浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

租税の公平性と直間比率

神野直彦『財政学』(27)

今回は、第12章 租税の分類と体系 の続き(pp.175-180)である。

直接税と間接税

「税法入門」*1によれば、直接税と間接税の区分は、「税金を負担する者と税金を納める者が、同じか異なるかによる分類」である。直接税の代表的なものは「所得税」であり、間接税の代表的なものは「消費税」である。そして、「直接税と間接税の区分は、転嫁の有無によって説明される。」としている。

所得税には、個人の所得に課税される「所得税」と、法人の所得に課税される「法人税」がある。いずれも所得(収入ではない)の多寡により税率は異なり、納税金額が異なる。所得がなければ課税されない。(なお、現状「負の所得税*2は採用されていない)。一方「消費税」は、所得とは関係なく、消費金額により一定税率により課税される。消費なしには生活できないので、所得が無くても税金を納めなくてはならない。ここに「課税の公平」が問題となる。但し、今回はこの「課税の公平」を真正面から取り上げようというものではない。

 

法人税の転嫁

消費税は転嫁される。では、法人税は転嫁されないのか? もし法人(所得)税が転嫁されているとすれば、それは直接税ではなく間接税ということになる(前項参照)。これは「課税の公平」の問題に関係してくる。

神野は経済学用語を使って、「なぜ企業の利潤[所得、利益]に対する租税負担は転嫁されないと考えられてきたか」を説明している。ざっくり言えば、企業が価格支配力(販売価格を設定する力)を持っていれば、税額分を転嫁できる、しかし完全競争の市場では価格支配力を持たないので、税額分を転嫁できない

では現実はどうか。現実の市場は完全競争ではない。完全競争に近い市場から、寡占・独占の市場まで多様であるが、企業評価が「税引後利益」(ここから配当される)で為されるとすれば、税を考慮しない価格設定はない(もちろん程度によるが…)。

こうして今や、法人税の転嫁を肯定する議論が、常識になっているといっても良い。このように法人税が、生産物市場で転嫁されているとすれば、法人税は直接税ではなく、間接税だと言わなければならなくなる。[ただ]租税が転嫁するか否かを確定することは難しい。

価格設定が税を考慮しているといっても、消費税のように、具体的に何%価格を転嫁しているというものではない。直接税か間接税かは曖昧であり、明確に区分できない。

直接税と間接税の区別は、実際の転嫁の有無ではなく、立法上の規定に委ねられているようになっている。つまり、法律上、納税者が負担することを予定している租税が直接税であり、納税者が負担しないで、取引相手が負担することを予定している租税が間接税、と理解されている。

冒頭の「税法入門」の説明に「直接税と間接税の区分は、転嫁の有無によって説明される」とあった。これは上述のごとく疑問がある。しかし「税法入門」は、(前回引用しなかったが)抜かりなく次のように述べている。

しかし、直接税であっても、ときには、その税金を支払う法律上の納税者がその税金を負担しない場合(例えば、製品価格にその会社の法人税分を含めて販売する場合)もある。(第7節 租税の分類 3.直接税と間接税)

 

直間比率

租税を分類する意義は、租税制度の性格を明らかにすることにある。というのは、現実の租税制度は多種類の租税によって構成される複税制度となっているからである。複税制度をとる租税制度の性格を観察するには、個々の租税をグルーピングして分析することが有効となる。最も広範に利用されている分類方法は、直接税と間接税の比率、つまり直間比率高い、ないしは低いとして、その是正が叫ばれるのは周知のとおりである。

なぜ直間比率が重視されるのか? なぜ直間比率の是正が叫ばれるのか?

直間比率が租税体系の性格を示す指標として利用されるのは、直間比率が租税体系の公平性を示す指標と考えられているからである。直接税は能力原則に基づいて課税され、間接税は利益原則に基づいて課税されると想定される。直間比率が高いということは、能力原則に基づいて課税される租税のウェイトが高い租税体系であることを示している。そうだとすれば、直間比率の高い租税制度は、能力原則という観点から課税の公平を重視していることになる。

能力原則と利益原則はどういう原則だったか。*3

能力原則(応能原則)…租税は経済力に応じて負担することが公正である(神野)。租税は、各人の能力に応じて負担することが公平である、あるいは税負担は担税力(租税を負担するものが不当な苦痛を感じることなく、社会的に是認できる範囲内で租税を支払える能力)に応じて配分されるのが公平である(税法入門)。

能力とは「経済力」のことである。「経済力」とは、下衆な言い方をすれば「金儲けをする能力」のことである。教養のある(?)言い方をすれば「担税力」である。

利益原則(応益原則)…政府の提供する公共サービスの受益に応じて租税を負担することが公正である(神野)。国家の供給する財・サービスによって国民各自が受ける利益に応じて租税を負担することが公平である(税法入門)。

この説明と、先ほどの「間接税は、利益原則に基づいて課税される」という説明をあわせ考えると、疑問が生ずる。なぜなら間接税の典型は「消費税」であるから、「消費税は、利益原則に基づいて課税される」となるが、そうすると、消費税の対象となる財・サービスは、国家(政府)が提供する公共サービスなのか、ということになる。これは明らかにおかしい。(消費税については、今後詳しく検討したい)。

税収内訳(令和3年度予算)

f:id:shoyo3:20211018071733j:plain

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/001.pdf

 

このうち直接税は、所得課税(所得税法人税、住民税等)と資産課税(固定資産税、相続税贈与税自動車税等)である(63%)。間接税は、消費課税(消費税や揮発油税や酒税等)である(37%)。直接税は所得や資産の多寡により課税されるので、比較的「公平」であるが、間接税は所得の多寡に関係なく課税されるので、比較的「不公平」である。それゆえ、直間比率が租税体系の公平性を示す指標とされる。

しかし、能力原則に基づく課税の公平を重視しすぎると、国民経済上の租税原則が軽視され、国民経済が委縮してしまうと考えられている。そこで直間比率が高すぎる場合、その是正が主張されることになる。

「国民経済上の租税原則が軽視され…」というのはどういう意味かよく分からない(勤労意欲が低下する?)。

直間比率が高すぎるか否かは誰がどのように判定するのか?

 

冒頭の「法人税の転嫁」の項で見たように、「直接税であっても、ときには、その税金を支払う法律上の納税者がその税金を負担しない場合(例えば、製品価格にその会社の法人税分を含めて販売する場合)もある」(税法入門)とすれば、直接税とされる法人税は、「経済力(能力)に応じて負担する」ものではなくなり、直接税のウェイトは低くなる法人税のアップ論議で検討すべき事項だろう。

*1:税務大学校「税法入門」(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/nyuumon/pdf/all.pdf

*2:いずれ「ベーシック・インカム」を検討する際に言及することになるだろう。

*3:租税の根拠、租税負担の配分、租税原則(2021/5/27)参照。