浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

ヒューリスティックス(経験則と先入観)

山岸俊男監修『社会心理学』(14)

今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、ヒューリスティックスである。

ヒューリスティックス(heuristics)とは何か。

ヒューリスティックスとは、問題を解決する際に、必ず正解にたどり着けるとは限らないが、うまくいけば効率的に解決できる解決法のこと。代表性ヒューリスティックスなど、さまざまな手法がある。

次の説明が、簡潔によくまとまっているように思う。

  • ヒューリスティック(heuristic)とは、「発見的手法」という意味の心理学用語。
  • 必ずしも正しい答えではないが、経験や先入観によって直感的に、ある程度正解に近い答えを得ることができる思考法である。「経験則」と同義であるとも言われる。…普段の行動の裏にはヒューリスティックによる思考が無意識のうちに行われている。
  • ヒューリスティックによって素早い意思決定が可能となりますが、判断結果には一定の偏り(認知バイアス)を含んでいることがあるため、注意が必要である。(人事・労務キーワード集

正しい答えを求めようとすると手間暇(労力と時間)がかかるが、経験則によれば迅速な意思決定が可能である。これは大いなるメリットである。

しかし経験則は一定の偏り(認知バイアス)を含むことがある。経験や先入観には一定の偏りがあることは、容易に想像できよう。この認知バイアス先入観と理解しておこう。これは明らかにデメリットである。

以上のように、ヒューリスティックスは、経験則と先入観の両義的な用語であることに留意しよう。

代表的なヒューリスティックスは、次の通りである。

  1. 代表性ヒューリスティック…代表的、典型的なイメージ(ステレオタイプ)を過大に評価する。(例)外国人(のような見た目)だから英語が話せる、経営者はいいスーツを着ている
  2. 利用可能性ヒューリスティック…自分の見聞きしたことや口コミ、衝撃的な出来事など、想起しやすい情報から確率や程度を判断して評価する。(例)車より飛行機の方が事故の起きる確率が高いと考える(実際には車の方が多い)。
  3. 係留と調整ヒューリスティック最初に与えられた情報(アンカー)を基準として物事を評価する。(例)初めから500円と聞くより、「1000円の商品が今なら50%オフ」と聞く方が、同じ商品でも得だと感じる。
  4. シミュレーション・ヒューリスティック…経験や先入観から「架空のシナリオ」を考え、結果を推定する。(例)過去のスピーチの失敗経験から「明日もまた失敗するだろう」と考える。(人事・労務キーワード集

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https://productiveclub.com/representativeness-heuristic/

 

1.の「代表性ヒューリスティック」という言葉はピンとこない。「私の経験則から言って、一般的に、経営者はいいスーツを着ている」といった用法が適切だろう。「代表性ヒューリスティック」という言葉は覚える必要が無い。

2.の「利用可能性ヒューリスティック」という言葉もピンとこない。「車より飛行機の方が事故の起きる確率が高いという説は、このデータからすれば疑問である」(「あなたの説は先入観に過ぎない」の婉曲表現)。「先入観」からの「決めつけ」は数多く経験するところである。「利用可能性ヒューリスティック」という言葉も覚える必要が無い。

3.の「係留と調整ヒューリスティックanchoring and adjustment heuristic)」という言葉は初めて聞いたが、なるほどと思った。次のような説明が分かりやすいかもしれない。

係留と調整ヒューリスティック…最初に与えられた情報を手がかりに検討を始め、最終的な回答を得る推測を、係留と調整ヒューリスティックと呼ぶ。係留とは、はじめの値を設定することを意味しており、船が係留地点からそれほど遠くまで動けないのと同じように、事後の調整は通常不十分となる。つまり、初期値が異なると最終的な推定値も大きく異なる。(科学事典

係留地点(初期値)からあまり動けない。視野狭窄に陥り、他の考え方を聞いても、ほんの僅かしか修正できない。錨(アンカー)は、自尊心の支えなのかもしれない。だから、先の「先入観」とほぼ同義だろう。

学びの最初に、権威ある人と目されている人(多くの人がそう言っている人)の学説(論説、思想)にふれたら、そこが係留地点(錨、アンカー)となることは大いに考えられるところである。「アンカー依存」といったほうが分かりやすいか。これは、ヒューリスティックのマイナス面を述べているものと考えられる。

4.の「シミュレーション・ヒューリスティック」については、次の説明が分かりやすい。

シミュレーション・ヒューリスティック経験や先入観などから架空のシナリオを思い描いて結果を推定するやり方。

将来の予想・因果推論・反実仮想などに使われる。以下のように、架空のシナリオに基づいて推定する。

  • 将来の予想…原因と結果の関係を推定する。[上記例参照]
  • 因果推論…デスク上に置いてあったマグカップが割れていた。→「隣のデスクに積み重なった書類が、私のデスクに倒れてきている。書類の山が崩れたせいでマグカップが床に落ち、割れてしまったのでは」と、原因と結果の関係を推定する。
  • 反実仮想…自動車で空港に向かったところ、渋滞に巻き込まれ、フライトの時間に遅れてしまった。「車ではなく電車で向かっていたら、時刻どおり空港に到着でき、飛行機に間に合ったのに……」と、事実と異なる想定をする。

上記の3つは妥当な推論に思えるかもしれないが、あくまで「架空のシナリオ」にすぎない。(STUDY HACKER

「架空の」シナリオとはいえ、全く非現実的なシナリオではない。「仮説」として有用だろう。前提が妥当であれば、反証が現れるまでは、「仮説」として保持しておいて良いだろう。

 

では、「ヒューリスティック」をどのように訳せば分かりやすいだろうか。私は、「緩やかな意思決定手法」または「緩やかな問題解決手法」と訳したら良いのではないかと思う。(「緩やか」とは「厳密ではない」という意味)。