浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

さまざまな接続関係

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(1)

今回は、第Ⅰ編 接続の論理 第1章 さまざまな接続関係 である。

さて、いきなり問題である。問題は「次の文章において適切な接続表現を選び、どうしてそれが適切であり、他方が不適切なのかを説明せよ」である。

【練習問題1-3】風土そのものが持つ様々な特徴は、具体的に人間の生活と結びついて我々自身の特徴となる。(a)[それゆえ/たとえば]稲及び様々な熱帯的な野菜や、麦及び様々の寒帯的な野菜は、人間が自ら作るものであり、したがってそれに必要な雨や雪や日光は人間の生活の中へ降り込み照らし込むのである。また台風は稲の花を吹くことによって人間の生活を脅かす。(b)[だから/すなわち]台風が季節的でありつつ突発的であるという二重生活は、人間の生活自身の二重性格に他ならない。豊富な湿気が人間に食物を恵むとともに。同時に暴風や洪水として人間を脅かすという、モンスーン的風土の二重性格の上に、ここにはさらに熱帯的・寒帯的、季節的・突発的といった特殊な二重性格が加わってくるのである。

【課題問題1-6】木の葉が落下する要素を注意深く観察してみると、面白いことがわかる。木の葉は、ただ単純に落下しているのではないのだ。葉っぱの種類や風向き、落とす高さなどによっても変わるが、木の葉はまず、そのまま真下か、少し斜め方向に、直線的に落ち始める。[そして/しかも]、だんだんスピードが上がるとくるくると回転しながら落下する。このような変化は、重力による加速に伴うエネルギーの流入を、いかに効率的に逃していくか、というバランスの下で生じている運動パターンなのである。*1

【練習問題1-3】は和辻哲郎『風土』に基づき、【課題問題1-6】は三嶋博之『エコロジカル・マインド』を参考にした文章である。

どちらかの接続詞を選び正解すればそれで良しという問題ではない。各接続詞の適切、不適切の説明問題である。

【練習問題1-3】の野矢の解答例は次の通りである。

冒頭でまず言いたいことが提示される。その後、具体的な事例が挙げられる。これは、一般的主張から帰結を導いているというより、最初に述べた主張がまだ分かりにくいことなので、具体的に例示しているものと考えられる。そこで(a)には「たとえば」を入れる。次に、「台風は稲の花を吹くことによって人間の生活を脅かす」ということと「台風が季節的でありつつ突発的であるという二重生活が人間の生活自身の二重性格に他ならない」ということの関係は、前者を後者が解説しているものではなく、前者が後者の理由を与えていると見るべきである。それ故、(b)には「すなわち」ではなく「だから」を入れる。

私は和辻の『風土』を読んだことが無いが、コロナ・ウイルスの二重性を思い浮かべてしまった。

本章の接続詞の選択問題はいずれも容易である。しかし、「その解答がなぜ適切なのかを説明せよ」という問題に対してはうまく説明できないのではないか。

 

ここで本書の冒頭に戻り、野矢はなぜ「接続の論理」を問題にしているのかの説明を聞いてみよう。

議論の流れをつかむとは、様々な主張のつながり具合を把握することに他ならない。そのさい、把握する議論のまとまりを次第に大きくしていくことが大事である。…こうして、細部の解剖図とともに、様々なアングルからの鳥瞰図が得られたとき、我々は提示された議論の理解へと前進することになる。

細部の解剖図なき鳥瞰図、鳥瞰図なき解剖図、いずれも片手落ちである。そのような主張のなんと多いことか。解剖図、鳥瞰図の両方相まって、主張は説得力あるものとなるだろう。*2

論理にとって重要な接続関係は大きく分けて次の4つに分類できる。

  1. 解説…その内容を解説する。(すなわち、つまり、言い換えれば、要約すれば)*3
  2. 根拠…その主張がどうして言えるのか、その根拠を提示する。
    理由と帰結の関係。(理由:なぜなら、というのも、その理由は、ので、から。帰結:それ故、したがって、だから、結論として)
    根拠の接続関係は「論理」に最も密接に関わるものであり、根拠の接続表現が用いられている頻度を見れば、その文章が「論理的」であるかどうかのある程度の目安になるほどである。
  3. 付加…そして新たな主張を付け加える。(そして、しかも、むしろ)
    しかも:「A。しかもB」というとき、主張Bは単純に主張Aに付加されるのではなく、主張Aの持つ方向性を共有し、それを一層強める働きを持つ。
    むしろ:二つの事柄のうち一方を選び取ることを表す副詞であるが、そこから派生して、しばしば否定的主張に肯定的主張を付加する表現として用いられる。
  4. 転換…あるいは主張の方向を転換する。(しかし、だが)

以上4つの分類のほかに、「例示」、「補足」という接続関係も挙げられている。

例示…具体例による解説ないし根拠づけ。(たとえば)

補足…(ただし、もっとも)

転換の興味深い例が挙げられている。

(a)この店はうまいが、高い

(b)この店は高いが、うまい

(a)は「だからやめよう」と続きそうなところであり、(b)は「だから入ろう」と続きそうなところである。

こういう言い回しは、よく耳にする。「確かにあなたのおっしゃる通り~ですが、ただ~という可能性を考えなければならないと思います」。

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【課題問題1-6】の私の解答(野矢は課題問題に解答していない)

「木の葉は、ただ単純に(直線的に)落下しているのではない」という主張Aと、「スピードが上がるとくるくると回転しながら落下する」という主張Bは、どういう関係にあるかと言えば、主張Bは「主張Aの持つ方向性を共有し、それを一層強める働きを持っている」ので、「しかも」が適切である。

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https://diamond.jp/articles/-/229171

*1:問題を離れて、この文章は興味深い。自然現象としての「螺旋」は素粒子の回転運動から、星々(銀河系)の回転運動を想起させる。

*2:もっとも、人は「論理」(理性)のみでは、納得できないことが多い。「感性」の重要性を軽視してはならない。

*3:解説は、「要約」、「敷衍」、「換言」に細分される。