気の向くままに

形而上学・倫理学・法哲学・社会学・自然学・美学・その他諸々について書いてみたい幼稚園児のブログです。まあ、しかし焦らずにゆっくりと、気の向くままにいきましょう。

ハワードの田園都市(Garden Cities) 人々はどこへ行くのだろうか?

柏木博『デザインの教科書』(5)

今回は、第4章 シリアスな生活環境のためのデザイン の第1節 貧困解決とデザイン である。

エレガントな生活のためのデザイン情報があふれている一方で、しかし、そうしたデザインとはまったく縁のない貧困を余儀なくされている人々が存在している。世界規模で見るなら、そうした人々のほうが大多数なのである。従って、彼らの生活のためのデザインを手掛けることは、デザインの重要なテーマであることは間違いない。

富裕者のためのデザイン、貧困者のためのデザインといった捉え方には違和感がある。エレガントな生活のためのデザインは、富裕者が占有すべきものではなく、富裕者・貧困者を区分する次元を超えたものであるべきだろう。

振り返って、モダンデザインは、当初、いかに貧困な生活環境を無くしていくかということがひとつの発端になっていた。19世紀の大都市、例えばロンドン、パリ、ニューヨークそしてもちろん東京でも、貧困にあえぐスラム街が広がっており、その絶望的貧困が衝撃的な形で『発見』されたのだ。その絶望的環境を改善するための「計画」が提案されることになる。「計画」すなわち「デザイン」である。

その中で最もよく知られているのは、19世紀から20世紀はじめにかけて提案されたイギリスのエベネザー・ハワードの田園都市計画だ。その計画案は、ドイツの集合住宅に影響を与え、それはまた日本の同潤会(戦後の日本住宅公団)の住宅計画に影響を与えた。

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http://www.gardencitiesinstitute.com/resources/garden-cities/letchworth-garden-city

 

エベネザー・ハワード(Ebenezer Howard、1850―1928)の田園都市計画は、本当に貧困者の絶望的環境を改善するための計画だったのだろうか。本書では、これ以上ハワードの田園都市計画の説明はないので、もう少し詳しくみてみよう。

産業革命が進行したイギリスでは、雇用の場である都市に人口が集中し、人々は自然から隔離され、遠距離通勤や高い家賃、失業、環境悪化に苦しんでいた。これを憂いたハワードは、「都市と農村の結婚」により、都市の社会・経済的利点と、農村の優れた生活環境を結合した第三の生活を生み出すことによる解決を目指し、1898年に「明日-真の改革にいたる平和な道(To-morrow: A Peaceful Path to Real Reform)」を出版した(1902年にわずかに改訂され「明日の田園都市Garden Cities of To-morrow)」と改題)。ハワードの提案は、人口3万人程度の限定された規模の、自然と共生し、自立した職住近接型の緑豊かな都市を都市周辺に建設しようとする構想である。そこでは住宅には庭があり、近くに公園や森もあり、周囲は農地に取り囲まれている。不動産は賃貸し、不動産賃貸料で建設資金を償還するので、都市発展による地価上昇利益が土地所有者によって私有化されず、町全体のために役立てられる。(Wikipedia田園都市

田園都市(Garden Cities)とは、まず「職住近接型の緑豊かな都市」である。第一に「緑豊かな都市」、第二に「職住近接」といったところか。

住宅は公園や森に囲まれ、農作業などをするスペースもある。豊かな者や貧しい者など、多様な家庭のための賃貸住宅があり、その賃貸は田園都市を運営する土地会社によって行われる。この資金を元手に、住民たち自身が公共施設の整備などをすすめるなど、住民によるコミュニティ形成もめざしたところが重要な点であった。(Wikipedia、エベネザー・ハワード)

田園都市を運営するのは土地会社であり、住宅は賃貸である。非営利なので、賃貸料収入で「住民たち自身が公共施設の整備などをすすめる」ことができる。それは住民によるコミュニティである。私は、特にこの点に注目する。

日本大百科全書は、次のように説明している。

田園都市では、土地は公有か、さもなくば信託所有であり、同時に社会単位で住民に快適な環境を提供する。そこは従来の都市と田園の長所を備え、自然の美社会的な機会がともにあり、公園に近く、低い家賃と物価、高賃金などの特色をもつとしている。この運動により1903年、[非営利の]第一田園都市会社が設立され、ロンドンの北西56キロメートルのレッチワースに第一の田園都市が実現した。ついで20年に第二の田園都市ウェリン・ガーデン・シティ(ウェルウイン)がロンドン北郊32キロメートルにつくられた。(山鹿誠次・菅野峰明、日本大百科全書) 

 「自然の美」というのは理解しやすい。しかし同時に「社会的な機会」という。ここには多くの論点があり、軽々な議論はできないが、重要な点であろう。…田園都市の土地は公有かまたは信託所有であるという。ここで信託所有というのは、形式的に信託会社が所有権を持っている(実質的には国/地方公共団体が所有権を持っている)ことを言うのだろうか。

この田園都市は自給自足の職住近接型の都市として構想されているようだが、孤立しているわけではない。

田園都市では、周囲を緑地帯で囲われた限られたスペースの中に3万人から5万人が居住し、住宅は公園などのパブリック・スペースに囲まれる。また、農作業スペースなどを持つ、自給自足の職住近接型の都市であり、中央の都市や他の田園都市とは鉄道と道路で結ばれる。実際に1903年にはロンドン北部のレッチワースで初めての田園都市が事業化され成功を収めた。レッチワースでの田園都市の成功は、北米を中心に世界的に影響を与え、日本でも渋沢栄一らが田園都市株式会社を設立し、田園調布駅を中心とした田園都市の開発を行なったほか、阪急電鉄小林一三は、千里山などいくつもの田園都市の開発に力を注いだ。(有山宙、Artwords)

アンダーラインを引いた「中央の都市や他の田園都市とは鉄道と道路で結ばれる」という点に留意したい。「中央の都市」がどういうものかわからないが、「他の田園都市との関係」が「鉄道と道路」の整備で済むはずもなく、他の都市を含んだコミュニティをどう構築するのかをデザインする必要性は言うまでもないだろう。

レッチワースの田園都市は、

計画人口は32000人。中心部の近くに工場が置かれ、駅、商店、娯楽施設、緑地などが計画的に配置された。住宅はゆとりのある敷地に建てられ、庭に建物を建てることは規制されている田園都市の内部には広い農地を含み、農産物の自給自足も目標になっている。また、農地を住宅地に転用することは禁止されている田園都市の周囲を緑地帯(グリーンベルト)が取り囲んでおり、無秩序な拡大(スプロール化)を防ぎ、コミュニティの一体性を保っている。(Wikipedia、レッチワース)

こうした規制(ルール)が、コミュニティの肝であろう。これは「自由」を侵害するものであると評価されるものか。私は「無秩序」を防止するものと考えるべきと思うのだが…。

日本への影響…本来英国にはない田んぼの園「田園」をガーデン・シティの略語として充てている。…ハワードの田園都市において不動産は賃貸を主としているが、日本における「田園都市」を冠する宅地開発は宅地分譲を主としているほか、自給自足を指向しているハワードの田園都市に対して、日本のものはニュータウンと同様、後述のようにベッドタウンとして開発されることが多いなど、差異が見られる。(Wikipedia田園都市

同じ「緑豊かな都市」(Garden City)ではあっても、それを支える思想なきところには、富裕層のためのベッドタウンに転化するのかもしれない。デザイナーが、同じ「緑豊かな都市」(Garden City)を設計したとしても、それを支える思想なき場合には、富裕者のためのデザインになるだろう。ここに思想というのは、富裕者・貧困者を区分する次元を超えたコミュニティがめざすエレガントな生活である。

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Brandles Rd,Letchworth Garden City,England /google ストリートビュー 2009/6撮影

 

ハワードの思想を表現した「三つの磁石」図なるものがある。これがなかなか面白い。

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Town(都市)

Closing out of nature. Social opportunity.  自然からの隔離。社会的な機会。

Isolation of crowds. Places of amusement.  群衆の中の孤独。歓楽の場所。

Distance from work. High money wages.  仕事場からの距離。高い賃金。

High rents & prices. Chances of employment.  高い家賃と物価。雇用の機会。

Excessive hours. Army of unemployed.  超過労働。失業者の大群。

Fogs and droughts. Costly drainage.  霧と旱魃。高い下水。

Foul air. Murky sky. Well-lit streets.  汚い空気。かすんだ空。よく照らされた夜の通り。

Slums & gin palaces. Palatial edifices.  スラムと酒場。壮大な建築群。

Country(田園)

Lack of society. Beauty of nature.  社会の欠如。自然の美しさ。
Hands out of work. Land lying idle.  仕事の少なさ。手付かずの土地。
Trespassers beware. Wood, meadow, forest.  通行人は用心が必要。木々、牧草地、森。
Long hours, low wages. Fresh air. Low rents.  長時間労働でも低賃金。新鮮な空気と家賃の安さ。
Lack of drainage. Abundance of water.  下水の欠如。豊富な水。
Lack of amusement. Bright sunshine.  娯楽の欠如。明るい陽光。
No public spirit. Need for reform.  公共精神の欠如。社会改革の必要。
Crowded dwellings. Deserted villages.  住人の多い住居。孤立した村々。

Town-Country(田園都市

Beauty of nature. Social opportunity.  自然の美。社会的な機会。
Fields and parks of easy access.  簡単に野原や公園にたどり着ける。
Low rents, high wages.  低い家賃、高い賃金。
Low rates, plenty to do.  低い税金、やることはたくさんある。
Low prices, no sweating.  低い物価、重労働はない。
Field for enterprise, flow of capital.  起業のための場所、資金の豊富さ。
Pure air and water, good drainage.  澄んだ空気と水、よく整備された下水。
Bright homes & gardens, no smoke, no slums.  明るい家庭と公園、煙やスラムはない。
Freedom. Co-operation.  自由。共働。

THE PEOPLE

Where will they go? 人々はどこに行くだろうか?

Wikipedia、エベネザー・ハワード)