デザイン(3)
世界は無数の色に満たされている。一体どれくらいの数の色があるのだろうか?という素朴な疑問がある。答えは、「定義の数だけある」である。
「連続量と離散量」について聞いたことがあるかと思う。
データには、「人数」のように1人2人と数えることのできるものと、連続して無限に流れている「時間」のようなものがあります。前者を離散量、後者を連続量と呼びます。たとえば、身長や体重などの観測値は連続量と考えられますが、クラスの人数や本の冊数などは離散量です。しかし、たとえ連続量であっても、身長や体重は実際にはcm、kgなどの具体的な単位で計られるので離散量と考えることもできますが、これは便宜的に近似値を表示しているということで連続量として扱うことが多いようです。また、ある科目の得点を60点や61点と離散量で表したとしても、この科目の能力の変化は連続的で中間的な値を取りうるものとし、60点は59.5~60.5点までに対応する能力を表すものとして連続量で扱うこともあります。(https://www.koka.ac.jp/morigiwa/sjs/les106012.htm)
色は明らかに連続量(アナログ)であるが、離散量(デジタル)として取扱うことが何かと便利である。蜜柑は黄色、林檎は赤色である。色が連続量だとしたら、蜜柑の色と林檎の色は区別できないのか? ある範囲の色を黄色と呼び、別の範囲の色を赤色と呼ぶことにしたのか?…これは問いがおかしくはないか。人は、生まれつき、蜜柑の色と林檎の色を区別しているのである。そして色の研究の結果、太陽光と色を関連付けて、色が連続量(アナログ)だと認識するようになったのである。*1
人は生まれつき色を区別しているのであれば、デジタルと考えて物事を処理するのが有用であろう。連続は無限の話に結びつき、スノッブとしては興味深いのだが、それは別途ということにしよう。
色名の数
人間が使っている色名の数はどのくらいあるのでしょうか。アメリカで編まれた色名集には、約7500の色名が集められていますし、日本にも外来色名を含めて2000強の色名を集めた辞典があります。この数は1000万*2には遠く及びませんが、先に述べた色見本帳の色数にほぼ匹敵します。また、日本工業規格(JIS Z8102)には、178の慣用色名が収録されています。これは比較的ポピュラーな、ある意味で基本的な慣用色名とでも位置づけられるものといえましょう。(近江源太郎監修『色の名前』(角川書店、2000年)のコラム「色の世界と色名の世界」(pp.192-193)より。以下の引用も同じ)
日本工業規格(JIS Z8102)を見ると、269の慣用色名*3が挙げられている(178というのは改訂前の数字か?)。和名147色、英名122色である。なかなか面白そうなので、いずれ詳しくとりあげたい。
色名使用の実態
では、私たちはこれらの色名を自在に使い分け、色を的確に表現しているといえるでしょうか。例えば、オールド・ピンク、ローズ・ピンク、ピンク、桃色、紅梅色、蘇芳(すおう)、鴇(とき)色、さまざまなピンク系の色名を聞いて、ただちにその微妙な色の違いを感じ取り、正確に使い分けることができるでしょうか。
上図は、オールド・ローズ、ローズ・ピンク、ピンク、桃色、紅梅色、鴇色を並べたものである*4。こうして並べてみると、違いは識別できるが、一つだけ取り上げて「これは何色ですか」と聞かれれば、恐らく「ピンク/桃色」と答えるだろう。でも、「紅梅色です」とか「鴇色です」とか答えてみたいもの。また、実際の桃の現物を見て、「このあたりは、オールド・ローズっぽいね」とか言ってみたいものである。
夢あさま・浅間白桃、http://amemiyafarm.com/product
さて、この浅間白桃の色は、「桃色」であろうか? 「蘇芳色」に近い部分もあるようだ。(蘇芳については、2016/5/2 蘇芳、マルサラ、バーガンディー でとりあげた)
アメリカの学者が以前、新聞・雑誌・小説などに出てくる色名の統計をとったところ、合計4416回登場した色名のうち、実に92%がわずか12語*5で占められていたといいます。ちょっと寂しいような気もしますが、これが現代人の色名使用の実態なのです。とはいえ、これは色名の性質上しかたのないこととも言えます。例えば、色名はその色を点としてではなく、一定の広がりをもって表します。また、同じ色、あるいはごく近い色に、いくつもの色名がつけられている場合(利休鼠・深川鼠・松葉鼠・青柳鼠など)もありますし、ノー・ネーム・ランドと呼ばれる、伝統的な色名が全くない色域もあります。つまり、こうしたことからもわかるように、色名は、色を正確に表すという観点から見ると、実はかなり不十分な表現伝達手段といってよいでしょう。
わずかの12語。この語彙の貧困さは、私たちの日常生活の(精神的)貧困さを示すものであるようだ。ただし、言葉にせずとも、実際には色の多様性を感受しているかもしれない。
色名の魅力
けれども、色名の誕生には人間の文化や文明の歴史、そして生活してきた自然環境の特徴などが色濃く反映されています。そしてさらにその背景には、人間のものの見方、感じ方や考え方が横たわっているのです。従って、たとえそれが不十分な表現伝達手段であったとしても、色名にはやはり代えがたい魅力があります。私たちはこの本で見てきたような多彩な色名を手掛かりにして、身の回りの自然を、人類の歴史を、そして人間そのものを、楽しみながら知ることができるのです。
色の背景には、「人間のものの見方、感じ方や考え方が横たわっている」ことに留意し、次の歌曲を聴いてみよう。
桃色吐息/高橋真梨子
桃色吐息/石原詢子
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2つの三原色
(左)光の三原色(色光の三原色) |
(右)色の三原色(色料の三原色) |
発光で見える色 (色を表現する媒体のうち、様々な色の発光体を組み合わせて見る者の方へ放つことで色刺激を起こす) |
光が当たり反射して見える色 (色を表現する媒体のうち、色や光を反射して見る者に色刺激を起こす) |
RGB(赤Red・緑Green・青Blue)で作られる |
CMYK(シアンcyan・マゼンタmagenta・イエローyellow)で作られる |
混ざると明るくなり白に近づいていく(加法混色) |
混ざると暗くなり黒に近づいていく(減法混色) |
テレビ画面やパソコンのモニター、照明など |
印刷物、ポスター、カラー写真 |
約1600万色 |
約1億色 |
https://iro-color.com/episode/three-primary-colors.html 他
(備忘メモ)Wikipediaより
- 原色…混合することであらゆる種類の色を生み出せる、互いに独立な色の組み合わせのこと。
- 赤・黄色・青の三色を原色として使った場合の色域は比較的小さなものとなり、なかでも鮮やかな緑・シアン・マゼンタを作ることが困難という問題があった。これは知覚的に均等に配された色相環においては赤・黄色・青は間隔が偏っていることが原因であった。こうしたことから、今日の三色印刷・四色印刷やカラー写真ではシアン・マゼンタ・イエローが色の三原色として使用される。
- 理論上は三色すべてを均等に混ぜると灰色になり、三色に充分な光学濃度があれば黒が生まれるはずである。実際には、暗色になりきれいな黒は作れない。美しい黒を印刷するため、また三原色のインキを節約し消費量と乾燥時間を減らすため、この三色に加えて黒のインキがカラー印刷に使われる。
- (CMYKのKは) キー (Key) の略語である[blackの略ではない]。キーとは印刷する画像の細部(輪郭や濃淡)を表現するために用いられるキープレートという印刷版の略称で、通常は黒インキが使われる。
- 実際には、絵具など実際の物質からできた着色料を混ぜることはより複雑な色の反応を起こす。顔料やバインダー[印刷インキ中の顔料を紙面に固定させるもの。乾性油ワニスや樹脂の類]といった物質が有する自然科学的な性質は色の成立過程に影響する。…実際の印刷では、CMYKに加えて蛍光色などの特色インクを用いて色彩表現の幅を広げる事が良く行われる。またパソコン用のカラープリンタでは、以前は低価格機ではコストダウンのためにCMYのみのモデルも存在したが、現在ではCMYKにやはり中間色のインク(ライトシアン・ライトマジェンタ・グレーなど)を加えて色再現性を高めるのが主流となっている。
- デジタルカメラなどで撮影された画像、あるいはパソコンのディスプレイ上に表現される色はライトの発光を利用して色を表現(加法混合)するRGB形式であるが、印刷物ではインク(色素)による光の吸収を利用して色を表現している(減法混合)。このように、画面と紙とでは発色の原理が全く異なる為、RGB形式の画像を印刷する場合はRGB形式からCMYK形式への変換作業が必要となる。
- sRGB、Adobe RGB(sRGBよりも広いRGB色再現領域を持つ)
- HLS色空間…色相(Hue)、彩度(Saturation)、輝度(Lightness/Luminance または Intensity)の3つの成分からなる色空間。HSV色空間によく似ている。HLS色空間を使う代表的なアプリケーションとしては Microsoft Windows (ペイントを含む)、CSS3、Paint Shop Pro、Inkscape など。