浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

読書ノート

議論の構造の基本形式

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(3) 今回は、第Ⅰ編 接続の論理 第3章 議論の組み立て である。 接続表現 文章は、既にそれを理解している人と、これからそれを理解しようとしている人とでは、異なった見え方をする。理解した目には、その理解が投影さ…

「正義の原則」による正当化と妥協

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(20) 今回は、第2章 エゴイズム 第4節 ディケーの弁明 1「正義は最善の政策」か の続き(p.69~)である。(D:正義論者、E:エゴイスト。緑字は傍点の代わり) E:いや見事な議論だった。思わず聞き惚れてし…

データ分析をビジネス戦略や政策形成に生かすための鍵

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(11) 今回は、第6章 実践編:データ分析をビジネスや政策形成に生かすためには?(p.202~)である。 エビデンスに基づく政策形成 アメリカでは数年前から、オバマ前大統領がエビデンス(証拠)に基づ…

行政官の心得

香取照幸『教養としての社会保障』(29) 今回は、第8章 【新たな発展モデル】北欧諸国の成功モデルから学べること 第3節 目指すのは「安心と成長の両立」の続きと、第9章 【改革の方向性】「安心」を取り戻すために、どう改革を進めるべきか である。 ま…

公共事業(施設)を、民営化することによって、コスト削減・質の高い公共サービスが可能になるのか?

久米郁男他『政治学』(36) 今回は、第12章 官僚制 第1節 NPMの中の官僚制 の続き(p.235~)である。 NPM(New Public management)の具体例として、①市場化テスト、②エージェンシー、③PFIがあげられていたが、今回は、③PFIを見てみよう。 PFIとは…

45歳「年の差婚」とベムの「自己知覚理論」

山岸俊男監修『社会心理学』(20) 今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、自己知覚理論 である。 山岸は、自己知覚理論とは「人は、自分の行動とその行動が起こった状況などを観察することで、自分の態度や内的状態を推論するとする理論」である、また「…

「人生はゼロサムゲームではない」はずだが…

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(28) 今回は、第5章 競争が人格をかたちづくるのだろうかー心理学的な考察 第1節 なぜ競争するのか の続き(P.168~)である。 コーンは、「競争を行うのは自分の能力に対して抱いている根本的な疑いに打ち勝とう…

高額所得者は、分離課税によって累進税率を免れている。

神野直彦『財政学』(32) 今回は、第13章 人税の仕組みと実態 のうち、「日本の所得税制度」p.193~)をとりあげる。 誂え税 これまでふれてこなかったが、神野は「誂え税」*1という言葉を使っている(p.170)。「経済力に応じて課す税金」という意味であ…

Zをプログラムと呼ぶ観測者

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(34) 今回は、第4章 機械としての生命 第3節 自己増殖する機械 である。 これまでに、 遺伝子が外的に観察可能な形質の情報を担っていると考えるのは。外在的視点からの読み込みである。 遺伝子から…

接続の構造 ― その根拠に説得力はあるか

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(2) 今回は、第Ⅰ編 接続の論理 第2章 接続の構造 である。 指示関係 「こそあど言葉」というものがある。「現代語の、代名詞・形容動詞・副詞・連体詞の中で、指し示す働きをもつ語をまとめた呼び方」(デジタル大辞泉…

ディケーの弁明

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(19) 今回は、第2章 エゴイズム 第4節 ディケーの弁明 1「正義は最善の政策」か(p.63~)である。 ディケーとは、ギリシア神話の正義の女神である。ここでは「正義論者」の意味である。本節は「ディケーの…

パネルデータ分析

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(10) 今回は、第5章 「複数期間のデータ」を生かすパネルデータ分析(p.178~)である。 パネルデータとは、次のようなデータである。 パネルデータとは同一の対象を継続的に観察し記録したデータのこ…

社会保障と経済の関係

香取照幸『教養としての社会保障』(28) 今回は、第8章 【新たな発展モデル】北欧諸国の成功モデルから学べること 第2節 北欧の成功―新たな成長モデル の続きと、第3節 目指すのは「安心と成長の両立」である。 知識産業社会における労働 北欧が先陣を切…

頭脳と手足

久米郁男他『政治学』(35) 今回は、第12章 官僚制 第1節 NPMの中の官僚制 の続きである。 NPM(New Public management)の具体例として、①市場化テスト、②エージェンシー、③PFIがあげられていたが、今回は、②エージェンシーを見てみよう。 頭脳と手足…

認知的斉合性理論 ― 食後のデザートは別腹よ

山岸俊男監修『社会心理学』(19) 今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、認知的不協和理論 の続きである。 「認知的斉合性理論」の代表的なものに、「認知的不協和理論」と「バランス理論」があるとされる。私は、認知的斉合性理論を「辻褄が合わない事…

なぜ「他人より」優れていたいと願うのか?

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(27) 今回は、第5章 競争が人格をかたちづくるのだろうかー心理学的な考察 第1節 なぜ競争するのか の続き(P.166~)である。 前回の終わりに、次のような文章があった。 競争を行うのは自分の能力に対して抱いて…

「所得」とは何か?

神野直彦『財政学』(31) 今回は、第13章 人税の仕組みと実態 のうち、「所得源泉説」と「包括的所得概念」(p.188~)をとりあげる。 「所得税」といえば、多くの人は「給与所得」に対して課される税金を思い浮かべるだろうが、「給与所得」の他にもいろ…

生命の機械論モデル

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(33) 今回は、第4章 機械としての生命 第2節 生命の機械論モデル である。 現代の生命科学は全て、デカルトに由来する機械論哲学を前提として構築されている。…カンギレムは、『生命の認識』所収の論…

さまざまな接続関係

野矢茂樹『新版 論理トレーニング』(1) 今回は、第Ⅰ編 接続の論理 第1章 さまざまな接続関係 である。 さて、いきなり問題である。問題は「次の文章において適切な接続表現を選び、どうしてそれが適切であり、他方が不適切なのかを説明せよ」である。 【…

都合により…

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(番外) 「都合により」本書の読書ノートは中断します。いつ再開するかは未定です。 ********** 「都合により」という言葉は便利な言葉で、私は時々使います。「理由」を述べる必要がない時、述べたくない時に使いま…

正義論におけるエゴイズムの位置

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(18) 今回は、第2章 エゴイズム 第3節 正義とエゴイズム 2 エゴイズムの問題 の続き (3)正義論におけるエゴイズムの位置(p.59~)である。 エゴイズムの哲学が批判しているのは、個々の正義観が提示する個々…

集積分析(3)― 連続した変化に分断線を入れることの結果は?

伊藤公一朗『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』(9) 今回は、第4章 「階段状の変化」を賢く使う集積分析 の続き(p.157~)である。 集積分析とRDデザインの違い 集積分析の例示を再掲する*1。 車が重くなるほど、規制が緩くなっているので、いま測定…

北欧の成長モデル (2)

香取照幸『教養としての社会保障』(27) 今回は、第8章 【新たな発展モデル】北欧諸国の成功モデルから学べること 第2節 北欧の成功―新たな成長モデル の続きである。 北欧は製造業モデルから脱却し、人的資本の充実に力を入れ、知識産業を中心とした産業…

市場化テスト 公共サービスの質は?

久米郁男他『政治学』(34) 今回は、第12章 官僚制 第1節 NPMの中の官僚制 をとりあげる*1。 本節のサブタイトルは、「民間活力の利用と競争原理の導入」である。 先進諸国において1970年代末から、官僚制改革を方向付けるキーワードとして、ニュー・パ…

認知的不協和理論(辻褄合わせの理論)

山岸俊男監修『社会心理学』(18) 今回は、第3章 社会の中の個人 のうち、認知的不協和理論 である。 色々な言葉が出てきて紛らわしいが、まず認知的斉合性理論という言葉を覚えておこう。 その認知的斉合性理論の代表的なものに、(1) F.ハイダー(1896-…

なぜ競争するのか?

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(26) 今回から、第5章 競争が人格をかたちづくるのだろうかー心理学的な考察 である。 コーンは、競争に伴う心理的な犠牲について述べている。 競争が有効であるという決まり文句を一度も疑ってかかったことのない…

結婚への刑罰とギフト

神野直彦『財政学』(30) 今回は、第13章 人税の仕組みと実態 のうち、「所得税の課税単位:結婚への刑罰とギフト」(p.192~)をとりあげる。 税金(公的な支出に必要なお金)は、「経済力に応じて分担しよう」という考え方には、(各論はともかく総論と…

生命の分析に対するカンギレムの批判

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(32) 今回は、第4章 機械としての生命 第1節 生命の分析 の続き(p.170~)である。 我々は「あるがままの記述」を理解できない 生命を構成するすべての分子の運動を記述することができれば、それは…

存在に対して笑顔を浮かべる人たち

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(8) 今回は、第2章 哲学のあらまし の続き(p.56~)である。 前回は、「存在に対して渋面をつくる人」(「存在への難色」派)として、ショーペンハウアーが挙げられていたが、J.P.サルトルやJ.アップダイクもそう…

「個」のエゴイズム 「狂信者」と「検閲官」

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(17) 今回は、第2章 エゴイズム 第3節 正義とエゴイズム 2 エゴイズムの問題 の続き(p.54~)である。 井上は、面白い例を示しているので(p.58)、これを最初にとりあげよう。(傍点は緑字にした) ある会…