浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

収益税、流通税、金融取引税

神野直彦『財政学』(37)

今回は、第15章 要素市場税の仕組みと実態(p.213~)をとりあげる。

神野は、生産物市場税(前章)と要素市場税(本章)に大きく区分している。次の説明は、唐渡広志による*1

生産物市場財・サービスを売買する市場。…企業は、生産物市場において、さまざまな財・サービスを売り、家計は、生産物市場において、さまざまな財・サービスを買う。

生産要素市場労働、資本、土地(の使用権を)を売買する市場。…企業は、生産要素市場において、労働、資本、土地などを家計から借り、家計は、生産要素市場において、労働、資本、土地などを企業に貸す。

以下は、神野の説明である。

収益税の展開

生産要素が生みだすサービスの価格に課税する租税として、収益税がある。これは土地の地代、資本の利子などに課税される租税で、フランスや日本の例では、地租、家屋税、営業税、資本利子税の4つに分かれている。

生産要素(の使用権)の売買価格に課するものを「収益税」と呼んでいるようである。但し、

現在の日本では、収益税として地租家屋税とを統合した固定資産税と、営業税である事業税がある。資本利子税は建前としては無いことになっているが、利子所得にかかる源泉分離課税の所得は、資本利子税ということができる。

固定資産税や事業税が具体的にどのように算定されるのか。

固定資産税は土地、家屋、償却資産である機械設備などの「資産としての生産要素」の価格を課税標準としている。これに対して事業税は事実上、個人については事業所得などに限定した比例所得税であり、法人についは、(電力業などで元売額を基準とする例外はあるものの)法人税と同様に法人利潤を課税標準としている。

算定の詳細にはふれないが、「生産要素(の使用権)の売買価格に課す税金」といってよいかどうか。

「労働」という生産要素に対してはどうか。

収益税は生産要素に対する課税であると言っても、原則として労働という生産要素を課税対象とすることはない。しかし、社会保障負担、あるいは社会保険は、賃金を課税標準としているため、労働という生産要素に対する要素市場税ということができよう。

「税金」と「社会保険料」の違いについては、別途詳しく検討したい(特に、「国民健康保険料(税)」と称されるものについて)。混同すべきではない。

資産としての生産要素の取引に対する課税は、流通税と呼ばれてきた。こうした租税は、大きく不動産取引税資本取引税に分かれる。前者では不動産取得税、後者では有価証券取引税などを、代表例として挙げることができる。いずれも、不動産あるいは有価証券の資産市場における取引価格を、課税標準としている。

庶民には(直接的には)あまり関係ないが、有価証券取引税[参考2参照]や不動産取引税は、間接的には(本質的には)、「公正」「公平」「平等」の観点からは、よく検討されるべき税目だろう。

(参考1)収得税、収益税、財産税、流通税、消費税

関東信越税理士会は、「納税者の租税を負担する能力(担税力)の基準を何に置くかにより、次のように区分することができる」と述べている。*2

  1. 収得税…個人又は法人の所得に担税力を見出す税。(例)所得税法人税など。
  2. 収益税…個人又は法人の収入に担税力を見出す税。(例)現在は収益税に相当する税はない
  3. 財産税…個人又は法人の財産の所有という事実に担税力を見出す税。(例)相続税贈与税地価税、固定資産税など。
  4. 流通税…個人又は法人の権利の特喪に担税力を見出す税。(例)有価証券取引税、印紙税とん税など。
  5. 消費税…個人又は法人が物、サービスを消費する点に担税力を見出す税。(例)消費税、酒税、石油税、たばこ税等など。
(参考2)金融取引税

流通税の一種で、金融商品の譲渡を課税対象とし、その取引によって利益が生じたかどうかにかかわらず課税する税制。日本では有価証券取引税や取引所税などが1893年より存在したが、1999年に廃止され、現在は利益に対して所得税法人税が課税されている。(Wikipedia

Wikipediaには、次のような記述がある。

2020年に入り新型コロナウイルス感染症への経済対策に端を発した給付金や導入の機運が高まっているベーシックインカムなどへの財源の必要性などから、超低率で莫大な財源創出が見込めるこの金融取引税やトービン税(通貨取引税)などの導入の機運が世界的に高まっており、効果を発揮させるためには全世界での協調導入(国際連帯税として)が必要である。

他、日本においては、逆進性があり格差拡大や景気減退につながっている消費税の減税や廃止などのための新たな財源として、この金融取引税も有望である。

2020年11月大統領選挙における民主党副大統領候補のカマラ・ハリス氏なども金融取引税導入を主張[23]し、米国政界においても導入の議論が高まっている。

何人かの経済学者によれば、金融取引税は金融セクターにたいする、その他の提案された類型の課税よりも、より回避と脱税を受けにくい。自動払い取引税(APT税)は、銀行支払いシステムの電子的な技術をとおして取引がすえられた場合に、自動的な租税査定と徴税のために21世紀の技術を採用する。

金融取引税」(Financial Transaction Tax)は、検討に値する税金である。デジタル技術活用による「自動的な租税査定と徴税」というテーマが興味深い。

https://www.pgurus.com/transaction-tax-wall-street-trades-even-better-idea-know/