浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

2017-03-01から1ヶ月間の記事一覧

キリストと姦通をした女/マックス・ベックマン

末永照和(監修)『20世紀の美術』(10) 新即物主義とはいかなる絵画か。 1920年代から30年代初頭のドイツにおける、克明な形態描写と社会批判的なシニシズム[冷笑主義]を特徴とするリアリズム絵画の総称。…グループとしてのまとまりはなく、それぞれ…

他人に危害を及ぼさない限り、何をしても良いのか?

加藤尚武『現代倫理学入門』(25) 今回は、自由主義の原則の第3番目、「③他人に危害を及ぼさない限り」についてである。 この条件は、「他者危害の原則」とも呼ばれる。自由主義の原理の中心部分であり、アトミズム[個人主義]と功利主義の性格の強い規…

ふしだらな結合 カリフォルニアン・イデオロギー

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(9) カリフォルニアン・イデオロギー 東浩紀は1970年代から80年代にわたるハッカー文化の中に二面性を見出し、「ハッカーたちは、プログラミングのような専門技術の習得に大きな価値を置くが、同時にその技術は大衆と…

アブダクション

木下清一郎『心の起源』(6) 今回から、第2章 心の原点をたずねる である。どういう内容か。 循環を止めねば先へ進めない 生物体は要請する なぜ神経系のみに心の座を求めるのか 記憶の成立 生物的情報から自発的行動へ 負の記憶・空白の記憶・正の記憶 …

指揮者フルトヴェングラーとトスカニーニ

岡田暁生『音楽の聴き方』(18) 演奏家を信じない作曲家たち ストラヴィンスキー(1882-1971)は演奏家の解釈を信用せず、「通訳(traduttore)は、いつも裏切り者(traditore)である」と言っていた(通訳はいつも裏切り者である 参照)。シェーンベルグ(1874-…

主張の妥当性の判断に、「文脈主義」の考え方を適用する

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(11) いま文脈主義の考え方を取り上げている。文脈主義とは何であったか。(前々回および前回の記事参照ください) 文脈主義とは、あることを知っているかどうか、ある主張が妥当かどうか、といったことについての判…

平等(3) 「福利の平等批判」の批判、「アファーマティブ・アクション批判」の批判

平野・亀本・服部『法哲学』(28) 福利(結果)の平等に対する批判をみておこう。 「平等化」批判論 福利の平等論は、スタートラインの平等ではなくゴールの平等を目指す点で機会の平等論とは根本的に異なる。初期格差としてのハンディキャップの埋め合わ…

不平等論(9) ヴィーナスはいかが? 金星の土地売ります!

稲葉振一郎・立岩真也『所有と国家のゆくえ』(13) 前回、立岩は六つ目の話として、次のように述べていた。 立岩 国家については、マルキシズムとのからみで加えておけば、世界同時なんとかっていうのが昔流行ったんだが、ある種の国際主義はロジカルには…

花嫁はその独身者達によって裸にされてさえも/マルセル・デュシャン

末永照和(監修)『20世紀の美術』(9) 前回、ダダを取り上げ、私は「ダダの作品に魅力的なものはない」と書いたが、どういう作品なのかざっと見ておこう。チューリヒ・ダダのジャンス・アルプ(1886-1966)、ベルリン・ダダのハンナ・ヘッヒ(1889-1978)、…

いのち(臓器)の売買 所有と自己決定

加藤尚武『現代倫理学入門』(24) 加藤は、自由主義の原則を次の5つ(の条件)に要約している。 ①判断能力のある大人なら、 ②自分の生命、身体、財産に関して、 ③他人に危害を及ぼさない限り、 ④たとえその決定が当人にとって不利益なことでも、 ⑤自己決…

猥褻で下品な電脳空間 (?)

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(8) ハクティビズムとは、「ハック(hack)とアクティビズム(activism,積極行動主義)とを組み合わせた造語」である。ハクティビズムの活動家はときとしてハクティビスト(Hacktivist)と呼ばれる。 Hackは俗語で、「…

哲学ではなく、自然学の対象として「心の問題」に取り組む

木下清一郎『心の起源』(5) 心とどう取り組むか 不用意に心の問題に足を踏み入れても道を踏み迷うばかりであろう。道を進むには何らかの知恵が必要になる。いまここで探ろうとしているのは、「心とは何であるか」を理解するというよりも、「心をつくり上…