浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

公共事業(施設)を、民営化することによって、コスト削減・質の高い公共サービスが可能になるのか?

久米郁男他『政治学』(36)

今回は、第12章 官僚制 第1節 NPMの中の官僚制 の続き(p.235~)である。

NPM(New Public management)の具体例として、①市場化テスト、②エージェンシー、③PFIがあげられていたが、今回は、③PFIを見てみよう。

PFIとは

PFI(Private Finance Initiative)とは、民間企業がリスクを負い、民間の資金・ノウハウを社会資本整備に活用する手法である。1992年、イギリスにおいて誕生した。…公共施設の設計、建設、維持管理を民間に委託することは、「民間委託」としてすでに広く見られる。しかし、さらに一歩進めて、公共施設の所有も民間にゆだね、行政は賃貸料を支払って借り受けることも視野に入れる。その方が効率的で効果的であればそうする、というのがPFIの発想である。公共資本の民間所有を促すことがPFIの本質である。

日本においても、1999年9月にPFI推進法が施行され、いくつかの自治体が導入を検討している。しかしながら、技術的な理由からなかなか難しい問題もある。例えば、民間が公共施設を運営する場合、民間は様々なリスクを負うことになる。しかし、事前にそれを適切に見積もり、行政と民間の間で交わされる契約に反映させるのは容易ではないからである。

「公共施設の所有を民間にゆだねる」とはどういう意味だろうか。公有財産(公共の利益のために使用される財産)を民間に売却し、所有権を移転するという意味だろうか。であれば、公有財産を私有財産にするということがPFIの本質である、ということだろうか。

PFIの他の説明をみてみよう。

公共施設の整備に民間の資金や技術力、経営能力を活用する手法。英国で開発された手法で、建設だけでなく、設計資金調達から管理運営まで包括的に民間が主導し、政府はこれらの民間サービスを購入する。(北山俊哉、2007、知恵蔵)

設計、資金調達を含め、包括的に民間が主導する」という点が重要である。設計、資金調達を含めなければ、「包括的」とは言えないだろう。

日本のPFIについては、おそらく内閣府の説明が適切である。*1

PFI(Private Finance Initiative)とは

        ⇩

  • 民間の資金、ノウハウ等の活用により、公共施設等の整備等にかかるコストの縮減
  • 国・地方とも財政状況の厳しい中で、真に必要な社会資本整備公的資金のみでなく、民間の資金やノウハウを活用することにより効率的に進め、経済活性化及び経済成長を実現。

第1に、「公共施設等の建設、維持管理、運営等」に限定されていること。「公共施設」は「公共事業」でも「公有財産」でもない(「等」は要注意だが)。「建設、維持管理、運営」に限定されていること。「設計」は含まれていない(「等」は要注意だが)。

第2に、「民間の資金、経営能力及び技術的能力の活用」により、「コストの縮減」が目されていること。民間の資金活用により、コストの縮減が可能かどうかは検討を要する。Financeというからには、民間資金活用が重要項目なのだろう。民間の経営能力活用によりコストの縮減が可能であるかどうか。公務員の高賃金を民間の低賃金に置き換えることによるコストの縮減ではないのか。必要なものを無駄と称してコスト削減するということはないのか。「技術的能力」(ノウハウ)が何を指すのかよくわからない。公務員には能力(ノウハウ)が無いということだろうか。

この点については、各種PFI情報 → PPP/PFIとは → PFIの効果 → 1. 低廉かつ良質な公共サービスが提供されること では、次のように述べられている。

PFI事業では、民間事業者の経営上のノウハウや技術的能力を活用できます。また、事業全体のリスク管理(*)が効率的に行われることや、設計・建設・維持管理・運営の全部又は一部を一体的に扱うことによる事業コストの削減が期待できます。これらにより、コストの削減、質の高い公共サービスの提供が期待されます。

*リスク管理:事業を進めていく上では、事故、需要の変動、物価や金利の変動等の経済状況の変化、計画の変更、天災等さまざまな予測できない事態により損失等が発生するおそれ(リスク)があります。PFIでは、これらのリスクを最もよく管理できる者がそのリスクを負担します

これを読んでも、どうして「コストの削減、質の高い公共サービスの提供が期待される」のかわからない。「民」にまかせればすべてうまくいくことが期待される、と言っているように聞こえるが、どのような論拠があるのだろうか。(なお、私は「官」のままで良いとは言っていない)

「リスク」を誰が負担するのか。PFI(Private Finance Initiative)は、リスクは「民」が負担するものだと思っていたが、「リスクを最もよく管理できるものが負担する」とはどういうことだろうか。

 

PFIの対象施設

どういう公共施設がPFIの対象となっているのか。

 

公共施設

道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道、工業用水道等

公用施設

庁舎、宿舎等

公益的施設等

公営住宅、教育文化施設廃棄物処理施設、医療施設、社会福祉施設、更生保護施設、駐車場、地下街等

その他の施設

情報通信施設、熱供給施設、新エネルギー施設、リサイクル施設、観光施設、研究施設

https://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_jouhou/aboutpfi/pfi_taishou.html

 

PFI事業の実施状況

https://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_jouhou/pfi_genjou/pdf/pfi_genjyou.pdf

 

コンセッション

コンセッションとは何か。

空港、道路などの公共インフラストラクチャー(インフラ)の所有権を政府などの公共団体が保有したまま、事業・運営・開発などの運営権を一定期間、民間へ売却すること。政府が民間に権利を与えるためコンセッション(譲与)とよばれる。「公共施設等運営権制度」と訳されることもある。民間の資金やノウハウを社会資本整備に生かすPFIやPPPの一種である。…(日本大百科全書

竹中平蔵PFI・コンセッション】インフラに民間の資金や運営ノウハウを活用>

www.youtube.com

所有権を移転せず、運営権を売却するというコンセッション(公共施設等運営権制度)に問題は無いのかどうかを考えてみる必要があろう。

 

水道事業の民営化

大阪市、水道管交換の民営化頓挫(2021/10/1、読売)

www.yomiuri.co.jp

大阪市、水道管の更新事業が長期化へ 「民営化」方針が頓挫(2022/1/29、朝日)

www.asahi.com

・「PFI管路更新事業の総括及び今後の基本的方向性について」をとりまとめました(2022/1/28、大阪市水道局)

www.city.osaka.lg.jp

・水道事業、4月1日から民営化 宮城県が運営権売却(2022/3/31、共同)

nordot.app

・官は非効率、民は効率的は嘘だった!大阪市水道管更新PFIが頓挫!

www.youtube.com

・誰のため?水道事業のコンセッション方式が本末転倒すぎる

www.youtube.com

*1:PFIについては、内閣府ホーム > 内閣府の政策 > 民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)(https://www8.cao.go.jp/pfi/index.html)に詳しい。詳細検討しようというなら、これらに目を通しておく必要があろう。ここでは、PPP/PFI推進に向けた施策 → 各種PFI情報 → PFIの現状 にある「PFIの現状について」というPDF(https://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_jouhou/pfi_genjou/pdf/pfi_genjyou.pdf)による。