浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

私たちは、政治家に全権委任しているのだろうか?

久米郁男他『政治学』(33)

今回は、第10章 議会、第3節 議会と政党 である。

官僚主導の立法過程

戦後日本における成立法案の85.4%が政府[内閣]提出になる閣法である。この閣法は、関連省庁からボトムアップで作成・提案される。法案作成に主としてかかわるのは官僚である、そして、関係省庁との調整も行われるのに加えて、法案準備段階では、内閣法制局による下審査に大変な労力がかけられている。…政府提出法案は、官僚機構が総力を挙げて作っている、と言えよう。

おそらくこれは昔も今も変わらないだろう。

私たちの代理人であり、立法府のメンバーであるはずの彼ら(政治家)の姿が、閣法作成過程では見えてこないという批判がある。…そもそもの法案の作成に私たちの代理人(政治家)は関わっていないのではないか、との批判である。

令和3年度の法律案の提出・成立件数は、下記の通りである。

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https://www.clb.go.jp/recent-laws/number/

第204回(常会)閣法63件の内訳は、https://www.clb.go.jp/recent-laws/diet_bill/id=3796にある。どれか興味ある法案がどのような内容のものであり、どの政治家がどのように関わったのかを調べてみるのも一興である。マスメディアは、一部法案の概要を報道するが、どの政治家がどのように関わったのかの報道は見たことが無い。もし彼らが「代理人」なら、代理人がきちんと仕事をしているのかをメディアは報道すべきではなかろうか。もし、代理人(政治家)が、個人ではなく「政党」単位で行動するというなら、選挙は個人ではなく「政党」単位でよいだろう。

 

与党による事前審査

政府提出法案の作成過程をより実際に即して見ていくと、そこでは与党の政治家が大きな影響力を発揮していることが理解されるようになってきた。官僚が提出する法案が、政治家の関与抜きで国会に提出されることはない。…法案は、自民党政務調査会の関係部会にかけられ、そこを通過すれば政務調査会審議会にかけられ、最後に総務会で決定される。これを与党による事前審査と呼んでいるが、ここを通らないことには法案は国会に提出されないのである。

官僚がどのように法案を作成するのかは不問にして、国会に提出されるまでの流れを見ておこう。次の図がよくまとまっていると思う。

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https://yamashita-takashi.jp/pdf/houritu.pdf

与党審査の実質を担ってきたのが自民党政務調査会であった。政務調査会には、各省庁に対応する形で外交、国防、農林と言った部会が置かれる一方、税制調査会、安保調査会、道路調査会といった調査会が置かれてきた。部会が対応する省庁と密接な関係を持ちつつ、ある時は応援団となり、ある時は影響力を行使してきた。

現在、部会は14ある。…内閣第一部会、内閣第二部会、国防部会、総務部会、法務部会、外交部会、財務金融部会、文部科学部会、厚生労働部会、農林部会、水産部会、経済産業部会、国土交通部会、環境部会。

例えば、内閣第二部会は、沖縄・北方対策、科学技術、宇宙政策、クールジャパン、IT、原子力防災、経済財政政策、金融、デフレ脱却、マイナンバー、規制改革、地方創生、地方分権行政改革人事院・人事などに関する政策を担当する。

これらの一つ一つを見ていくのも興味深いが、それはいずれということにしておこう。

自民党部会は党政務調査会の下部組織で、政策分野ごとに設けられており、官僚が政策を説明したり、有識者の意見を聞くなど、国会議員にとって政策を勉強する場になっている自民党では政府の重要政策について、閣議決定の前に党の政調と総務会の承認が必要という「事前審査制」が制度化されているため、部会での議論は主要政策決定過程の最初のプロセスでもある。

従って中央省庁にとって、自民党の部会は政策実現のために無視できない関門となっている。時には部会の反対にあって重要な政策が大きく変更になることもある。だが、会議が非公開なこともあって、どのような議論が行われ、政策がどう変更されたかなどは不透明で、国民にはあまり知られていない存在となっている。(薬師寺 克行、2021/3/4、東洋経済ONLINE、https://toyokeizai.net/articles/-/414492

自民党の部会*1は、政治家だけでなく、官僚や有識者も出席する。新人議員はここで鍛えられ、さまざまな役職を経験しながら、「特定の政策領域に強い族議員」が誕生する。

この族議員は、関連政策領域において政策や人事に影響力を行使し、関係省庁との間で利害の調整をし、野党との交渉に関わったり、予算獲得のために財務省に影響力を行使したりする。省庁にとっては、強い見方であり、官僚は「うちの先生」と呼んで大事にするのである。

官僚にとって政治家は、相当に気を遣う存在である、しかし、本当に重要な点は、族議員が政策の中身にも大きな影響力を行使し得る点である族議員は、法案の生殺与奪の権を持っているのである。このような族議員の影響力の大きさを捉えて、政策過程において「政高官低」現象が生じていると言われてきた。

冒頭の「官僚主導の立法過程」、そして今見てきた「族議員主導の立法過程」、いずれが実態に近いのか。恐らくいずれも正しい。というのは、官僚と族議員がほぼ同一の考え方をしていると考えられるからである(政官一体)*2

先ほど、「官僚がどのように法案を作成するのかは不問にして」と言ったが、(定義により)族議員が「特定の政策領域に強い」とするならば、法案に「特定の政策領域」に利害関係を有する業界団体の意向が反映されるであろうことは想像に難くない。当該業界団体を「財」と称するならば、「政官財三位一体」(鉄のトライアングル)の立法過程と言ってよいだろう。(但し、ここで「政」というのは、自民党族議員[幹部]のことである)。*3

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何が問題なのか?

  • 官僚が作成した法律案は、与党自民党が承認したものしか内閣提出法案とならない。
  • 与党自民党の事前審査は、非公開で何が議論されているのかわからない。
  • 事前審査は与党自民党のものであり、野党は蚊帳の外である。
  • 内閣提出法案は、ほぼ確実に成立する。
  • 国会(委員会)は、議論の場ではない。
  • 国会(委員会)は、野党の質問(事前通告あり)に答える場である。回答は、事前に準備されている。
  • 冒頭に、(法案作成に)「どの政治家がどのように関わったのかを調べてみるのも一興」と書いたが、それはまず知り得ないことのように思われる。
  • 本書は、政治家を代理人と呼んでいるが、代理人が何をしているのか分からず、私たちはそれを知ろうともせずして、代理人と呼べるのだろうか?
  • 私たちは、代理人に全権委任しているのだろうか?

全権委任法

<(高校世界史)ファシズムの台頭4 ナチ党の勢力拡大>

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https://www.try-it.jp/chapters-12143/lessons-12158/point-2/

https://www.youtube.com/watch?v=6lFYWyFniPU&t=140s

*1:次の記事も参考になる。早朝から部会に出て勉強漬け議員怒気、官僚震え…国会軽視の裏にある自民「密室」会議の実態

*2:族議員が官僚出身であったり、出身大学(学部)が同じであれば尚更だろう。

*3:推測を交えた素人意見です。