浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

認知的不協和理論(辻褄合わせの理論)

山岸俊男監修『社会心理学』(18)

今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、認知的不協和理論 である。

色々な言葉が出てきて紛らわしいが、まず認知的斉合性理論という言葉を覚えておこう。

その認知的斉合性理論の代表的なものに、(1) F.ハイダー(1896-1988)のバランス理論と、(2)L.フェスティンガー(1919-1989)の認知的不協和理論がある。

認知的斉合性理論

認知的斉合性理論とは、「ある対象への認知が、関連した他の認知と一貫性・斉合性を保てない場合に、人はいずれかの認知を変えて斉合性を保とうとする」という考えを基本にした、態度変化に関する理論の総称。(本書)

人間の身体には不均衡状態が発生すると、自発的に均衡状態を回復しようとする機能(恒常性)が備わっている。人間の認知システムにもこのような恒常性が備わっているとする理論を認知的斉合性理論と呼び、一貫性の原理とも呼ばれる。(科学事典)

人々は、自らのもつ認知内容自分や他人が知っていること、感じていること、やっていること、欲していること、さらには社会や自然界に生じていること、などについて自らがもつ認識内容)のいくつかが相互に無関係とは思えない場合には、それらの関係が斉合的である(辻褄[つじつま]がうまく合う)ようにしようとする傾向を有するという仮定を置いて、それに基づいて人々の社会的行動を説明しようとする理論。(中村陽吉、日本大百科全書

最後の説明が一番わかりやすい。とりあえず

辻褄が合わない事柄に対して、辻褄が合うように認知/態度/行動を変えようとすること

と理解しておく。これは(意識しているかどうかは別として)誰もが経験していると思われる。

 

認知的不協和理論

今回は、認知的不協和理論について、少し詳しく見ていこう。以下は「認知的不協和理論の意味とは」(川島達史)による。

「認知を構成する要素」相互の間に「不協和」が起きることを認知的不協和とよぶ。そして不協和を「低減する行動」がおきる。

認知を構成する要素…私たちが日々感じたり、考えたりしているあらゆる出来事を意味する。具体的には、考え、感情、価値観、欲求、直面している事実、味、匂い、などを表す。

不協和…認知間に矛盾が生じた状態を不協和と言う。例えば、「甘口のカレー」を食べたいと考えているにも関わらず、実際に食べてみると「辛口のカレー」だったとする。このような認知間のギャップを不協和と言う。

低減する行動…不協和が生じると人間は何らかの手段で解消しようとする。例えば、「折角だから辛口のカレーも楽しもう」と考え方を修正してみたり、辛口のカレーを食べるのを止めて、ルーを買い直す人もいるかもしれない。

認知的不協和の有名な例として、イソップ物語の「キツネとすっぱい葡萄」が挙げられるが、下記サイトの記事が面白い。

f:id:shoyo3:20220215185326j:plain

https://www.tamagawa.jp/research/brain/news/detail_4906.html

フェスティンガーのペグボード実験については、川島の記事参照。

 

認知的不協和が起きやすい状況[辻褄が合わない]

フェスティンガーは、認知的不協和が起きやすい状況を5つ挙げている。

  1. 決定後の不協和…一度決めた選択を後から修正しようとしても、もはや後戻りできない場合。
  2. 強制承諾の不協和…本人の考えと違う考えを強制的に選択させられた場合。
  3. 情報への偶発的不協和…相反する情報に偶発的に接触した場合。
  4. 社会的不一致の不協和…社会的に好ましくない感情を抱いた場合。
  5. 信念と現実の食い違い…信念と現実に食い違いがある場合。(川島)

それぞれ、具体例を考えてみると良い。

 

認知的不協和の低減法[辻褄を合わせる]

山岸(本書)は、認知的不協和の解消法を挙げている。

  1. 行動を変える。
  2. 不協和な認知要素のいずれかを矛盾の無いものに変更する。
  3. 不協和な認知要素の重要性を低下させる。[価値の低いものであると、考え直す]
  4. 協和的な新たな認知要素を追加する。[考えの幅を広げる。視野を広げる。多角的なものの見方をする]

そもそも不協和を生じさせそうなものには近づかない、という回避行動もある。

 

バランス理論と認知的不協和理論の違い

前回ふれたバランス理論と今回の認知的不協和理論はどこが違うのか。

認知的均衡理論[バランス理論]は、「好き/嫌い」、「2者関係+対象」を扱うという特徴がある。

認知的不協和理論は、「好き/嫌い」、「態度/行動」、「1人」を扱うという特徴がある。(川島)

無理に区別することなく「辻褄が合わない事柄に対して、辻褄が合うように認知/態度/行動を変えようとする」と理解しておけば良いように思われる。

 

辻褄

余談だが、「辻褄」という言葉を詮索していくのも一興である。着物の「右の褄」 と 「左の褄」 は合うものなのかどうか。*1

f:id:shoyo3:20220215185846j:plain

和楽器バンド photo by KEIKO TANABE (https://spice.eplus.jp/articles/277630

着物ではないが、この和洋折衷の舞台衣装は、デザインとしても面白い。和楽器バンドの Japan Tour 2020 ~TOKYO SINGING~での衣装である。「右の褄?」 と 「左の褄?」は合っているのだろうか?

www.youtube.com

*1:語源【辻褄 (つじつま) が合わない】(https://mobility-8074.at.webry.info/202106/article_23.html)参照