浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

予算のプリンシプル(2) 偽造・変造された文書を公開されてもねぇ…

神野直彦『財政学』(9)

政治家や公務員でなくても、所属組織において、予算(収入・支出)に関わっている人であれば、予算原則の話は参考になるだろう。

今回は、第7章 予算のプリンシプル の続きである。前回は、1.完全性の原則、2.統一性の原則、3.明瞭性の原則を見たので、今回はそれ以降である。

 

4.厳密性の原則

  •  予算を編成するにあたって、予定収入と予定支出を、可能な限り正確に見積もることを求める原則。
  • 意図的に過小な収入を見込んだり、あるいは過大な支出を見込むことを許せば、行政府に財政操作をする余地が生じ、議会による財政統制が有効に機能しなくなってしまう。しかし実際には、正確に見積ることは不可能に近い。そこで収入を控えめに見積り、支出を多目に見積る慎重主義が採用される。一般に予算規模の3%ほどの歳計剰余が生じるように見積ることが正常だといわれている。
  • とはいえ、こうした慎重主義も、行政府が議会で噴出する支出増大要求を抑えるために、意図的に収入を過小に見積るという財政操作の方便に利用されかねない。しかも、施設費などは、ひとたび施設を建設すれば、後年度に必ずその施設の運営費が発生する。そのため運営費や維持管理費などの事後的費用を含む正確な情報提供が必要となっている。

正確な見積りは難しい。意図的な過小収入/過大支出であるかどうかは判別が難しい。そこに不正が入り込む余地があるので、適正な見積手続、見積基準、更に監査が必要となる。森友学園への国有地売却問題での8億円値引きが思い出される。

財政赤字削減に関連しては、「経済成長率と税収の過大見積り」がなされるようである。

歳計剰余金とは、「国または地方公共団体の一会計年度における歳入額から歳出額を差し引いた残額」をいう(デジタル大辞泉)。見積りが難しいからといって、3%程度の剰余金が生ずるのが適正かどうかは分からない。また、剰余金をどのように処理すべきか(現状ルールがどうなっているか)、どのように処理されてきたかをみることも大事だろう。

 

5.事前性の原則

  • 予算は会計年度が始まるまでに編成を終え、議会によって承認されなければならないという原則。
  • この原則は、議会の審議・議決にかかわる十分な期間を考慮して、予算編成を完了することをも要求している。
  • 事前性の原則を厳格に適用すると、会計年度が開始するまでに議会が予算を承認しない場合には、予算の執行ができないために、政府の活動は新年度とともに停止することになる。つまり、「予算の空白」という事態が生じてしまう。
  • 「予算の空白」という事態に対応するために、施行予算と暫定予算という方法がある。
  • 施行予算とは、前年度予算をそのまま新年度にも施行するという方法である。この方法は、議会の予算審議権を著しく制限する。もう一つの方法として、短期間にわたる暫定予算を編成して対応する方法がある。現在の日本では、暫定予算を採用している。

新年度までには予算編成を完了しなければならない。予算案の審議時間がどのように確保されているのか、たぶん後で説明があるだろう。(参考:2019/1/12、日経、 予算審議は平均144時間 遅めの召集、年度内成立は綱渡り

 

6.拘束性の原則

予算執行に関する予算原則は、一括して拘束性の原則と言われる。議会が決定した予算によって、行政府の財政運営を拘束することを確保する原則である。

6-1.会計年度独立の原則

  • それぞれの会計年度の支出は、その会計年度の収入によって賄わなければならない。*1
  • ある年度に生じた財源不足を、次年度の収入で賄うというように、複数年度間で収入と支出を融通することを禁止している。
  • 会計年度独立の原則の前提に、単年度主義*2がある。

「会計年度独立の原則」と「単年度主義」については、「繰越しガイドブック」のコラム1~3に説明がある。

6-2.限定性の原則

  • 超過支出禁止の原則…予算計上額を上回って支出することを禁止する。予算に費目が計上されていないにもかかわらず支出(予算外支出)することを認めない。
  • 流用禁止の原則…予算に計上された費目から、財源を他の費目に移し変えて支出することを禁止する。
  • いずれも行政府が議会の決定通りに支出するように限定しているため、一括して限定性の原則と呼ばれる。

超過支出禁止の原則を硬直的に厳守すべきでない状況もあり得る。そういう場合の対応としての「予備費」や「補正予算」については後で説明があるだろう。

流用を認めたら、費目別予算の意味がなくなる。予算費目をどのように設定するのかが問題である。

 

7.公開性の原則

  • 公開性の原則は、予算過程の総過程あるいは予算の全領域に関わっている。
  • 公開性の原則は、予算の数値の公開にとどまらず、被支配者であるとともに支配者でもある国民が、財政運営について的確に把握できることを保障することを要求している。
  • 予算内容が議会審議のために公開されるだけでなく、国民にも広く公開され、かつ批判的意見を自由に発表できる機会が保障されなければならない
  • 公開性の原則が確立するのは、1834年にイギリス議会に、新聞記者席が設けられることになった時だと言われている。

営利企業独裁国家では、組織メンバー全員に予算内容が公開されることはない。そこでは、「建設的意見」は歓迎されるが、「批判的意見」は無視/抑圧される。

2019年度の「報道の自由度ランキング」によると、日本は67位、アメリカは48位、ロシアは149位、中国は177位である。(2019/4/18、日経、「報道自由度、日本67位 国境なき記者団、前年同様」参照)

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2018/3/12、HUFFPOST、森友学園の文書「書き換え」って何が問題なの?

*1:各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。(財政法第12条)

*2:内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。(憲法第86条)