浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

市場化テスト 公共サービスの質は?

久米郁男他『政治学』(34)

今回は、第12章 官僚制 第1節 NPMの中の官僚制 をとりあげる*1

本節のサブタイトルは、「民間活力の利用と競争原理の導入」である。

先進諸国において1970年代末から、官僚制改革を方向付けるキーワードとして、ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)という言葉が用いられるようになった。…NPMを理解するには、NPMとは何かという定義について検討するよりも、NPMの一環として実行された改革の具体例を見る方が近道である。

ここで取り上げられているのが、①市場化テスト、②エージェンシー、③PFI である。

 

市場化テスト

イギリスの地方自治体において、一部の業務に関して強制競争入札制度が導入された。これは、法律等で定められた特定の公共サービスについて、地方公共団体が入札を行い、民間企業だけでなく、地方自治体の担当部局もまた入札に参加するというものである。地方自治体の担当部局も入札に参加し、落札しなければその業務は民間に奪われるという点で、従来の入札制度とは根本的に異なる。

非効率な行政ならば、民間に任せようというのも一理あるのだが…

入札の対象は、1980年の導入当初は道路・下水道などの建設・維持管理業務などに限定されていたが、1988年にはビル等の清掃、ごみ収集、学校給食、公園の維持管理などにも拡大され、更に1995年以降、法律関係事務、建設設計、情報処理、人事、財政などにも拡大されていった。業務によっては、過半数が民間企業に落札される結果となっている。

どういう業務を競争入札の対象とするかが問題である。最も安い価格に落札するという「価格」だけを判断基準として良いのか、民間に任せるのがふさわしい業務なのかどうかを検討する必要がある。

中央省庁においても同様の手法が「市場化テスト」として1992年に導入され、同じく半分以上の業務が民間に落札されている。

強制競争入札市場化テストは、経費節減という効果を生んだだけでなく、行政が入札の準備をする中で、業務を惰性的に行うのではなく、目標やサービス範囲の明確化などを積極的に行うようになった、と言われている。*2

行政に限らずどんな組織でも、「上から言われたままに」業務を惰性的に行う、(環境変化に対応しない)前例を踏襲する、法令・ルールをその意味・趣旨を理解せず遵守するという者はいるわけで、その改善のために「市場化テスト」(競争)は一つの方策であるのかもしれない。

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https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g001982

 

別の解説記事を参照しよう

市場化テストとは、国や自治体が運営してきた公共サービス(水道事業やハローワーク関連事業)を国だけに任せるのではなく、民間事業者も公共サービスの担い手になれる制度です。

官民が平等な条件のもとに競争入札を行い、サービス内容と価格面で優れた方が公共サービスの担い手となれる制度であり、公共サービスの質の向上と経費削減を両立することが可能です。

市場化テストで国と民間事業者を競わせることで、公共サービスに携わる人々の意識を変える効果や、民間事業者に新たな市場創造につながるとも言われています。(カオナビ、人事用語集*3

民間事業者が公共サービスの担い手になることによって、「公共サービスの質の向上と経費削減」が期待されるかどうかは検証を要する。なお、公共機関ではなく民間事業者が担い手となったサービスを「公共サービス」と呼ぶのは、果たしてどうなのだろうか。

民間事業者が公共サービスの担い手になることで、デメリットになる可能性もあります。民間事業者は利潤の追求が主目的のため、ビジネスとして事業を展開するあまり、効率を優先し過ぎてしまう場合があります。その結果、公共サービスの利用者が満足なサービスを受けられなくなってしまう可能性があります。また、近年問題となっているのが、民間事業者が公共サービスを官民競争入札制度によって入札するものの、条件が厳しいために落札する企業が1つも出ない、あるいは落札しても従業員が悪条件で労働させられているという問題です。企業は公共サービスの担い手となるためにギリギリの条件で入札を行っているため、従業員の低賃金化、サービスの質の低下という悪循環に陥っています。(カオナビ、人事用語集)

従業員の低賃金化、サービスの質の低下を招くならば、本書の記述のように、市場化テストを高評価するわけにはいかないだろう。

 

市場化テストといえば、「民営化」が思い浮かぶが、これには違いがあるという。

市場化テストと民営化にはその法的な責任において違いがあります。民営化された事業は、何か問題が発生した時に責任を負うのは当然ながらその事業者であり、国や自治体側は責任を追及されることはありません。しかし、市場化テストによって民間が運営するようになった事業では、問題や事故を起こした事業者側も責任は問われますが、最終的な責任を負うのは事業を発注した国です。現在のところは、ここが市場化テストと民営化の大きな違いとなっています。(カオナビ、人事用語集)

どちらがどの程度責任を負うかは、契約次第であるように思う。(詳細を知らないので、はっきりしたことは言えない)

*1:順番から言えば、第10章 議会、第3節 議会と政党 の続きであるが、本節及び 第11章 執政部は、全くとりあげる気のしない評論記事のようなので省略する。

*2:「…と言われている」とは何だろうか。著者の見解ではないのだろうか。市場化テストのデメリットにふれていないのは何故だろうか。

*3:市場化テストとは? 事例、官民競争入札制度をわかりやすく解説(https://www.kaonavi.jp/dictionary/market-test/