得の国には無償で提供する。21年中におよそ20億回分のワクチン確保をめざしているが、資金不足が課題となっている。(2021/2/20、日経)

なお、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)とは、世界連携でワクチン開発を促進するため、2017年1月ダボス会議において発足した官民連携パートナーシップ。日本、ノルウェー、ドイツ、英国、オーストラリア、カナダ等に加え、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラストが拠出し、平時には需要の少ない、エボラ出血熱のような世界規模の流行を生じる恐れのある感染症に対するワクチンの開発を促進し、流行が生じる可能性が高い低中所得国においてもアクセスが可能となる価格でのワクチン供給を目的としている。(2020/9/15、厚労省新型コロナウイルス感染症ワクチンの国際的共同購入枠組み(COVAXファシリティ)に参加します)