神野直彦『財政学』(19)
今回は、第9章 予算過程の論理と実態 の続き(P127~)である。
あらためて予算編成過程を概観しておこう。
月 |
項目 |
R2(2020) |
R3(2021) |
6~7月 |
経済財政運営と改革の基本方針(閣議決定)* |
2019/06/21 |
2020/07/17 |
7月下旬 |
2019/07/31 |
2020/07/21 |
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8月 |
概算要求書の提出(各省庁) |
2019/09/05 |
2020/10/07 |
9~12月 |
予算編成作業(財務省による査定) |
…… |
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12月 |
予算編成の基本方針(閣議決定)* |
2019/12/05 |
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12月 |
2019/12/20 |
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12月下旬 |
予算政府案(閣議決定) |
2019/12/20 |
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1月 |
<国会提出>財政演説 |
2020/01/20 |
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1~3月 |
<国会審議> |
…… |
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3月 |
<予算成立>予算書 |
2020/03/27 |
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各項目の内容は、財務省のサイトで見ることができる。(但し、*は内閣府)
神野の指摘するように、12月の予算編成方針はナンセンスで、いまや形だけ、実質は「経済財政諮問会議」作成の「経済財政運営と改革の基本方針」が、予算編成の基本方針となっているようだ。
概算要求基準(閣議了解)は、例年「~年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針について(閣議了解)」となっているが、R3(2021)年度予算については「令和3年度予算の概算要求の具体的な方針について」(令和2年7月21日閣議 財務大臣発言要旨)」となっている(新型コロナの関係)。2021年度予算は、新型コロナ関連がどのように予算化されるのか要注目である。
衆議院の通常国会は毎年1回1月に召集される(会期:150日間)。内閣総理大臣の「施政方針演説」に続き、外交演説、財政演説、経済演説(まとめて政府4演説)。
財政演説については、「オープン・ザ・バジェットといわれる格調高い財政演説が展開されることになっている」(神野)そうである。
- 財政演説に対して代表質問が行われた後、予算は予算委員会に付託され、そこで実質的に審議される。
- 期間は短く、政策全般にわたって質問ができるため、総花的な審議となり、予算書の具体的な内容について審議されることはあまりない。
神野は、「実質的な審議が行われているとは言い難い」と述べている。いちど「実質的な審議」が行われているのかどうか、予算委員会議事録をチェックしてみるのも良いかもしれない。
各省庁の概算要求の準備が6月から始まるそうなので、予算政府案が12月として、予算の立案期間は7か月、国会審議が2か月ちょっとという計算になる。これは何を意味するか。
- (予算委員会での)予算の審議・決定の期間が短いということは、議会の予算議決権が形骸化していて、非統治者が議会を通じて財政をコントロールするという財政民主主義が、機能不全に陥っていることを示していると考えられなくもない。
- 大衆が政治に参加し、分裂した利益が議会に反映されるようになると、予算の審議・決定は、そうした多元的利益を均衡させるという使命を帯びてくるはずである。そうした使命を議会が果たさなくなれば、社会統合に亀裂が生じてしまう。
- 日本では、議会における政治過程ではなく、予算立案の事務過程で利害調整が行われてしまう。
神野は、財政民主主義が機能不全に陥っているというが、そもそも財政民主主義が正常に機能していたことがあるのかを検証してみる必要があるのではないかと思う。
政官財のエリートの意思統一が図られた予算案が国会に提出されれば、余程ひどいことがなければ、ほぼそのまま(合意できなければ強行採決で)政府案通りに成立すると思われる。根本的な議論・本質的な議論がはたして可能なのかは大いに疑問がある。
財政民主主義が機能不全に陥っているというよりは、財政民主主義が機能するしくみになっていないのではないかと思われる。(具体的な論拠があって言っているのではなく、そんな気がする)。
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2021年度予算において、新型コロナウイルス感染症への対応がどのようになされるのか焦点になろうが、「令和3年度予算の概算要求の具体的な方針について」(2020/7/21)は、次のように述べている。
- 政府としては、感染拡大を防止し、事業と雇用を守り抜くため、2度にわたる補正予算の迅速かつ適切な執行をはじめ、引き続き新型コロナウイルス感染症への対応が喫緊の課題です。
- 他方で、来年度における予算をはじめとする対応について、現時点で、予見することに限界があることも事実です。このため、先般、閣議で申し上げたとおり、令和3年度の概算要求については、政府、与党、地方など多くの関係者の作業の負担を極力減らす観点も踏まえ、本日、政令を改正し、要求期限を1か月遅らせて9月30日とするとともに、概算要求の段階で予算額を決めることはせず、その仕組みや手続きをできる限り簡素なものとします。
- 具体的には、(1)要求額は、基本的に、対前年度同額といたします。(2)その上で、新型コロナウイルス感染症への対応など緊要な経費については、別途、所要の要望を行うことができることとします。
新型コロナへの対応が喫緊の課題であろうが、そのために「ムリ・ムダ・ムラ」を許容してよいということにはならず、ましてや新型コロナ以外の予算を軽視してよいということにはならない。