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輸出取引に係る消費税の処理は不合理ではないか?

神野直彦『財政学』(36)

(前々回の続き)

1.輸出取引に係る消費税の処理

今回は「輸出取引に係る消費税の処理」について考えてみよう。(検討中のメモ)

https://lab.pasona.co.jp/trade/word/362/

輸出取引においては、消費税が免税となるので、売上に係る消費税はゼロである。なぜ免税としているのかといえば、「内国消費税である消費税は外国で消費されるものには課税しないという考え」(国税庁*1に基づいているからである。

一方、仕入れには「消費税が含まれている」(転嫁されている)。外国の消費者から消費税を徴収できないので、仕入に含まれる「消費税」は返してもらわなければならない、というわけである。これが消費税の還付である。上例では、売上に係る消費税③は0、仕入に係る消費税②は60なので、60の消費税還付を受けることができる。納付税額合計はゼロである。

今回は、この免税と消費税還付の処理が合理的かどうか考えてみよう。

税金は日本国内で必要とされる公的支出を賄うために、日本が定めた法律によって課されるものであり、消費税は日本で消費される財に課されるものとして定められたものであるから、外国で消費される財(その財の生産国が日本であろうと)に課されるものではないという意味では、輸出取引に課税しない(免税)というのは理解できる。

次に消費税の還付であるが、これを考えるには、そもそも消費税とはどういう税金なのかを検討する必要がある。

2.「消費税」再考

まず通常の国内取引で説明される図解。

組立・完成品製造業者(以下、完成品業者)から消費者への流れとしたのは、輸出取引と対比するため。(メーカー直販と考えればよい)。

ここで、原材料製造業者(以下、原材料業者)と部品・装置製造業者(以下、部品業者)に、5%の「税金」が課税されると仮定してみよう。

このように仮定しても、消費者が負担する税は変わらず、また納付税額合計も変わることはない。計算式をみれば明らかなとおり、[①]+[②-①]+[③-②]=③であり、①,②の税額は関係ない(0%でも変わることはない)。

これは、消費税が転嫁され累積されていくことを意味しているのだろうか?

原材料業者の売上に係る税額①(=部品業者の仕入に係る税額)と部品業者の売上に係る税額②(=完成品業者の仕入に係る税額)が仕入控除される仕組みになっていれば、納付税額合計は、完成品業者の売上に係る税額③に等しい。前段階の税額が「転嫁」されるとか、「累積」していくということではない。仕入控除が肝である。

ここは考えどころである。

消費税はどういう仕組みになっているのか? 消費税とは、「消費財」を対象とする税金である。消費者と販売業者との取引価格から税額が算定されるものである。業者間の取引価格は関係ない。消費財の取引ではない。③が消費税である。

現在のような仕組みにしたのはそれなりの理由があると思われる。私は消費税制度創設の経緯・議論を勉強していないので、以下は推測である。

消費税は、消費者と小売業者(個人事業主を含む)との取引価格に一定税率を乗じて算出し、小売業者を納税義務者とすれば済む話である。しかしそうすると、卸売業者が(販売部門を新設して/小売業者を取り込んで)消費者に販売するようになる。製造業者が(販売部門を新設して/小売業者を取り込んで)消費者に販売するようになる。そうなると、卸売業者や製造業者にも「消費税」を課す必要が出てくる。これを適正に執行するには税務コストが嵩むと考えられる。そこで、欧州の付加価値税の仕組みを参考に、すべての業者に同率の税金を「消費税」と称して、売上高×消費税率として算定し、前段階の売上高×消費税率を仕入税額控除するようにしたのではなかろうか。[②-①]や[③-②]である。納付税額合計は③となり。これは消費税と呼んでいい。以上より、現在の消費税制は、消費税③を分散納付する仕組と言えるだろう。

3.「輸出取引に係る消費税の処理」再考

冒頭の「輸出取引」の図をもう一度見てみよう。上述(2.「消費税」再考)のところから、免税と仕入に係る消費税の還付という処理はおかしいと感じられないだろうか。できるだけ論理的に考えてみよう。

(a)消費税とは「内国」消費税であり、「外国」の消費に課す税金ではないとすれば、取引高に課税しないのは正しい処理である。但し、「免税取引」ではなく、「不課税取引」*2と考えられる。そして、消費税納付の仕組みが、「分散納付」の仕組みであるとすれば、輸出企業ではなく前段階の業者が納付した「消費税」を還付するのが、論理整合的であると考えられる(本来、消費税対象の取引ではないにもかかわらず、前段階の業者が納税している)。しかし、この計算は実務的には難しいだろう。だからと言って、輸出取引が還付を受けるのはおかしい。輸出取引の還付を認めないとすれば、納税も還付もゼロである

(b)「消費税」と称しているが、実は「付加価値税」なのだとしてみよう。消費税の計算式「(売上高-仕入高)×税率」は、付加価値税とみなすことができる(課税根拠の議論は無視)。だとすると、輸出取引においても、仕入税額控除をして良い。付加価値税とみなす場合、売上高×税率の税額を免税としないことが、論理整合的であると考えられる。輸出取引については、(売上高-仕入高)×税率=(1,000-600)×10%=40が納付税額となる。

(c)「消費税」と称しているが、実は「取引高税」なのだとしてみよう。消費税の計算式「(売上高-仕入高)×税率」は、取引高税とみなすことができる(課税根拠は「取引安全の担保」)。これは輸出取引であろうがなかろうが関係なく、すべての取引に課税するものである。消費税は消費者との取引価格にのみ課税するものであるから、すべての取引に課税するとなれば、現在の消費税収のレベルと同額を確保するための税率は低率で良い。国税庁の消費税解説の図表(前回記事の「消費税の負担と納付の流れ」の図表)の数値例で試算すると、消費税10,000÷売上高累計240,000=4%となる。輸出取引の例で試算すると、(売上高-仕入高)×税率=(1,000-600)×4%=16が納付税額となる。

(d)輸出取引は、「不課税」ではなく、「非課税」でもなく、「免税」とされている。非課税と免税の違いは何か。国税庁は、「非課税取引には消費税が課税されないので、非課税取引のために行った課税仕入れについては、原則としてその仕入れに係る消費税額を控除することができない」とし、「輸出や輸出類似取引には消費税が免除される。したがって、その輸出や輸出類似取引などの免税取引のために行った課税仕入れについては、原則として仕入れに係る消費税額を控除することができる」としている*3。免税取引とされるのは、輸出(&輸出類似取引)のみである。仕入に係る税額控除をするためにのみ、「輸出取引」も本来課税すべき取引であるとし、「免税取引」(ゼロ税率の課税)というカテゴリーを作ったのではないか。「輸出取引」は、本来課税すべき取引であるとは考えられない。

4.取引高税の可能性

必要な財政支出を賄うために、「原材料製造業者-完成品製造業者-卸売業者-小売業者」の「業者間の取引」に従価税を課税することは考えられる。これは、取引価格に課税するので「取引高税」と呼ぶ。「小売業者-消費者」間の取引は「業者間取引」ではないが、取引価格に課税するので、同じく「取引高税」と呼んでいい。取引高に課税するという点では現行消費税と同じであるかのように見えるが、この税には「仕入控除」がない。「取引高税」の課税根拠は「取引の安全を担保すること」にあると考えるので、流通の後段階で取引価格が大きくなったとしても、それは担保価値の増加と考える。それ故、仕入控除する理由がない。

すべての取引に課税することは可能だろうか。課税業者が税務申告する際の売上高(=取引高)に一定税率を乗じて算定するだけだから単純そのものである。

5.取引高税の逆進性

販売業者が消費者と取引する場合にも「取引高税」が課せられるとすれば、消費者は取引高税を含んだ代金を支払わなければならないので、「消費税」と同じではないか。消費税が逆進的であるとすれば、取引高税も逆進的なのではないか。…これは誤りである。消費者は「取引高税」を払っているのではない。「取引高税」の負担者は、消費者ではなく事業者である。間接税ではなく、直接税として考えている。従って、逆進性の話は出てこない。

*1:タックスアンサー「No.6551 輸出取引の免税

*2:タックスアンサー「No.6209 非課税と不課税の違い

*3:タックスアンサー「No.6205 非課税と免税の違い