浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

「議員立法」を考える

久米郁男他『政治学』(31)

今回は、第10章 議会、第2節 日本の国会 第2項 法案審議の流れ の続きである。

国会に提出される法案には、内閣が提出する法案(閣法)と、議員が提出する法案(衆法、参法)があり、議員が提出する法案は「議員立法」と呼ばれている。今回は、議員立法についてみてみよう。*1

 

卵子精子提供で議員立法提出 超党派、親子関係明確に

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https://news.yahoo.co.jp/articles/82559f955579cd3001ceb7f9e8f1851b77c32d75

 

議員立法の意味

立法権は議会が有するのであるから、「議員のみが法案を提出できるのではないか」という素朴な疑問がある。

近代立憲主義においては、権力分立制のもとに議会が立法権を有するのが原則であるが、法律が制定改廃されるためには、法律案の発議、審議、議決の段階を経なければならない。発議権については、(1)政府(内閣)のみに認められる、(2)議員のみに認められる、(3)政府および議員の両者に認められる、という3種の方式がある。(山野一美、日本大百科全書

なぜ、「政府のみに認められる」という考えが出てくるのか。

高見勝利は次のように述べている。*2

明治憲法の起草原案では、法律の発案権は政府のみに留保されていたが、枢密院の憲法会議で強い反対があり、法律の発案権は政府と議員の双方に認められた。その背景には、19世紀ヨーロッパ大陸諸国の憲法で、当初、法律の発案権が政府(君主) の手に独占されていたものが、議会の地位の向上に伴って、漸次、議員にも与えられるようになったという経緯があった。

私は歴史に疎いのではっきりしたことは言えないが、「独裁者」(君主)が法をつくる(ルールを決める)のか、「市民」が法をつくる(ルールを決める)のかという基本的対立が根底にあるような気がする。ここに「独裁者」「市民」と言うも、明確に定義しているわけではない。「市民の顔をした独裁者」、「独裁者の顔をした市民」も考え得る。「民主主義社会」における法規範の定立において、政府(内閣)が提出する法案が「市民の顔をした既得権益」のためのものであるとしたらどうだろう。そして野党議員が提出する法案が「市民」のためのものであるとしたらどうだろう。但し、現実の閣法や議員立法がそうだと言っているのではない。逆の場合もあり得る。

 

ここで以下、谷勝宏の論文「議員立法と国会改革」*3を読んでみる。1999年度研究大会の論文なので、いささか古いかもしれないが参考になる。

公共政策を法制化するには、内閣提出法案(閣法)と議員提出法案(議員立法)の二つの方法がある。…最近、被災者生活再建支援法やNPO法など、官僚立法に対置される市民立法が注目を集めるようになってきた。そもそも市民立法とは、省庁や与党への有効なアクセスを持ち得ない団体や運動の政策発案(イニシアティブ)と読み替えることが可能であり、その手段は、野党主体による議員立法超党派型の議員立法である。

市民立法と言う言葉を初めて知ったが、「省庁や与党への有効なアクセスを持ち得ない団体や運動の政策発案」という意味付けは興味深い。しかし、これでは何か(重要ではあっても)マイナーな問題に限定されるような気がする。

野党の議員立法には、政府に対する対案機能や、公共政策の議題を提起し、法制化を促す議題設定機能など、重要な役割があるが、議員立法の提出や審議を制約する制度や慣習によって、その機能化が阻害されてきた。また、成立する議員立法に関しても、その審議形態や決定過程には、問題点が存在する。

「公共政策の議題を提起し、法制化を促す議題設定機能」は、次のようにも説明される。

政府・与党に先行する形で野党が新規政策を提案する政策先行案は、次の2つに分類される。

(1) 後に政府立法または議員立法による法制化の引き金として議題設定の作用を果たす政策先駆け型法案

(2) 野党が党の独自の政策を表明する政策表明型法案

与党案に対する、単なる「批判」でも「対案」でもない、「新規政策案」。実際にはこのような政策案はほとんどないかもしれないが、「抜本的な案」、「新しい角度からの斬新な案」は、考えても良いだろう。旧来の枠組みに囚われない新しい発想に基づく政策案が求められる。

政府与党の提出法案の対抗案として野党から提出される「対案」。これは単なる批判よりは望ましいだろうが、どのように取扱われるのかが問題となる。

 

議員立法の問題点と制度改革

谷勝宏は議員立法の問題点を次のように指摘している。

  1. 審議日数の少なさ
  2. 法案提出前の機関承認の慣行
  3. 審議の補佐体制の不均衡と政府委員制度の廃止

この問題点を身近なものと考えるためには、所属する組織における、ある問題の解決のための会議(打合せ)に「執行部案」(事務局案)が示されるという状況を考えてみると良いだろう。

 

(1) 審議日数の少なさ

議員立法(特に野党単独提出法案)は、審議される機会が少ない。野党の対案や修正案が審議されないことは、政策の選択肢を国民に示して、その選択を可能にするという争点明示機能を損なう要因になるし、野党の政策先行法案が委員会でほとんど審議されないことは、野党案の議題設定機能が、十分に機能し得ないことになる。

執行部案と異なる見解を有するメンバーがいても、その異なる見解を提案・審議する機会が無ければ、実際には、執行部案通り(一部修正はあるかもしれないが)となる。問題の性質にもよるが、異なる見解の「提案」さえ、認められないケースも多い。提案が認められていても、実質十分な審議ができなければ、審議打ち切りとなり、執行部案通りとなる。これでは論点が明確にならず、革新的・独創的な見解は出てこない。

ではどうすべきか。谷の提言は以下のようである。

野党提出の法案や修正案が実際に審議されるように運用を改革する。…政府提出案(原案)と野党案(対案、修正案)の一括審議をする。

原案と対案(修正案)を同時に提出し同時に審議する。

野党提出の政策先行法案の実質的審査を可能にするためには、先行案である野党案が政府案と厳密な対案関係になくとも、法の対象や、立法目的、政策手法等の内容面で関連性があるならば、可能な限り、提出されている閣法や与党案との一括審議(関連審査)の対象とする。

一括審議(関連審査)ではなく、独立に審査することも可能だろう。

会期の当初の段階で、各委員会における閣法や議員立法などの提出予定案件の立法計画を与野党理事の協議で策定し、閣法処理のスケジュールを計画することと合わせて、会期後半段階での野党提出の先行法案の一定の審議日をあらかじめ設定することも可能となろう。(委員会における立法計画の策定による野党先行案の審議日の設定)

会議開催には議題と時間配分を決めるが、そこに野党提出の政策先行法案も含めることはできる(はずである)。与党がこれを認めないとすれば、「独裁体制」(多数派の専制)と言わざるを得ないだろう。

 

議員立法には衆法、参法の他に、委員会提出の法案がある。概ね提出委員会で各会派が一致すると思われる法案であり、成立した議員立法はこの型がほとんどとされる。

議員立法は、与野党が一致して賛成する場合が多いため、その審議が簡略化(省略)され、透明性に乏しいという欠点を持っている。委員会提出法案が、委員会をベースにして草案を作成するという本来の形態よりも、実際には、与党の政調部会や、与野党のプロジェクトチーム、超党派議員連盟衆議院議会制度協議会などの委員会外の非公式の機関で、草案が作成され、形式的に委員会提出法案が用いられていることによるものである。

非公式の機関で与野党が一致したからといって、何も問題がないわけではない。別の観点からの異論がありうる。だとすれば、

こうした閉鎖的な政策決定の在り方は、公共政策の透明性を欠き、立法に対する国民の不信を増長させることにもなりかねない。政策形成過程段階での議論を公開できないならば、法案が起草された段階で、委員会において審議を行い、立法に至った経緯や、各党の主張や見解の相違点、各党間で合意に至った理由等を明らかにして、決定過程の透明性を確保する必要がある。

 

(2) 法案提出前の機関承認の慣行

…政権党である自民党の党内の規律の問題が、1960 年代以降、衆議院における法案受理の必要要件に置き換えられたことが問題なのである。衆議院事務局が衆議院議員提出法案の法案受理の要件として、各党(会派)に要求している機関承認の慣行は、次のような問題点がある。①会派所属議員が、法定要件の賛成者を集めても、党の機関決定がなければ、法案を衆議院に提出することができない。②機関決定を議員立法の発議の事前に義務付けることで、閣法の場合と同様に、国会提出の段階で、事実上の党議拘束となり、会派所属議員が、党の歯車と化す弊害を生んでいる。③機関承認と賛成者要件の二重の要件を課す必要はない。国会法の賛成者要件は、小会派の法案提出権の制約となっており、賛成者要件の緩和や、予算を伴う法律案の加重要件を同一にする制度の見直しが必要である。④発議段階での所属会派の機関承認を、超党派提出の議員立法にも要求している。野党を中心に、与党議員の中から賛同者を募る市民立法では、自民党所属議員の参加に対する党の締め付けが厳しすぎるために、容易に発議・成立に至らない。

機関承認を受理要件とする慣行の廃止と超党派議員立法への参加議員に対する規制の緩和が必要である。

議員の自主性は無く、党の歯車と言われても仕方ないだろう。

一般社会の組織について言えば、「所属部門」の事前承認ということになろう。特に、複数部門にわたる問題に対して事前承認が必須となれば、全体最適とはならないだろう。(小さな組織では、こんなことは問題にならないだろうが、その小組織が独立して存在し得ないことを考えれば、何も問題がないとは言えない)

 

(3) 審議の補佐体制の不均衡と政府委員制度の廃止

谷の本記事執筆時点では政府委員制度の廃止が決定していなかった。

政府委員とは、

国会において国務大臣を補佐するため、両議院の議長の承認を得て、内閣が任命する行政部の職員。その主たる職務は、国会の本会議や委員会において国務大臣を補佐し、政府提出の諸議案(法律案、予算案など)に関する説明を行うことなどであった。1999年7月成立の国会審議活性化法により、2001年に副大臣政務官制度が創設されることが決まり、それに伴い廃止された。(日本大百科全書

国会審議が官僚主導になる弊害をさけ,政治主導の政策決定システムを確立することが目的(百科事典マイペディア)。代わってほぼ同等の補佐を行う官僚である政府特別補佐人・政府参考人の制度も生まれた(デジタル大辞泉)。

谷は「こうした抜本的な制度改革は、委員会審議を政治家同士の議論によるディベート型委員会に変える可能性を持つとも考えられよう」として、以下を提言している。

大臣・副大臣議員立法発議者間の双方向の質疑・答弁による討論型審議の採用(答弁による討論型審議の採用、対案一括審議の際の副大臣等の当該常任委員への差し替え、担当大臣等を発議者とする議員提出法案を認めること)

政府委員制度の廃止に伴う行政監視機能の補完と事前の文書質問の活用(質疑予定者の法案所管省に対する事前質問と回答の委員会会議録への掲載、情報公開請求によって、国民が直接アクセスできる仕組みの導入)

現実はどうなっているだろうか。後日、検討することにしよう。