浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

ウィキリークス(1) 忖度まんじゅう 法では解決困難な問題にどのように踏み込むか

塚越健司『ハクティビズムとは何か』(13) 

塚越は、ウィキリークス*1について、次のように説明している。

不正に関する情報の公開という、法では解決困難な問題に踏み込むことで、法や政策の無能さを示すと同時に社会貢献を目指す集団がある。ハクティビズスト集団として世界中にその名が知られているウィキリークスは、2006年末に誕生したインターネット上のウェブサイトであり、内部告発=リーク情報をサイトに掲載するリークサイトである。創設者は、オーストラリア出身のジャーナリスト兼インターネット活動家ジュリアン・アサンジ。既に述べたように彼はサイファーパンクの熱心な参加者であり、暗号理論に精通した生粋のハッカーだった人物である。

 アンダーラインを引いたところをつなげて、ウィキリークスとは「不正に関する情報を公開するウェブサイト」とするのが、最も簡潔な定義だろう。Wikipediaの定義では「匿名により政府、企業、宗教などに関する機密情報を公開するウェブサイト」である。この定義を比べてみると、微妙なニュアンスの差がある。前者は「不正に関する情報」であり、後者は「機密情報」である。「不正に関する情報」であれば「内部告発」であり、正義のイメージがある。それに対して「機密情報」であれば「リーク情報」であり、本来漏洩してはならない機密を漏洩するという罪悪のイメージがある。塚越は、内部告発=リーク情報としているが、これは紛らわしい。

「不正に関する情報」というべきか「機密情報」というべきか、どちらが妥当か、ここでは判断できない。

  

ウィキリークスは、どのような情報を公開してきたのだろうか。公開された情報は数限りないらしいが、wikipediaが紹介しているものは以下の通りである。( )内の件数は、本書による。

2008/09 サラ・ペイリンのヤフーアカウントハッキング

2010/04 イラク戦争の民間人殺傷動画公開事件

2010/07 アフガン紛争関連資料公開事件(約77,000件の資料)

2010/10 イラク戦争の米軍機密文書公開事件(約400,000件の資料)

2010/11 アメリカ外交公電ウィキリークス流出事件(約250,000件の公電)

2017/03 CIAによるハッキング関係機密文書公開事件

 

今年公開された、CIAによるハッキング関係機密文書の公開が注目される。(本書の発行は2012年)

告発サイトWikiLeaksは3月7日(現地時間)、米中央情報局(CIA)が開発した多数のハッキングツールとその関連文書を入手し、その一部を公開したと発表した。

WikiLeaksは「Vault 7」と名付けたこのリーク文書を「過去最大のCIAの機密文書暴露」だとしている。まずは、バージニア州にあるCIAのサイバーインテリジェンスセンター(CCI)から入手したという約9000件の機密文書を「Year Zero」として公開した。

同組織によると、CCIは5000人以上のハッカーを採用し、iPhoneAndroidMicrosoftSamsung TVから情報を抽出するための攻撃用マルウェアゼロデイ攻撃ツールを開発しているという。例えばSamsung TVへの攻撃ツール「Weeping Angel」は、英国政府のMI5(機密諜報部)と共同開発したもので、そのテレビのある部屋での会話を密かに録音し、ネットワーク経由で録音データを転送できるという。公開資料にはその利用方法の解説もある。攻撃ツールの多くはOSの脆弱性を利用しており、「CIAのあるマルウェアは大統領がツイートに使っているAndroidあるいはiPhoneに侵入して制御することもできる」とWikiLeaksは説明する。

WikiLeaksが入手したツールにはWhatsAppなどの暗号化されたアプリのデータを解読できるものもあるという。これらのツールは公開していない。かつて米国家安全保障局NSA)の機密文書をメディアに持ち込み、暴露したエドワード・スノーデン氏は自身のTwitterで、「プログラムや組織名は本物だ。内部者しか知ることは出来ないはずだ」とツイートした。(佐藤由紀子,ITmedia

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1703/08/news062.html

 家電製品をスマホで外出先からコントロールできるようにしていたり、テレビをインターネット回線につなげていたりすれば、盗聴(録音・録画)が可能だということである。

 

これらをすべて「不正に関する情報」と言えるかどうかは解釈が分かれるだろう。しかしほぼ間違いなく「機密情報」とは言えるだろう。だとすると、サイト管理者が不正と判断する機密情報を公開するサイトがウィキリークスだと言えそうである。

 

ウィキリークスはホームページ上にその活動目的を「あらゆる地域の政府・企業の非倫理的な行為を暴こうと望むすべての人々の役に立ちたい」と掲げ、「パブリッシングにより透明性が増し、この透明性がすべての人々にとってより良い社会を創造する。より精密な調査が不正を減らし、政府や企業その他の団体を含む、すべての社会的組織における民主主義を強化する」とする。政治、戦争、経済、宗教、環境、外交といった問題に関わる、汚職言論弾圧などといった不正を告発するため、ウィキリークスは世界中から不正に関わる資料の提供を呼び掛けている(現在新規の受付は停止中)

パブリッシングとは、ネット上に公開すること。非倫理的な行為は、違法な行為とイコールではない。違法ではないが、非倫理的な行為はあるだろう。そのようなケースでは、何もアクションをとらなくてもよいのか。問題にする必要はないのだろうか。塚越は「法では解決困難な問題に踏み込む」という言い方をしていた。

 

『忖度まんじゅう』まさかの関西土産に。「世の中のニーズを忖度しました」

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 http://www.huffingtonpost.jp/2017/06/15/story_n_17116232.html

 

機密情報をリークすることにはリスクが伴う。身元を秘匿することは難しく、何らかの不利益を被る(最悪、身体的・精神的に殺される)。「公益通報者保護法」により、どれだけ保護されるか疑問である(未検討なので、ここではふれない)。

しかし、機密情報のリーク=不正に関する情報の告発者の身元がバレない、ということが保障されるなら、そのような不正または非倫理的な行為にかかわる情報の公開が増加すると予想される。

ウィキリークスとは、このような不正に関する情報の告発者の身元がバレないようにする仕組みだといってよいだろう。

 (ウィキリークスのサイト上にある専用フォームで、証拠資料を送付すれば)、寄せられた情報からはすぐに情報提供者に関わる情報が削除され、暗号化された情報が世界中をめぐってウィキリークスのサーバに送られる。その後ウィキリークスのコアスタッフ数名と数百人と言われるボランティア、また近年では提携した既存メディアとの間で情報の検証が行われる。最終的に適正と判断されたものがネット上に公開される仕組みだ。

 この記述で、重要な点が二つある。一つは、告発者(情報提供者)の身元がわかるような情報が削除され、追跡不可能になるよう工夫していること(具体的にどういうものか私には理解できないが)、第二に「不正」に関する情報か否か、また証拠資料の信頼性がチェックされるということ。特定個人(特定組織)の利害に基づき、情報が取捨選択されるものではないのである。…とりわけ既存メディアとの提携が注目される。

 アフガニスタン紛争資料公開以降、ウィキリークスは英『ガーディアン』、米『ニューヨーク・タイムズ』、独『シュピーゲル』などを初めとした大手メディアと提携し、事前に情報提供を行っている。資料は各メディアがそれぞれ独自調査を踏まえ、あらかじめ決められた日時に一斉に情報公開を行う。…それまでのウィキリークスは「リークサイト」という知名度と信憑性に欠ける組織であったが、既存大手メディアと提携することによって、知名度と情報の信憑性の同時獲得を可能にした。もちろん、既存メディアにとっても、貴重な情報を独占的に報道することができるため、この提携は双方にメリットのあるものとなっている。…ちなみに日本のメディアに関しては、2011年5月4日から、ウィキリークスと提携し日本関連の外交公電の事前提供を受けていた朝日新聞が、主に沖縄の米軍基地に関する公電情報とその分析記事を掲載している。

*1:ウィキリークスは、ウィキペディアとも、ウィキペディアを運営しているウィキメディア財団とも全く関係がありません。「ウィキ」という語は誰でも使用できる一般的な用語であり、商標ではありません。この言葉はウィキペディアが出現する前に既に存在していましたし、ウィキメディア財団もこの言葉についていかなる形でも所有権を主張することはありません。両サイトが使っているソフトウェア「MediaWiki」は、誰でも使用できるオープンソースプログラムです。(Wikipedia)