浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

個別消費税と一般消費税

神野直彦『財政学』(33)

今回は、第14章 生産物市場税の仕組みと実態 (p.199~)をとりあげる。

 

生産物市場税

生産物市場税は、関税と内国消費税に分けられる。内国消費税は、個別消費税と一般消費税とに分けられる。

個別消費税は特定の生産物に課税され、一般消費税は生産物一般に課税される。

一般消費税は誰もが知っていよう。標準税率10%、軽減税率8%である。

個別消費税には、酒税、たばこ税、揮発油税ガソリン税]などがある。

ビールや日本酒やウイスキーにはどれ位の税金(一般消費税ではなく、酒税)がかかっているのだろうか。

品目ごとの酒税は、https://www.mof.go.jp/tax_information/images/image6.pdf 参照。

この表から「ビール350ml」について見てみると、ビール小売価格(税込)219円から、酒税70円、消費税19.91円*1を引いたビール小売価格(税抜)は129.09円となるので、酒税70円は54%となる。同様に、リキュール(発泡性)[新ジャンル]、清酒ウイスキーについて見てみると、次のようになる。

ビール54% > リキュール(発泡性)35% > ウイスキー19% > 清酒12%

ビール系飲料については、今後税率変更が予定されている。

https://www.aeonbank.co.jp/asset/special/212/

 

生産物市場税は租税客体に着目して課税し、租税主体には関心がない。つまり、人税のように租税主体に着目していないため、生産物市場税は能力原則の要請に応えることはできない。生産物市場税は、生産物に私的所有権を設定し、生産物市場での取引を保護するという政府の提供する公共サービスの利益に対して支払われる、利益原則に基づく租税ということができる。

夏になれば、ビヤホールで生演奏を聴きながら、ビールを飲む。これらの財・サービスにかかる一般消費税は、「生産物に私的所有権を設定し、生産物市場での取引を保護するという政府の提供する公共サービスの利益に対して支払われる、利益原則に基づく租税」だと言えるのかどうか。まだよく分からない(屁理屈のようにも聞こえる)。

 

個別消費税の課税対象

個別の生産物に課税する個別消費税では、需要の価格弾力性の低い[価格が変動しても需要があまり変わらない]生産物に課税せざるをえない。というのも、価格弾力性の高い生産物に課税すれば、課税による僅かな価格上昇でも需要が大幅に減少し、租税収入が望めなくなるからである。

価格弾力性が低い生産物は、生活必需品である。しかし、生活必需品に対する課税は、人間の生存を困難にするため租税抵抗を生む。そこで課税によって人間の生存が脅かされることなく、需要の価格弾力性が非弾力的な[需要が価格変動に影響されない]生産物が探索される。

…そこで常用すれば習慣性になるけれども比較的軽度の中毒症状で済む酒、煙草などが、個別消費税の課税対象として選択される。…さらに、自動車が普及すると、燃料として代替品の無いガソリンも、需要の価格弾力性が非弾力的となる。そこでガソリンも個別消費税の課税対象に加えられたのである。

ひょっとすると、スマホも「比較的軽度の中毒症状で済む」物品かもしれない。そこで、主要仕様ごとに、○○円というスマホ税が課されることになったりして…。スマホは生活必需品だという向きには、大反対されるだろうが。

 

一般消費税の誕生

従量制で課税される個別消費税には、致命的な欠陥がある。それはインフレに対応できないということである。

従量税は一定数量に対する一定金額として課税されるため、生産物の価格が上昇しても、租税負担は一定のままである。むしろ価格に対する租税負担は事実上、減少してしまい、インフレに対応して税収を上げることはできない。従価税[取引価格を課税標準とする]であれば、インフレで価格が上昇するに従い、税収も増加していく。

…しかし、従価税を導入するのであれば、個別消費税に固執する必要はなくなり、生産物一般に課税することができるようになる。こうしてインフレが激化した第一次大戦末期に、一般消費税が登場することとなったのである。

従量税は、課税標準に重量、個数、体積などの数量を使い、1単位当たりいくらという税率で課税される。従量制で課税される個別消費税がインフレに対応できないというのは、実質的に税収が減になるという意味である。それは、政府にとっての欠陥である。逆にデフレには対応できて、実質的に税収が増になるから、政府にとって望ましいということになる(のだろうか?)。

労働者の賃金も、企業にとっては、従量税で課税される個別消費税と同等である(従価税のように売上高の一定比率が賃金になるわけではない)。インフレになれば、実質的に賃金は減になる。

一般消費税誕生の歴史的経緯は知らない。ただ、戦費調達のためというのは容易に想像できるところである。

*1:消費税は、小売価格(税抜)129.09円+酒税70円=199.09円に対して、その10%の19.9円である。