浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

読書ノート

なぜ何もないのではなく、何かがあるのか?

ジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』(1) 最近(といっても、1~2年前)、BOOK-OFFでウロウロして、目についたのがこの本である。ジム・ホルトという名前は知らなかったが、タイトルにひかれた。本のタイトルは大事です。 ジム・ホルトはアメリカの…

いったん中断

立岩真也『私的所有論』 本書をまだ半分も読んでいないのだが、いったん中断する。 第6章 個体への政治 第7章 代わりの道と行き止まり 第8章 能力主義を否定する能力主義の肯定 第9章 正しい優生学とつきあう いずれも興味をそそるタイトルであるが、「気分…

等しきものは等しく、不等なるものは不等に扱わるべし

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(10) 今回は、第2章 エゴイズム 第2節 形式的正義の「内容」の続きである。 正義の理念を定式化する最も有名な命題は「等しきものは等しく、不等なるものは不等に扱わるべし」である。この命題は、何が等し…

現代国家と租税

神野直彦『財政学』(22) 今回は、第4章 租税 の続き(政府収入の多様化、p.149~)である。 租税とは 家産国家 租税国家 公債国家 私的所有権 市場経済が機能するには、市場で取引される生産要素や生産物に、私的所有権が設定されなければならない。 神…

財政民主主義 予算委員会 忖度官僚

浦部法穂『全訂 憲法学教室』(9) 今回は、第7章 国民主権 第4節 国会 3国会の権限 ⅳ財政に関する権限(p.543~) である。財政については、神野直彦『財政学』を読んでいるので、ここでは簡単にみておこう。 財政に関する権限 総務省幹部の接待問題 財…

アイヒマン実験(1)- 服従

山岸俊男監修『社会心理学』(10) 今回は、第2章 社会心理学の歴史的な実験 のうち「アイヒマン実験」をとりあげる。 アイヒマン実験とは、心理学者S.ミルグラムが行った「服従」実験である。ミルグラム実験ともいう。 「服従」とは、権威者からの命令や…

社会保障と経済成長

香取照幸『教養としての社会保障』(18) 今回は、第5章 社会保障はGDPの5分の1を占める巨大市場 第1節 GDPに占める社会保障の規模 と、第2節 経済を支える社会保障 である。 香取は、本章の結論を先に述べている。社会保障は「単なる負担」ではなく、…

ヤーキーズ・ドットソンの法則

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(17) 今回は、第3章 競争はより生産的なものなのだろうか-協働の報酬 第2節 競争がなにもならないものだという説明 の続き(p.101~)である。 資源のより効率的な利用は、競争ではなく、協力によって可能となる。…

分子生物学のセントラルドグマ

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(25) 今回は、第3章 二つの遺伝子 第2節 分子生物学における遺伝子概念の展開 の続き(p.130~)である。 分子生物学における遺伝子概念(続) デルブリュック*1をはじめとする初期の情報学派の研究…

線引問題 -「人間でないもの」を、処分、消去、侵犯、殺害してよいのだろうか?

立岩真也『私的所有論』(35) 今回は、第5章 線引き問題という問題 の第2節 線はないが線は引かれる の第1項 線引きの不可能 である。 いつからヒトを人とするのか? ヒトと人の境界はどこにあるのか? https://192abc.com/15956 卵子や精子は「ヒト」…

形式的正義-スゥーム・クイック(suum cuique、各人に各人のものを)とは?

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(9) 今回は、第2章 エゴイズム 第2節 形式的正義の「内容」である。 権利と正義 「正義」とは何だろうか? 長尾龍一は、「各人に彼のものを(suum cuique)」あるいはより明示的に「各人に彼の権利を(jus su…

無産国家、租税国家

神野直彦『財政学』(21) 今回から第4編 租税にはいる。内容(各章タイトル)は、「租税原則」、「租税の分類と体系」、「人税の仕組みと実態」、「生産物市場税の仕組みと実態」、「要素市場税の仕組みと実態」、「オプションとしての公債と公債原則」で…

国会の権限、憲法改正の発議権ほか

浦部法穂『全訂 憲法学教室』(8) 今回は、第7章 国民主権 第4節 国会 3国会の権限(p.537~) である。 国会の権限には、1.憲法改正の発議権、2.立法権、3.条約承認権、4.財政に関する権限、5.その他の権限 がある。 憲法改正の発議権 いまは、憲法改正…

模擬刑務所実験(スタンフォード監獄実験)

山岸俊男監修『社会心理学』(9) 今回は、第2章 社会心理学の歴史的な実験 のうち「模擬刑務所実験」(スタンフォード監獄実験)をとりあげる。 実験概要は、次の通りである。 1971年8月14日から1971年8月20日まで、アメリカ・スタンフォード大学心理学部…

資産格差

香取照幸『教養としての社会保障』(17) 今回は、第4章 変調する社会・経済 第5節 マクロ経済の異常事態 である。 香取は、バブル崩壊後の日本経済の停滞について述べ、資産格差が増大しているという。しかし、私は若干の増減はあるかもしれないが、格…

お金で動かそうとする人たち・お金でしか動かない人たちが、組織/社会をダメにする

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(16) 今回は、第3章 競争はより生産的なものなのだろうか-協働の報酬 第2節 競争がなにもならないものだという説明 の続き(p.98~)である。 動機づけ アンダーマイニング効果(undermining effect*2) エンハン…

原因としての遺伝子、情報を担うものとしての遺伝子

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(24) 今回は、第3章 二つの遺伝子 第2節 分子生物学における遺伝子概念の展開 の続き(p.126~)である。 遺伝暗号を担う非周期的結晶 「遺伝暗号を担う非周期的結晶」とはどのようなアイデアであっ…

「ヒト」はいつ「人」になり、殺してはならない存在となるのか?

立岩真也『私的所有論』(34) 今回は、第5章 線引き問題という問題 の第1節 自己決定能力は他者であることの条件ではない である。前回は「よくわからない」とだけ述べたので、今回は出直しである。 第5章の目次を見ておこう。 第1節 自己決定能力は他…

さまざまな正義観と独断的な狂信家

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(8) 今回から、第2章 エゴイズム-倫理における個と普遍- に入る。 第1節 正義と不正(非対称性、理念・原則・感覚)第2節 形式的正義の「内容」(権利と正義、匡正的正義、統合的当為)第3節 正義とエゴ…

議会と行政府のフリーハンド

神野直彦『財政学』(20) 今回は、第9章 予算過程の論理と実態 の続き として、「予算の執行」、「支出負担行為実施計画と支払計画」、「決算過程」、「決算処理」(p.130~)を見ていこうと思っていたが、後でふれることにして、第10章 予算の改革 に進…

国会議員はいったい何をしているのだろうか?

浦部法穂『全訂 憲法学教室』(7) 今回は、第7章 国民主権 第4節 国会 2国会の構成と活動 の続き(p.534~) である。 私は、以前から国会議員はいったい何をしているのだろうかという疑問を持っている。マスメディアは選挙の時だけ大々的に報道するが、…

泥棒洞窟実験

山岸俊男監修『社会心理学』(8) 今回は、第2章 社会心理学の歴史的な実験 のうち「泥棒洞窟実験」をとりあげる。 この「泥棒洞窟」というのは「釣りタイトル」のようだ。そこで、「釣り」に引っかかり、「泥棒洞窟」についてまず見ておこう。 ロバーズ・…

「相対的貧困率」は、貧困の指標ではない。格差の指標?

香取照幸『教養としての社会保障』(16) 今回は、第4章 変調する社会・経済 第4節 長期不況・デフレのインパクト-格差社会の出現 の続きである。 香取は、以下のようなこと述べている。 90年代後半、物価上昇率がマイナス(デフレ)に転じてからは、賃…

弁護士、学校教育、モチベーション

アルフィ・コーン『競争社会をこえて』(15) 今回は、第3章 競争はより生産的なものなのだろうか-協働の報酬 第2節 競争がなにもならないものだという説明 の続き(p.94~)である。 弁護士という商売 テレビドラマ『SUITS/スーツ』(Season1:2018年、S…

遺伝子の量子力学的モデル

山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(23) 今回は、第3章 二つの遺伝子 第2節 分子生物学における遺伝子概念の展開(p.121~)である。 分子生物学の登場と量子力学 分子生物学の成立は、遺伝子の物質的実体を探求するという20世紀初頭以…

線引き問題

立岩真也『私的所有論』(33) 今回から、第5章 線引き問題という問題 である。 立岩の言う「線引き問題」とは何だろうか。それは「自己」と「他者」の線引き、「奪ってはならない存在」(処分してはならない存在)と「奪っても良い存在」(処分して良い…

可能的読者の反論…「それで?」

井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(7) 今回は、第1章 正義論は可能か 第4節 相対主義 の続き(p.20~)と第5節 「それで?」である。 第4節の続き(非認識説)はパスして、第5節 「それで?」を読んでもいいだろう。 非認識説 価値相対主義の…

予算過程と財政民主主義

神野直彦『財政学』(19) 今回は、第9章 予算過程の論理と実態 の続き(P127~)である。 あらためて予算編成過程を概観しておこう。 月 項目 R2(2020) 年度予算 R3(2021) 年度予算 6~7月 経済財政運営と改革の基本方針(閣議決定)* 2019/06/21 2020/07…

比例代表制 ドント方式とは?

浦部法穂『全訂 憲法学教室』(6) 今回は、第7章 国民主権 第4節 国会 2国会の構成と活動(p.529~) である。 国会の構成 浦部は、二院制について、次のように述べている。 日本国憲法における二院制の存在理由は、審議の慎重を期すということと、民意の…

パワハラと「根本的な帰属の誤り」

山岸俊男監修『社会心理学』(7) 今回は、第2章 社会心理学の歴史的な実験 のうち「基本的な帰属のエラー実験」をとりあげる。*1 「基本的な帰属のエラー」とは何か? 人がある行動[例えば暴力行為]をとったときに、なぜそうした行動をとったのか原因を…