浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

グローバルなコミュニティーの責任ある一員となる(2) 誰のための、何のための戦いなのか?

難民キャンプにて

www.youtube.com

これは映画ではなく、「現実」である。自分が、この難民キャンプの食料を求める人たちの一人であるとしたら、どのように感じ、何を考えるだろうか。自分の子どもや親が、この難民キャンプの食料を求める人たちのなかにいるとしたら、どのように感じ、何を考えるだろうか。また、自分がUNRWA(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)の一員でこの配給に携わっているのだとしたら、どのように感じ、何を考えるだろうか。

なぜ、このような「現実」が生じているのか。これは「悪夢」ではないか。

日々の生活を楽しみなさい。神(仏)を信じなさい。???

「(ネット等で)議論する」や「自分にできることからする」と言う(そしてそれを実行する)だけで、事態が良くなるのだろうか。それは身分が安定したものの能天気な言い分ではないか。自己満足に過ぎないのではないか。(そんな単純なことで事態が良くなるなら、とっくの昔に争いは無くなっていただろうと思う)。では、どうすべきなのか。

「つべこべ言わずに、行動せよ」で、行動したら、事態が良くなるのだろうか。それはそういう行動がおこせる余裕のある人の勝手な言い分ではないか。…「武器を持って立ち上がれ」と言うのだろうか。現実を冷静に把握しない、「理論」なき無節操な行動がどれほど悲惨な結果を生むか、歴史を学んだことがないのだろうか。

戦争と平和」を題材にした小説や映画が作られ、そこに描かれる人間模様に感動する。「戦争はイヤだ」。…それで世界は平和になったか。戦争はなくなったか。

 

安倍首相の記者会見

Huffington Post(吉野太一郎)は、次のように報じている。(会見はYouTubeで見ることができる)。

安倍晋三首相は9月30日未明(日本時間)、国連総会の一般討論演説で、シリア・イラク難民の問題について、約8億1000万ドル(約972億円)の経済支援を実施する方針を表明した。

演説後の記者会見では、外国人記者が、9月24日に安倍首相が発表した「新・3本の矢」とする経済政策について質問したあと、「シリア難民問題への追加の経済的支援を表明したが、難民の一部を日本に受け入れることは考えていないか?」と質問した。

安倍首相は「新・三本の矢」について説明して「新たな三本の矢を全力で放ち、新たな国造りを進めて参りたい」と述べた後、シリア難民問題への答えに移り、以下のように答えた。

「そして今回の難民に対する対応の問題であります。これはまさに国際社会で連携して取り組まなければならない課題であろうと思います。人口問題として申し上げれば、我々は移民を受け入れる前に、女性の活躍であり、高齢者の活躍であり、出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手があるということでもあります。同時に、この難民の問題においては、日本は日本としての責任を果たしていきたいと考えております。それはまさに難民を生み出す土壌そのものを変えていくために、日本としては貢献をしていきたいと考えております」

ロイター通信は会見の内容を「安倍首相、シリア難民受け入れより国内問題解決が先」とのタイトルで報じた。

http://www.huffingtonpost.jp/2015/09/30/abe-refugee_n_8219324.html

 

イスラム国(IS=Islamic State)とは

イスラム国は、イラク・シリア間にまたがって活動するイスラム過激派組織であり、ISとかISIL(アイシル)と呼ばれる。一般に(大多数の日本人には)、テロ組織として理解されているようだ。…シリア内戦に関与し、状況が複雑になっている。

簡潔な説明では、

イラクを拠点とする国際テロ組織アルカイダ系の過激派組織。「イラク・シリア・イスラム国」を名乗っていたが、6月末、イラク北西部からシリア東部の一帯でイスラム国家の樹立を一方的に宣言。それに伴って組織名も改称した。(2014-08-10 朝日新聞 朝刊 2総合)

イスラム教スンニ派の武装組織ISIS(アイシス)(ISIL(アイシル)とも)が2014年6月に宣言した新たな組織名。イラク北西部からシリア北東部を事実上支配し、カリフ制国家の樹立を宣言したが、国際社会は承認していない。(デジタル大辞泉

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http://www.cnn.co.jp/special/interactive/35065020.html

 

ロイター(Mariam Karouny 翻訳:宮井伸明)が、

焦点:次世代見据えるイスラム国、シリア北東部で「国家モデル」構築 と題する興味深い記事(2014/9/5)をのせている。

http://jp.reuters.com/article/2014/09/05/analysis-islamic-state-syria-idJPKBN0H007W20140905?pageNumber=1

シリア北東部の砂の平原にある町々では、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」が、市民生活に深く入り込んでいる。頭部切断などの残虐行為で恐れられる同組織だが、こうした場所では電気や水の供給のほか、銀行や学校、裁判所、礼拝所、パン屋に至るまでが彼らの手によって動いている

過去数カ月、シリアとイラクで支配地域を急速に広げてきたイスラム国。メディアでは、戦地での情け容赦ない行動や、厳格なイスラム法を強制する姿勢などが大きく扱われている。一方、現地住民らは、勢力拡大の大きな要因は、効率的で時として極めて現実的でもある統治能力にこそあると語る

そうしたイスラム国のやり方は、シリア北東部の都市ラッカで顕著に見ることができる。イスラム国は、いずれ「カリフ国家(預言者ムハンマドの後継者が指導する国家)」が中国から欧州にまで広がることを望んでいるが、ラッカでは、カリフ国家での生活がどんなものか、その実例を示そうとしているようだ

オバマ米大統領は先月、イラクでの空爆を実施するに当たり、イスラム国は中東から取り除かれなければならない「がん」だと表現した。

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ラッカは、シリア北部の都市で、アレッポの160km東にあり、ユーフラテス川中流域の北岸に位置する。ラッカ県の県都。 ジャズィーラ地方西部の主要都市で、モースル、デリゾール、ハサカ、カーミシュリーなどと並びジャズィーラを代表する都市のひとつである。(Wikipedia)

ラッカなどの場所では、イスラム国は日常生活に完全に入り込んでいるため、イラク軍やシリア軍やクルド人民兵組織は言うに及ばず、米空爆によっても掃討することは事実上不可能だ。

ラッカは、昨年にアサド政権の打倒を目指す反政府勢力が初めて占拠した都市。イスラム急進派から穏健派までさまざまな反政府勢力が割拠していたが、1年も経たないうちに、敵対する武装組織を容赦なく排除したイスラム国が支配するに至った。…最初にそうした締め付けを行った後、組織は公共サービスや公共機関の設置を開始し、同地を「イスラム国家」の建設に向けた拠点とする姿勢を明確にした。…組織は公共サービスに関係する機関をすべて回復・再建し、そのなかには、消費者保護を管轄する事務所も含まれるという。

ある戦闘員によると、現在ラッカでパン屋向け小麦粉の製粉と流通を担っているのは元アサド派であり、電気と水を供給している現地ダムでも、以前からの従業員たちが今も職務を遂行している。元アサド派を積極的に使う姿勢は、イスラム国の現実主義を映し出している住民や活動家は、そうした現実主義こそ、制圧した地域の支配継続に不可欠な要素だと指摘する。また、イスラム国は、北アフリカや欧州から来た専門家の手も借りている。一例を挙げれば、同組織を率いるバグダディ指導者は、ラッカの通信網の運営をチュニジア出身の専門家に任せている。

戦闘員や組織のメンバーには、財務省と銀行を合わせたような部門から給与が支払われている。…貧困家庭への支援もあり、母子家庭には1人につき100ドルが支払われることもあるという。物価も低く抑えられている。価格操作を行う業者は罰せられ、警告に従わない場合は店舗を閉鎖させられる。

一方で、組織は裕福な人には「イスラム税」を課している。また専門家らは、イスラム国は、誘拐で集めた身代金のほか、シリアやイラクで支配する油田からの石油をトルコなどの業者に売ることで数千万ドルの資金を得ていると試算している。

イスラム国の躍進の鍵は現実主義にあるにせよ、イデオロギーも統治には重要な役割を果たしている。バグダディ指導者は、自らを預言者ムハンマドの後継者だとし、「カリフ国家」を樹立すると宣言した。これには、聖戦主義者や専門家を海外から呼び寄せる狙いもあった。支持者らによれば、この宣言には多くの人が反応し、世界中の裕福なイスラム教徒からはラッカに支援金が寄せられた

 

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上段:現代のラッカ市街から見る日没、ラッカ近郊のユーフラテス川、中段:都市の外壁、バグダード門、下段:カスル・アル・バナート[淑女の城]、ウワイスアルカルニー・モスク(Wikipedia

 

私は、この記事を読み、イスラム国(IS)のイメージが変わった。単純に、過激派組織と片づけられるようなものではないようだ。「理想的な国家」を樹立しようとしている。市民の貧困や格差を是正しようとしている。…wikipediaは、テロリズムを、「何らかの政治的目的のために、暴力や暴力による脅威に訴える傾向や、その行為のこと」と定義している。彼らの「暴力」は、誰に向けられているか。市民には向けられていない。圧政者・独裁者(及びその支援者)にのみ「暴力」が向けられているのではないか。…イスラム国(IS)がテロ組織だとすると、アサド独裁政権に「暴力」を向ける反政府軍自由シリア軍)もテロ組織なのではないか。レッテルを貼るまえに、冷静に彼らの思想と行動を把握すべきだろう

ここで、「イスラム国をめぐる諸問題」(日本エネルギー経済研究所)で、保坂修司・中東研究センター副所長が「イスラム国とは何か」について述べているので、その意見を紹介・検討しようと思ったのだが、それは別の機会に譲る。興味ある方は、http://www.jnpc.or.jp/files/2014/12/2e3da2b77f6ba05bed797ed93f71b251.pdf を参照願いたい。(イスラム国とアルカイダの違い、ジハード主義、タクフィール主義、サラフィー主義、カリフ制などの説明がある)

 

三つ巴の戦い

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ラッカの市街地(2009年)wikipedia

 

Wikipediaは、ラッカについて、次のように書いている。

シリアの独立後、ラッカはシリア国内の他の主要都市から離れていることもあり、中東戦争イスラエル等の隣国との小規模な争いの影響を受けることは殆ど無かったが、2011年にアラブの春に触発されたデモがシリア内戦に発展すると事態が一変した。アサド政権と反政府勢力の中心であった自由シリア軍がホムスやアレッポでの戦闘に集中する中、ラッカでは権力の空白に乗じたISILが勢力を拡大し、2014年8月末にはアサド政権のラッカ県最後の拠点であったタブカ空軍基地を陥落させた事で完全にISILによる支配が確立された。アサド政権及び自由シリア軍系の反体制派がラッカから完全に放逐されたことにより、9月にはアメリカを中心とした多国籍軍によるISILに対する空爆が開始されている

2014年現在、シリア内戦の戦況はアサド政権、自由シリア軍、ISILによる三つ巴の状態にあり、ISILはラッカを首都と宣言している。(最終更新:2015/10/4)

 

ロシアは、イスラム国(IS)をテロ組織とみなして、2015/9/30から空爆を開始した。

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http://img.mainichi.jp/mainichi.jp/shimen/images/20151004dd0phj000063000p_size8.jpg

 

Wikipediaは、アサド政権、自由シリア軍、ISILによる三つ巴と言っている。上図の表現は、微妙に異なる。

特に、「穏健な反体制派」という表現には、客観性が感じられない。AFP通信は、下図のように「反体制派武装勢力」と言っている。

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http://www.afpbb.com/articles/-/3062004

 

この三つ巴を、どう理解すればよいのか。(ヒズボラクルド人勢力も考えないといけないのだろうが、ここでは無視する)。AFP通信の表現に従い、この三者を、「アサド政府」、「反体制派武装勢力」、「イスラム国」と表現しよう。私の現在の理解は、以下のようなものである。(限られた知識と情報に基づくので、事実認定に誤りがあるかもしれない)

  • アサド政府は、実質的に一党独裁の政権である。アラブ社会主義(アラブ民族主義)を標榜し、イスラム原理主義とは対立する。アラブ世界の一部であるパレスチナを「占領」しているイスラエルとは相いれない。ロシアは、アサド政府を支援している。
  • 反体制派武装勢力は、独裁政権の腐敗と貧富の格差拡大に抗議する市民団体に、何者かが「武器」を与え、「武装勢力」となった。欧米が支援している。
  • アサド政府の「包括的改革プログラム」と呼ばれる一連の政治改革と抗議デモに対する弾圧の関係がよく分からない。末近は「アメとムチ」と言っているが、政治改革は見せかけだったのか、それとも見せかけではなかったのだが、「武装勢力」が政府転覆を企てたのか、よくわからない。
  • アサド政府は、当然に、国を統治するための軍事力を持っている。市民団体に「武器」が与えられ、「武装勢力」となることができなかったら、内戦は起きなかった。
  • イスラムは、その成立までにいろいろな変遷があってややこしい。アルカイダとは決別した組織であるようだ。イスラム教スンニ派の組織である。彼らは、イスラムの理想国家(カリフ国家)をめざす。「残虐さ」が印象づけられているが、その情報は鵜呑みにせず、割引いて受け止める必要があるのではないか。(誰に対して「残虐」なのか)
  • この三つ巴は、次のイデオロギーの対立であろう。…アサド政府:アラブ社会主義。反体制派武装勢力新自由主義イスラム国:イスラム原理主義
  • ロシアは、イスラム国をたたいているが、アメリカ流の新自由主義(グローバル企業が支配する社会)を望まない。反体制派武装勢力の拠点を空爆しているかもしれない。
  • アメリカも、イスラム国をたたいているが、当然にアラブ社会主義イスラエルと対立)を望まない。反体制派武装勢力に軍事援助し続けるだろう。
  • イスラム国…イデオロギ―面で優位性を示すことはできない。「残虐さ」や「テロ」の誤解がとけたとしても、限定的な支持に止まるだろう。

(つづく)