浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

接続の構造 ― その根拠に説得力はあるか

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(2)

今回は、第Ⅰ編 接続の論理 第2章 接続の構造 である。

指示関係

こそあど言葉」というものがある。「現代語の、代名詞・形容動詞・副詞・連体詞の中で、指し示す働きをもつ語をまとめた呼び方」(デジタル大辞泉)である。「指示語」という。

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そもそも、なぜ我々は指示表現を用いるのだろうか。もちろん、一つには表現の反復を避けるためである。だが、単にそれだけではない。むしろ、指示表現の極めて重要なポイントは議論を接続することにある。他の箇所の表現を指示することにより、それと同じ事柄がここで論じられていることを示す。そうして二つの主張をつなげるのである。

ある場合には、指示関係を明らかにするとは、その指示表現が指し示している主張のまとまりを要約するに等しい作業となる。そして実際、これは指示表現の重要な機能なのである。

ふだん会話で使っている「指示語」をふりかえってみれば、何を指し示しているのか必ずしも明確ではなく、「曖昧語」でもある。私は、ときどき「その辺りがよく分からない」などという言い方をする(私はどこが分らないのか分かっているのだが)。聞き手は恐らく「どの辺り」かよく分かっていないだろう。

野矢は、ここで「議論の接続」から見た指示語の話をしているので、これは余談であった。

 

接続構造の分析

前回(第1章)以下のような接続関係を見た。

  1. 解説…その内容を解説する。(「すなわち」、「つまり」、「言い換えれば」、「要約すれば」)
  2. 根拠…その主張がどうして言えるのか、その根拠を提示する。理由と帰結の関係。

理由:「なぜなら」、「というのも」、「その理由は」、「ので」、「から」。帰結:「それ故」、「したがって」、「だから」、「結論として」)

  1. 付加…新たな主張を付け加える。(「そして」、「しかも」、「むしろ」)
  2. 転換…主張の方向を転換する。(「しかし」、「だが」)
  3. 例示…具体例による解説ないし根拠づけ。(「たとえば」)
  4. 補足…(「ただし」、「もっとも」)

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今回(第2章)、野矢は接続関係を記号化している。

例示……AたとえばB

転換……AしかしB

補足……AただしB

「記号化」というから難しい記号が出てくるのかと思ったら、上の3つは日常用語である。

次の3つは、記号らしくなる。

解説……A=B

根拠……A→B あるいは A←B

付加……A+B

「根拠」の記号は見慣れたものであるが、「A=B」と「A+B」は、それぞれ「解説」と「付加」であると言う説明が無いと分かりにくいかもしれない。そこで、

 A=Bは、AすなわちB

 A+Bは、AそしてB

と読むことにすれば、分かりやすいだろう。

以上で、例題や練習問題を全て省略したが、ここで課題問題をとりあげよう。

【課題問題2-6】次の文章を読んで問いに答えよ。

①人間の脳には皺がある。②これは、我々が大量の情報を脳で処理しなければならないからである。すなわち、③脳において高度な役割を受け持つのは、大脳皮質と呼ばれるその表面、厚さ1.5~4mmの灰白質の層であり、それゆえ、④その部分を増大させようとすれば、直径を大きくするよりも皺をつけて表面積を増やした方が有効なのである。そうして、人間の脳は2200cm2もの表面積を持つに至っている。また、このことは大量の情報処理を要求しない場合には皺はいらないことを意味している。実際、ネズミなどの脳は滑らかであり、人間でも胎生の初期には脳にはまだ皺が無く、滑らかである。

(1) ①~④の接続構造を記号と番号を用いて図示せよ。

(2) 下線部の「このこと」の内容を述べよ。

私の解答は下記の通りである。(野矢は課題問題に解答していない)

 (1)(①←②=③)→④

 (2) 大量の情報を処理しなければならないから、脳に皺がある。

(1)の補足…①←②は、「①なぜなら②」という理由と帰結の関係である。②=③は、「②すなわち③」という「解説」である。①→④は、「①それゆえ④」という理由と帰結の関係である。この理由と帰結の関係は、「その主張がどうして言えるのか、その根拠を提示する」ものである。

(2)の補足…果たして①→④は言えるのか。その根拠に説得力はあるか。<何らかの「変異」により、脳に皺ができるようになった。これにより、大量の情報が処理できるようになった>とは言えないか。これは<大量の情報を処理するために、脳に皺ができるようになった>とは異なる説明である。安易に目的因を導入した説明には注意を要する。