今回は、第7章 国民主権 第4節 国会 2国会の構成と活動(p.529~) である。
国会の構成
浦部は、二院制について、次のように述べている。
- 日本国憲法における二院制の存在理由は、審議の慎重を期すということと、民意の多元的反映を図るということにある。
- 憲法は、任期や権限などの点で両院の違いを定めている。
- 両院の選挙方法をどう定めるかは、とりわけ重要であるが、どのような選挙制度がよいかは、具体的な政治状況を離れて一般的・抽象的に論ずることはできない。
- 民意の多元的反映という二院制の存在意義が十分に生かされるかどうかは、選挙制度の定め方に大きく依存している。
「民意の多元的反映」が何を意味するのか?ということ自体大きな論点であるが、そこは横において、今回は「選挙制度」について、頭の整理をしておこう。(1)小選挙区制、(2)大選挙区制、(3)比例代表制の順に見ていきたい。(ドント方式を理解すること)
なお、衆議院の選挙制度は、小選挙区比例代表並立制である。選挙区数289で議員定数289名の小選挙区制選挙、および選挙区数11で議員定数176名の比例代表制選挙との並立である(合計定数465名)。また、参議院の選挙制度は、都道府県単位の大選挙区選挙で定数 147名、および比例代表選挙で定数 98名(合計定数245名)である。
(710名もの国会議員、いったい何をしているのだろうか? 報道は、内閣が発表する政策の話ばかり。「民意」はどこに?)。
小選挙区制
- 全国を議会の議員定数と同数の選挙区に分割し,1選挙区から1名の議員を選出する選挙制度。
- 1名以外はすべて落選するので死票が多くなる。
- 小政党が乱立しないので、政局が安定する。
- ・選挙区が小さいので候補者がよくわかる。(候補者と有権者との距離が近い)
(例をあげるまでもないだろうが)例えば30%の得票率でも、他より多ければ当選する。70%は支持していないので、民意を反映しているとは言えない。このような選挙制度に意味はあるのか。
議論ばかりしていて何も決められない(決定が遅い)ということになれば、迅速な対応を要する事項に対処できないということであり、取り返しのつかない事態を招くことになりかねない。
物事を大局的に捉え、誠実に対処する人物であれば、「政治」を委託してよい。
「小政党が乱立しない」というのは、逆に言えば、少数派の意見が反映されないということでもある。
候補者がどういう人物であり、どういう思想の持ち主であるかは、簡単にはわからない。
大選挙区制
- 1選挙区から複数名の議員を選出する選挙制度。
- 死票が少なく、国民の意思を反映させやすい。
- 候補者と有権者との距離が遠くなる。自分に合わない近くの候補者ではなく、自分に合う遠くの候補者に自分の票を託すことができる。
参議院の選挙区選挙は、各都道府県を一つの選挙区と定める大選挙区制である。
得票数の多い順に複数議員を選出するということであれば、小選挙区制より死票が少なくなることは容易に想像される。しかし、死票がなくなるわけではない。
かつて(1993年まで)の衆院選挙では中選挙区制(日本独自の呼称)が採用されていた。1選挙区から複数名(概ね3~5名)を選出する選挙制度であり、上記の大選挙区制に分類される。
- 中選挙区制採用の趣旨は、小選挙区制における多数代表制の弊害をなくして少数代表制の要素を取り入れつつ、他方、大選挙区制における小党派分立のおそれや選挙費用の巨額化などの弊害をなくして、それぞれの長所を生かすことにある。
中選挙区制は中途半端な制度であるようだ。
なお、政党に投票することによって議席が配分される政党名簿比例代表は大選挙区制に含まれないとされる
個人ではなく、政党に投票するものであることに注意。
この説明で「比例代表制」が理解できて、下の問いに答えられれば頭がいい(たぶん)。
問い:定員5名の選挙区で、各党の得票が以下のようであれば、各党にどれだけの議席数を配分しますか?
A党:1,700、B党:1,000、C党:700、D党:500、E党:100
衆議院選挙のシステムを徹底解説!〜比例代表?非拘束名簿式?ドント方式とは?〜(http://www.suwila.com/?p=636)
Wikipediaは、第24回参議院議員通常選挙(2016/7/10)の例をあげて説明しているので、同じデータを使って、(手を動かして)ドント方式を理解することにしよう。
第24回参議院比例代表選挙:ドント方式 - Google ドライブ *1参照。*2
*埋め込んでみました。*3
得票率に従って定員数を按分すると、小数点以下の端数が生ずるが、これをどう処理するか。
実際の獲得議席数は、按分数と若干異なるが、このドント方式はどういう考え方に基づくものか。
「1議席あたりの得票数」の数表を参照願いたい。
例えば、自民党が按分数に近い17議席を獲得するのだとしたら、1議席あたり118万人の得票数となる。118万人が支持していると考えてよい。1議席増えて18議席獲得するのだとしたら、1議席あたり112万人の得票数となる。112万人が支持していると考えてよい。
各党について、同様な計算をする。そして1議席あたり得票数(支持者数)の上位から、定員に達するまで割り当てる。なぜなら、例えば「こころ」(日本のこころを大切にする党)に1議席を割り当てると、73万人の支持者がいるが、自民党に19議席を割り当てると、1議席あたり106万人の支持者がいるので、48議席目を自民党に割り当てるのが妥当と考えられる。
なお各党の「1議席あたりの得票数」を途中までしか計算していないのは、各党の立候補者数がそこまでだからである。
Wikipediaは、比例代表制の長所と短所を、次のように述べている。
長所
短所
- 小党分立(群小政党)を生じやすい
- 政権の構成が単独政権ではなく連立政権となる可能性が高い
- 議会の意思決定に時間がかかる傾向が強まる
- 政党の幹部に権力が集中しやすくなる
- 特に名簿式では議員と選挙人との間に政党が介在することから議員と選挙民の関係が希薄になり親密さを欠く(選挙の直接性の問題)
- 選挙手続や当選決定手続など技術的に他の制度に比べ複雑である
長所と短所は裏腹である。
議員が政党に所属して活動するものであれば(議員の個人的見解ではなく、政党の方針に従って行動しなければならないものだとすれば)、政党に投票する比例代表制が、小選挙区制や大選挙区制よりは望ましいのではないかと考えられる。
政権の構成が連立政権となったとしても、それは短所であるとも長所であるとも言えない。
議会の意思決定に時間がかかるとしても、それは長所であるとも短所であるとも言えない。「拙速」という言葉がある。「無為無策」という言葉もある。
単独政権で迅速な決定がなされたとしても、それは「独裁」かもしれない。
選挙手続や当選決定手続が特別に複雑なものであるとも思えない。
選挙制度は、民主主義の観点から軽視してよい問題ではないが、むしろ「民意」(国民/人民の意思)の「多元的反映のありかた」こそがより基本的で重要な問題であると考える。