浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

風鈴の話 - 水琴窟風鈴ほか

夏の風物詩「風鈴」が見られなくなって久しい。かつて人々は縁側団扇をあおぎ、軒下に吊り下げられている風鈴の音を聴きながら、涼をとっていた。その後、扇風機・エアコンの普及や和風建築の減少とともに、団扇や風鈴は、日常生活から消えていった。確かに、暑さ対策に電化製品は効率的なのであるが、ここで何かが失われたと感じる。それは何だろうか? (団扇については、2015/07/24 浴衣と団扇 を参照ください)

 

風鈴/Arwen Eriko

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風に揺れた

幼い弟が耳をすます

その音に あたしを見上げて笑う

そんな夏があったよね

あたしはまだ

夕暮れの薄闇に迷っている

http://photozou.jp/photo/show/3157908/239904497

今日、風鈴と言えば、上の写真(奈良、おふさ観音の「風鈴まつり」)のように、期間限定のイベントでしかみられないもののようだ。これはこれで、思い出となるものだが*1、私が「失われたもの」というのは、これとはちょっと異なる。

風鈴は出てこないが、次の歌が私の心象風景に近い。 

秋櫻の頃/あさみちゆき

www.youtube.com

秋の日和の 陽だまりのなかを

亡き父は 縁側に

いつも湯飲みを 置いていた

コスモスが 咲いている

風がきて 揺れている

そんな風情に 目を細めながら

一服の 茶を啜る

静けさ好む 父でした

 縁側には風鈴が吊り下げられていて、鈴の音が響いている。風鈴は単独にあるのではなく、父娘の情愛とともにある

知らない人はいないと思うが、念のために縁側の写真をあげておこう。 

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 https://www.houzz.jp/projects/1040538/

 

かつて、祖父母、夫婦、子どもと三世代で同居することは当たり前だった。嫁姑問題はあったかもしれないが、夫婦が若ければ、祖父母もまだ元気で孫の面倒をみたし、祖父母の体の自由がきかなくなってきたら、出来る限りの介護をしてきた。子どもたちは、祖父母の生き様・死に様を、しっかりとみてきたのである。これは「古き良き家族像」であり、そんな家族を求めることは時代錯誤であるという批判は重々承知しているが、それでもなお、私はここにコミュニティの原点があるのではないかと思っている*2

失われたものとは、コミュニティを成立させる「思いやり」であり、「つながり」である。それは風鈴の消滅とともに失われた。

 

アートとしての風鈴

まず最初に、「水琴窟」(すいきんくつ)を紹介します。

水琴窟は江戸時代後期に庭師により考案され、地中に瓶を逆さに埋め天井に小さな穴をあけ、手を洗った水滴が、底の水面に落ち内部で反響して神秘的な音色を響かせます。

日本庭園特殊技法の最高傑作と言われ、余韻美学の頂点と賞賛され、「今、残したい日本の音風景100選」で紹介されています。(https://www.suikinkutsu-ehime.com/

文章だけでは分かりにくいので、上記URLで、水琴窟の写真や水琴窟の仕組みの図解を見て下さい。視聴もできます。

水琴窟が分かったところで、「風の水琴窟」を見てみましょう。

youtu.be

この風鈴、水琴窟師中村洞水氏によるこだわりの音風鈴だそうです。風鈴のデザインが素晴らしいですね。

しかし風鈴というのは、もともと「微かな風」を、音に変換する装置です。微風を聴覚で捉えるものです。だから変換装置が主役ではないですね。

下に紹介する動画には、風鈴の姿かたちは出てきません、風鈴の音と虫の声と夜空だけです。約40分と長いですが、お薦め動画です。

www.youtube.com

虫の声が聞こえること、ここがポイントです。風鈴の音を、夏の風物詩として聞くということは、虫の声が聞こえる自然とともに在るということを感受することであろうと思います。

と同時に、風鈴が家屋の一部としてあるということは、家屋に住む人たちの生き様を象徴するものとしてもあるように思われます。

 

だから、今日でも、新築家屋に風鈴を取り付けようという気持ちは、素晴らしいですね。

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http://engawa.hatenablog.com/entry/2013/08/21/113252

 

【付録1】

風鈴仏桑華

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https://ameblo.jp/fleur-de-lys-yuri/entry-12318348226.html

 

風鈴仏桑華ふうりんぶっそうげ)とは、

東アフリカのザンジバル島が原産です。「ハイビスカス(仏桑華)」に似ていますが、花弁が反り返り、長い雄しべが下垂しています。名前は、風鈴のようにつり下がって咲く形から。

アオイ科フヨウ属の常緑低木で、学名は Hibiscus schizopetalus。英名は Coral hibiscus, Flinged hibiscus。

https://www.weblio.jp/content/%E9%A2%A8%E9%88%B4%E4%BB%8F%E6%A1%91%E8%8F%AF

 

【付録2】

内と外の世界を緩やかにつなぐ、ニッポンの縁側

縁側に腰を下ろす。すると、目の前には、小さくとも手入れの行き届いた庭か、田舎の山並みが広がっている。鶯のさえずりに耳をすませ、やがて夏になれば、よく冷えたスイカに噛りつく(黒い種は庭に向かって吹き飛ばすのが正しい)。寒さ厳しい季節には、ガラス戸を閉め切った縁側の日だまりで、猫と一緒に背を丸め、まどろむ。

勝手知ったる隣近所の住民が、玄関先ではなくいきなり縁側の前までやって来て訪問を告げたとしても、マナー違反にはなるまい。やぁ、ようこそ、と迎えられ、そのまま縁側での茶飲み話に花を咲かせる。

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https://www.houzz.ie/photos/%E6%9A%96%E7%82%89%E3%81%AE%E3%81%82%E3%82%8B%E6%99%AF%E8%89%B2-phvw-vp~94356301 

*1:

風鈴/藤原絵理子

夏の夜の風鈴の音は

少女の細い髪に吸い込まれた

憧れていたものを忘れて

漂っている 闇の隙間

 

みんな帰った後の音楽室で

ピアノを弾いていた

早く帰らなきゃいけないのは

わかっていたのに 夕暮れの斜陽に

 

哀しみは恋した時に なんて嘘で

まだ髪が細かったころから知っていた

その哀しみを 急いで隠した

 

風が泣いている 木立を抜けて

遠ざかる どこへとも知れず

泣き声だけが残って 繰り返している

http://po-m.com/forum/myframe.php?hid=10373

*2:もちろん、介護は「家族」だけで解決できる問題ではない。