気の向くままに

井蛙は以って海を語るべからず、夏虫は以て冰を語るべからず、曲士は以て道を語るべからず

読書ノート

目に見えない権力 パノプティコン

久米郁男他『政治学』(11) 今回は、第5章 国家と権力 第3節 権力をめぐる諸理論 である。*1 どのような国家観をとるにせよ、政治の問題を考える上で、権力の問題は、議論の中心的な位置を占めざるを得ない。しかしながら、権力とは何か、ということを巡…

幸せホルモン アタッチメント理論 皮膚感覚の身体化認知

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(16) 今回は、第10章 感覚 のうち、「皮膚感覚」である。 皮膚感覚は、全身の皮膚に感覚点が点在していて、そこにある受容器に接触する刺激があると、神経の信号として脳に伝えられることにより生じます…

生きているとはどういうことか? もう一度根元的な問いを問い直すこと

木下清一郎『心の起源』(27) 第6章(最終章)は、「心の未来はどうなるか」である。 [前章までで]ひとまずの結果は得られたとして、筆を止めても良いのかもしれない。しかし、心の世界についてはなお気がかりなことが残っている。それは例えば、心の世…

不妊治療 生命倫理

立岩真也『私的所有論』(10) 今回は、第3章 批判はどこまで行けているか 第1節 自己決定の条件 である。本章のタイトルにある「批判」とは、「生殖技術(特に代理出産)に対する(倫理的)批判」である。第1節は、この批判を「自己決定」の観点から検…

法と経済学 コースの定理

平野・亀本・服部『法哲学』(49) 今回は、第5章 法的思考 第3節 法的思考と経済学的思考 である。 「法と経済学」または「法の経済分析」と呼ばれる法アプローチは、法と経済のかかわりを説くというよりも、法学の内部に経済学的思考を導入しようとする…

強行採決で成立した法令は遵守する必要がない !?

久米郁男他『政治学』(10) 今回は、第5章 国家と権力 第2節 近代国家とその正統化原理 である。 2013年以降、強行採決が以下の通り行われた。(Wikipedia) 特定秘密保護法(2013年) 安全保障関連法案(2015年) TPP承認案、関連法案(2016年) 介護保険…

エレクトリックバイオリン ヤマハのデザイン哲学

柏木博『デザインの教科書』(8) 前回までの色彩学の話はいったん中断し、別途あらためて再開することにしたい。 また本書の読書ノートも、本書の内容が私の期待するものとは異なったので、終了する。 では私の期待するものとは何であったか。 -----------…

におい(匂い、臭い)②  若い女性の「甘い香り」

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(14) ロート製薬の研究によると、女性には、若い頃特有の甘い香りが存在し、それは年齢とともに減少し、曲り角は35歳付近にあり、その正体は、ラクトンC10/ラクトンC11という成分であるという。(https:…

におい(匂い、臭い)① 納豆 シュールストレミング

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(13) 今回は、第10章 感覚 のうち、「におい」である。本書の説明は9行ほどあるが、全く面白くないので、テキストを、東原和成の「あなたの知らない「匂い」の力-食事から恋愛まで、嗅覚から見るよりよ…

心の世界 入れ子 壺中の天

木下清一郎『心の起源』(26) 今回は、第5章 心の世界を覗きみる 第6節「心は一つの世界をなしている」である。 「生物世界」と「心の世界」が、次のように対比されている。 生物世界 心の世界 特異点 核酸の出現 統覚の出現 基本要素 遺伝子 表象 基本…

私的所有の無根拠と根拠

立岩真也『私的所有論』(9) 本章(第2章)で、立岩が言わんとしていたことは何か。 何がある人のもとにあるものとして、決定できるものとして、取得できるものとして、譲渡できるもの、交換できるものとしてあるのか、またないのか。そしてそれはなぜか。…

法的正当化、解釈の検算、整合性、理性性

平野・亀本・服部『法哲学』(48) 今回は、第5章 法的思考 第2節 制定法の適用と解釈 第3項 解釈技法の使い方 の続きである。 法的正当化に対する制約 法的な正当化には、それを他の種類の正当化から区別する制約がある。第1に、法的正当化において援用…

三つの国家観

久米郁男他『政治学』(9) 今回は、第5章 国家と権力 第1節 三つの国家観である。 近代国家の定義 本書は、近代ヨーロッパが生みだした近代主権国家に限定した場合の近代国家を次のように定義する。 第1に、国境というかたちで明確に区切られた固定的な領…

ヒュートーンシステムとは?

柏木博『デザインの教科書』(7) 前回は、第6章 デザインを決める具体的な要素 第1節 色彩に関連して、本書ではとりあげていない「花嫁の母のドレスの色」と色彩学の基礎(光源色と物体色)についてふれた。今回はその続きであるが、入門者向けのすぐれた…

音感覚の心理学(声と種の存続、音の風景、BGM、錯聴)

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(12) 今回は、第10章 感覚 のうち、「音を聞くしくみ」である。 音は、空気や水、物体などを伝わる振動である。音はさまざまな物理的な性質を持っているが、特に、1秒間に繰り返す振動の回数のことを周波…

表象の動きに対して制約を加えるもの

木下清一郎『心の起源』(25) 今回は、第5章 心の世界を覗きみる 第5節「自己展開をなし得る」である。 自己展開の特異性 新しい世界の出現はすでに3つの前提[①特異点、②基本要素、③基本原理]によって保証されているにもかかわらず、それが実際に動き…

サバイバル・ロッタリー(臓器くじ) ハッピー・リタイアメント法(老人駆除法)

立岩真也『私的所有論』(8) 今回は、第2章 私的所有の無根拠と根拠 第4節 正当化の不可能性 第1項 サバイバル・ロッタリーである。 哲学者(倫理学者)のジョン・ハリス(John Harris、1945-)は、次のような思考実験(臓器くじ=サバイバル・ロッタリ…

「虚偽の文書」をどう解釈すべきか?

平野・亀本・服部『法哲学』(47) 今回は、第5章 法的思考 第2節 制定法の適用と解釈 第3項 解釈技法の使い方 である。解釈技法が、法解釈の実際の場面でどのように使用されるべきかについて述べられている。 以下の議論は、抽象的でたぶん面白くないだ…

自分の居場所がない 社会保障を考える

久米郁男他『政治学』(8) 第4章 福祉国家 の構成は、第1節 福祉国家の政策レパートリー(公的扶助、社会保障、社会扶助)、第2節 福祉国家をもたらしたもの 第3節 福祉国家がもたらしたもの である。今回は、第2節、第3節をとりあげようと思っていたのだ…

花嫁の母のドレスの色は…

柏木博『デザインの教科書』(6) 今回は、第6章 デザインを決める具体的な要素 第1節 色彩 をとりあげる*1とはいえ、ここに引用したいと思うような文章は無い。文化的現象としての色彩、色彩の表記法(マンセルの方法等)、浅葱色(あさぎいろ)とか利休ね…

色感覚 マリンハチェットフィッシュは、どんな色を見ているのだろうか?

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(11) 今回は、第10章 感覚 のうち、「色感覚」をとりあげよう。「色」に関する話題は幅広く(Wikipedia参照)、色感覚以外の色の話のほうが面白いのだが、本書から離れすぎるので、別途としたい。 人間に…

基本原理としての抽象

木下清一郎『心の起源』(24) 木下は、世界が開かれるための4条件(世界の始まりを考えるための4つの要請)として、①特異点、②基本要素、③基本原理、④自己展開を考えていた。今回は、第5章 心の世界を覗きみる 第4節「基本原理としての抽象」である。…

コモンズの悲劇(2) ウンコな議論?

立岩真也『私的所有論』(7) 共有地(コモンズ)の悲劇とは、「多数者が利用できる共有資源が乱獲されることによって資源の枯渇を招いてしまうという経済学における法則」*1(Wikipedia)であった。例えば、牧草地とか漁場が、共有地(コモンズ)である。…

概念法学と感情法学

平野・亀本・服部『法哲学』(46) 法解釈の話を、六法全書に書かれている法の解釈に限定すべきではない。会社をはじめとする様々な組織における各種のルールをどう考えるかという話でもある。 今回は、第5章 法的思考 第2節 制定法の適用と解釈 第2項 …

将来に対する不安 社会保障制度は機能しているのか?

久米郁男他『政治学』(7) まず最初に、次のグラフを見てみよう。これは、全国の15~64歳の働く人の意識調査*1の一部で、「将来に対する不安」を聞いたものである。(n=1036) 将来に対する不安を「非常に感じる」が38%、「やや感じる」が39%で、…

ハワードの田園都市(Garden Cities) 人々はどこへ行くのだろうか?

柏木博『デザインの教科書』(5) 今回は、第4章 シリアスな生活環境のためのデザイン の第1節 貧困解決とデザイン である。 エレガントな生活のためのデザイン情報があふれている一方で、しかし、そうしたデザインとはまったく縁のない貧困を余儀なくされ…

あなたは本当に性的被害者なのか? ショッピングモールの迷子 

長谷川寿一他『はじめて出会う心理学(改訂版)』(10) 本書では、第8章 ストレスとメンタルヘルス の「心理病理はなぜ起こるか-精神分析学の説明」の項で、また第9章 カウンセリングと心理療法 の「フロイトと精神分析療法」の項で、フロイトの精神分析…

基本要素としての表象

木下清一郎『心の起源』(24) 本書は漫然と読んでいても面白くない。「人工物(機械、AI)は、心を持てるのか?」、「心の世界は、本当に存在するのか?」というような問いを持っていると面白いのではなかろうか。期待外れになるかもしれないが…。 今回…

コモンズの悲劇

立岩真也『私的所有論』(6) 第2章 私的所有の無根拠と根拠 第3節 効果による正当化と正当化の不可能性 第3項に、共有地(コモンズ)の悲劇がとりあげられている。「コモンズの悲劇」といっても、ドラマティックな話ではない。しかし、「社会の有りよう」…

杓子定規な考え方を打破する

平野・亀本・服部『法哲学』(45) 今回は、第5章 法的思考 第2節 制定法の適用と解釈 第2項 解釈の技法 である。 この「解釈の技法」の話は、法解釈にとどまらず、円滑なコミュニケーションのためには、非常に有用な技法である。場合によっては、屁理屈…