浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

幸福って何? 快楽と苦痛

ベンサム「道徳および立法の諸原理序説」)

「快楽」という言葉がある。これは「快く(心地よく)楽しいこと」と同義である。しかし、「快楽」という言葉は「性的な欲望の満足」のイメージが強すぎるように思われる。そこで通常「快楽」という言葉は「幸福」という言葉に置き換えられる。

私は「快楽」という言葉が出てきたら、「心地よく楽しいこと」と置き換えて理解するようにしている。「幸福」でも良いのだが、何かぴんとこない。…あなたが「心地よく楽しいこと」を望むなら、以下を読んでみてください。

「心地よく楽しいこと」(幸福、快楽)って、具体的にどういうこと? と思ったことはないでしょうか。ベンサムに聞いてみましょう。

ベンサムは「快楽」と「苦痛」がどのようなものであるかをリストアップしている(第5章)。順にみていこう。まずは「快楽」から。(・は、私のコメント)

1.感覚の快楽

(1) 嗜好または味覚の快楽

・食事の快楽は、後に出てくる快楽との複合である。美食は文化だ。…あなたは、リンチーリヤ地方の伝統食を知っているか。

(2) 酩酊の快楽

・理性の後退。…カエルは酒を飲んだらひっくりカエルか。…ドラッグ中毒者は何を夢見ているのだろうか。

(3) 嗅覚の快楽

 ・あるタレントが、女子アナをつかまえて「いい匂いがする」と言っていた。

(4) 触角の快楽

・母の胸に抱かれて。…子宮にねむる胎児の原初の感覚は触覚だろうか。

(5) 聴覚の快楽

・「音楽」は、他の快楽との複合の快楽である。…音の無い世界を想像せよ。…「静寂」という快楽。

(6) 視覚の快楽

・絵画、彫刻、陶芸、書道。ファッション・モデル。民族衣装。ヘア・スタイル。孔雀の羽。

(7) 性的感覚の快楽

 ・生命存続のために、神が与え給ふた感覚。…あらゆる生命活動・文化活動のエネルギー源か。…ところで「植物」に性的感覚はあるか。

(8) 健康の快楽

・病気の苦痛は感じられるが、健康の快楽は感じづらい。しかし、健康と病気は連続している。特に、精神の健康と病気は判別し難いものがある。

(9) 新奇の快楽

・新しいデザイン、新しいアイデア、新曲、新作、発明・発見は、常に楽しい。…若いということは、新しいものを産み出せるということだ。

2.富の快楽

・価値ある物を手に入れることができたとき、そして、それを使用したり、見せびらかしたりしたときに得られる快楽。…高価な調度品。プール付の邸宅。アメリカン・ドリーム。それが見果てぬ夢ならば、プチ贅沢をいたしましょう。

・財産と所有の観念は切り離せない。「所有」は、このブログで追究していきたい主要テーマの一つである。

3.熟練の快楽

・一生懸命カラオケで練習してうまく歌えるようになったらうれしい。…サッカー好きの人なら、きっと辛い練習も快楽だ。

4.親睦の快楽

・お互い友人だといっても、それを信じるのは愚か者。 この名ほど世間にありふれたものはなく、その実ほど天下にまれなものはない。(ラ・フォンテーヌ)

5.名声の快楽 (良い評判、名誉心)

・「あなたは偉い」「可愛いね」「非凡な才能がある」などと言われたい。

6.権力の快楽

・先生と呼ばれる政治家、社長、高級官僚、団体役員、指導者、親方。…権力の根拠は何か。授権者は誰なのか。

7.敬虔の快楽(宗教の快楽)

・至高の存在(神)を信じる心情が私には理解できない。現在の自然科学で説明できない世界があるからといって神を持ち出す必然性はない。…現生利益を語る宗教が宗教の名に値しないとするなら、宗教は自然哲学になるだろう。

8.慈悲の快楽(共感の快楽)

ベンサムは「慈愛の対象となるのは、(1)至高の存在、(2)人間、(3)その他の動物である」と言っている。もちろん最も重要なのは、人間との共感(私とあなた、私たちの共感)である。共感こそ、すべての倫理の基礎ではないか

9.悪意の快楽(憎悪の快楽)

・憎い相手が受ける苦痛を想像してよろこぶ。復讐心である。「倍返し」に共感する心情は、野蛮な心情か、自然な心情か。…素人裁判(裁判員裁判)では量刑の重さが問題になるようだ。

10.記憶の快楽(回想の快楽)

・楽しかったことは思い出しても楽しい。苦しかったことでも楽しい思い出に変わることもある。「昔はよかった」と老人は言う。…昔(戦争)は良かったという政治家もいる。

11.想像の快楽

・「あらぬこと(X)」は、想像するだけでも楽しい。あなたも(X)に何かを入れて想像してみてください。

12.期待の快楽

・かなりよく出来たという感触を持っているときの合格発表を待つ時間。…楽しいことを待っている(目標に向かって努力している)ときが、最も楽しかったりして…。

13.連想に基づく快楽

・後ろ姿を見て「どんな美人だろう」と思い、振り向いてみる。「あっ…」

14.解放の快楽

・病気の苦痛から解放される。…「決して話してはならない」という制約から解放される。

  

次に「苦痛」のリストアップ

1.欠乏の苦痛

欠乏の苦痛は、それが対応し、その欠乏の原因となっている数だけに分解することができる。以下は、ある種の「欠乏の苦痛」の変形。

(1) 欲求の苦痛(満足されない欲求の苦痛)

・決して少なくはない万年ヒラ社員。…家に帰れば、ただ一人。

(2) 失望の苦痛

・初デートの約束をしたのに彼(彼女)は来なかった。

(3) 後悔の苦痛

・A社株は値上がりすると確信していたのだが、あるニュースが流れてきて、ひょっとすると値下がりに転じるかもしれないと躊躇していたら、大幅に値上がりしタイミングを失してしまった。

2.感覚の苦痛

(1) 飢えまたは渇きの苦痛

・生存のための「食物摂取」は、いまなお政治的な課題である。世界には、栄養失調で死んでいく子供たちがたくさんいる、などと聞くと胸が痛む。

(2) 味覚の苦痛

(3) 嗅覚の苦痛

・私にとって、納豆は嗅覚の苦痛以外のなにものでもない。

(4) 触角の苦痛

(5) 聴覚の苦痛

(6) 視覚の苦痛

・ひょっとして「老いさらばえた姿」は視覚の苦痛なのではないか。

(7) 極端な熱さ・冷たさから生み出される苦痛

(8) 病気の苦痛

・病気の苦痛は言葉に翻訳できない。私はあなたにこの苦痛を伝えられない。私はあなたの苦痛を感じられない。慰めの言葉は空しく響く。ただ手を握るか、抱きしめるのみ。

(9) 努力の苦痛

精神または肉体の激しい努力に伴いやすい不安感。

3.不器用の苦痛

・「自分、不器用ですから‥」(高倉健) 

4.敵意の苦痛

 ・意見が合わないからといって、敵対意識むきだしにして、攻撃(武力や言葉で)を加える愚かさは、どうしたら克服できるのだろうか。

5.悪名の苦痛(不名誉の苦痛)

6.敬虔の苦痛(宗教的制裁の苦痛、宗教的恐怖)

・「 神の不興を受けていて、その結果として、神の特定の命令によって、現世または来世においてある苦痛を加えられるという確信に伴う苦痛」は、私には理解できない。洗脳されているとしか思えない。

7.慈愛の苦痛

 他の人々が受けると想像される苦痛を考えることから生み出される苦痛。

8.悪意の苦痛

9.記憶の苦痛

 ・苦しかったことは、思い出しても苦痛だ。

10.想像の苦痛

 ・悪いことばかり思い浮かぶ。希望がない。

11.期待の苦痛(心配の苦痛)

 ・なるようにしかならないのだよ。

12.連想に基づく苦痛

 

以上