浮動点から世界を見つめる (旧:気の向くままに)

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

読書ノート

クイ・ボーノ(cui bono?) 誰の利益になるのか?

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(3) 今回は、第2章 競争は避けられないものなのだろうか -「人間性」という神話 である。 第2章の構成は、次の通りである。あまり先走らないで、ゆっくりと見ていきたい。 第1節 「人間性」というカードを切ること…

生物は合目的的に設計された機械なのか?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(11) 今回は、第2章 生物学の成立構造 第1節 「物質と生命」という区分 の続きである。 鉱物と動植物 常識的には、物質を生物と混同することはなく、直観的に区別することができる。現代では、生命は物…

領域と境界 自己と他者

立岩真也『私的所有論』(21) 今回は、第4章 他者 第2節 境界 の続きである。 第2節 境界 の小見出しは、1.境界という問題、2.境界線は引かれる、3. β~その人のものでないもの、4.α~その人のものであるもの、5.α/β である。前回は、1,2を見たので、…

政治家も大衆も公共の利益を掲げながら、自己利益を追求する?

神野直彦『財政学』(7) 今回は、第6章 財政のコントロール・システムとしての予算 の続きである。 財政民主主義の制度化:近代予算制度の形成 被支配者つまり被統治者が、予算を通じて統治し、財政をコントロールする。 被支配者は、代表を選出して、間接…

核兵器のない世界 オバマ大統領演説 人類という1つの家族

久米郁男他『政治学』(21) 今回は、第8章 国際関係における安全保障 第1節 安全保障のジレンマとその回避 の続きで、「安全保障」の話(国際連盟・国際連合や核兵器削減条約・核実験禁止条約など)なのだが、本節を読む前に、2016年5月27日、オバマ大…

「問題の把握」の難しさ  愛はかげろう?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(27) 今回は、第14章 思考 のうち、「問題解決」をとりあげる。問題解決と言うと、ビジネスにおけるノウハウとしての問題解決技法が思い浮かぶが、認知心理学における問題解決の研究とは、問題を解決する…

社会保障 「自助」(自己責任)を基本にして良いのだろうか?

香取照幸『教養としての社会保障』(3) 今回は、第2章 基本哲学を知る(「共助」や「セーフティネット」が社会を発展させた)の第1節 社会保障制度の教科書的理解 及び 第2節「共助」の意味 である。 「老後資金は2000万円不足するから投資せよ」という話…

「競争」は良いことである、という「4つの神話」

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(2) 今回は、第1章 「ナンバー・ワン」の強迫観念 の続きである。 人は何らかの行動をする場合に、明示的(意識的)でないにせよ、何らかの目標を持っている。「~のために~をする」というわけである。コーンはそ…

ラブドールは、「人間」である。

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(10) 第1章 生命科学の急発展と「遺伝子」概念の揺らぎ の第4節は、ヒトゲノム・プロジェクト後10年のまとめであるが、これは省略して、最後の部分のみを引用しておく。 こうした生物学の爆発的な進展…

処分/決定してよい・よくないの境界はどこにあるのか?

立岩真也『私的所有論』(20) 今回は、第4章 他者 第2節 境界 である。本節に入る前に、このブログでは省略した第1章(私的所有という主題)の一部を見ておこう。 自己決定と私的所有 近代的な意味での所有権は、単に所持する権利ではなく処分権である…

「予算」とは、行政府に対して執行権限を付与し、その執行を管理する文書である。

神野直彦『財政学』(6) 今回は、第6章 財政のコントロール・システムとしての予算 である。 財政民主主義 予算とは、一定期間における予定収支でもなければ、拘束力のない財政計画でもない。予算とは一定期間の財政をコントロールする拘束力のある文書で…

勢力均衡(Balance of power)、恐怖の均衡(Balance of terror)

久米郁男他『政治学』(20) 今回は、第8章 国際関係における安全保障 第1節 安全保障のジレンマとその回避 である。 国際関係において最も重要な課題の一つは、どのようにして武力の行使を抑え、武力紛争(戦争)が起こるのを防ぎ、国際関係の安定をつ…

「ギャンブラーの誤り」は、本当に誤りなのだろうか?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(26) 今回は、第14章 思考 のうち、「確率の推定」から「ギャンブラーの誤り」をとりあげる。 「ギャンブラーの誤り」とは、 ある出来事の起きる確率があらかじめ決まっているにもかかわらず、その前後に…

4枚カード問題(ウェイソン選択課題) 確証バイアス

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(25) 今回は、第14章 思考 のうち、「推論」から「4枚カード問題」をとりあげる。 4枚カード問題(ウェイソン選択課題)とは、認知心理学者ウェイソンによって考案された次のような問題である。 ここに、…

「合理的無知」は克服可能であろうか?

香取照幸『教養としての社会保障』(2) 今回は、第1章 系譜、理念、制度の体系(ギルドの互助制度を手本としたビスマルク)の続きである。 4.社会保障の理解の難しさ 社会保障は、医療や介護、保育といった産業を動かしている。そこには大きな雇用があり…

なぜ社会保障はうまくいかないのか?

香取照幸『教養としての社会保障』(1)*1 本を読むのに色々な読み方がある。私は、本書を「なぜ社会保障はうまくいかないのか?」という問題意識を持って、読み進めたいと思う(社会保障はうまくいっていないと感じているので)。なお、私は「社会保障」の…

ネットワークの構造(2) スモ-ル・ワールド性、クラスター性

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(9) ネットワークには、3つの性質(スケールフリー性、スモール・ワールド性、クラスター性)があるということだったので、今回はスモール・ワールド性とクラスター性について見ることにしよう。 2.ス…

「私が制御しないもの」(他者、自然、世界)を尊重する(享受する)

立岩真也『私的所有論』(19) ここまで立岩が本節(第4章 他者 第1節 他者という存在)で述べてきたことを振り返っておこう。 私が制御できないもの、私が制御しないものを、「他者」と言う。 他者は、ただ私ではないもの、私が制御しないものとして在…

「勝利」は「成功」を意味しない。安らかな心は、自分は最善を尽くしたという自己満足からのみ得られる。

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(1)*1 本書の内容は、次の通り。いずれも興味をそそられるタイトルである。 第1章 「ナンバー・ワン」の脅迫概念 第2章 競争は避けられないものなのだろうか-「人間性」という神話 第3章 競争はより生産的なものな…

「公共選択論」というお伽話

神野直彦『財政学』(5) 今回は、第5章 現代財政学の諸潮流 である。 本章で私が興味を持ったのは、「マーシャルの公共財」と、「財政における政治(財政の決定過程)」である。 公共選択論は、官僚・利益集団・政治家を批判すること(民間部門の利益を貪…

財政は、社会・政治・経済との関連でマクロに考察しなければならない。

神野直彦『財政学』(4) 今回は、第3章 財政学の生成、第4章 財政学の展開 である。財政学説史なので、逐一コメントのスタイルではなく、ポイントと思われる部分の引用にとどめる。 ドイツ正統派財政学とか財政社会学は、あまり馴染みがない分だけ面白く…

エージェントと構造 プリンシパル=エージェント関係

久米郁男他『政治学』(19) 今回は、第7章 国内社会と国際関係 第3節 国際関係をどう見るか の続き、「エージェントと構造」である。ここで述べられていることは、「国際関係では、国家の行動が国際関係における国家間のパワーの配分という構造によって…

パブロフの亀

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(24) 今回は、第13章 学習 である。本書の記述*1は相変わらずつまらないので、例のごとくWikipedia等を参照したが、とりたてて興味を引くものがない。そこで本章のテーマ「学習」についてはパスするが、…

「野蛮な社会」と「すべての人が暮らしやすい社会」

阿部彩『弱者の居場所がない社会-貧困・格差と社会的包摂』(10) 今回は、第5章 包摂政策を考える 第3節 社会のユニバーサル・デザイン化 の続き である。 ベーシック・インカム ベーシック・インカムとは、基本的な生活を保障する一律の給付を、すべ…

ネットワークの構造(1) スケールフリーとは?

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(8) 今回は、第1章 生命科学の急発展と「遺伝子」概念の揺らぎ 第3節 ネットワークとしての生命 第3項 ネットワークの構造 である。山口は、前項「システム生物学の登場」の最後のほうで、生物学研究…

人間中心主義

立岩真也『私的所有論』(18) 今回は、第4章 他者 の注6*1「人間中心主義」である。 人間中心主義Aは、生存のための資源という視点から自然に対する。「道具主義的人間中心主義」と呼んでもよい。だから自然を改変する。しかし、生存のために自然を(…

エッケ・ホモ(この人を見よ)

神野直彦『財政学』(3) 今回は、第2章 財政と三つのサブシステム の続きである。三つのサブシステムとは、社会システム、政治システム、経済システムである。神野はシステム*1という言葉を多用しているが、これは理解を曖昧にするもののように思えるので…

リアリズム(現実主義)、リベラリズム(自由主義)

久米郁男他『政治学』(18) 第2節の最後に、現代の国際システムは、17,18世紀の国際システムからかなり変容を遂げているとして、国民国家の数の増大、地理的範囲の地球大への拡大、国民国家(主権が国民に帰属)がほとんどを占めること、国際関係に影響…

スキーマとスキーム

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(23) 今回は、第12章 記憶 のうち、「知識とスキーマ」をとりあげる 私は「心理学」を試験勉強しているのではなく、人間心理や認知機構に興味があるので、本書の叙述にしたがい、基本用語をとりあげてい…

障害の社会モデル 評価と承認

阿部彩『弱者の居場所がない社会-貧困・格差と社会的包摂』(9) 阿部は、次のように述べていた。 この考え[貧困は自己責任であるという発想]には、彼らの生活困難はそもそも彼らが社会に貢献できるような労働市場における条件整備が出来ていないからで…