アルフィ・コーン『競争社会をこえて』（８）
今回は、第２章 競争は避けられないものなのだろうか 第5節 異文化における生活（p.56～） である。
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非競争的な文化のいくつかについて、『未開人における協力と競争』（マーガレット・ミード編、1937年）に、ある程度詳しく記述されている。
- ズーニー・インディアン…「すべての制度が、ほとんど例外なく協力的で、非個人的な行動の基本原理を指向するように方向づけられているのが、ズーニーの文化類型である」。物質的な財の所有は、望ましいとは考えられていない。富は、自由に循環し、従って経済的な領域においては、競争は全く存在しない。主なレクリエーションは、宗教的な儀式を伴うものであり、公式の４マイルの徒競走が行われる。これには誰でも参加できるが、とくに勝者を認定することもなく、また勝者の名前が公表されるわけでもない。実際のところ、ひたすら勝つことだけを目指すような者は、参加を許されないのである。
- イロクォイ・インディアン…「集団作業のよろこびを経験することを目的とした協力が、とくに農業活動に見出される。その協力の程度は、最大の生産効率を達成するのに必要なものを超えている」。
- トンガ族…「トンガ社会は、村落の境界の中ではとても協力的である。そして、他の社会的な関係と経済的な関係すべてにおいて、本質的に非競争的である。……経済組織、技術、社会関係においては、ほとんど競争は見当たらない」。
ズーニー・インディアンがここに描かれている通りなら、これはもはや「未開人」とは言えない。彼らを「未開人」と呼ぶのは、「競争社会にどっぷり浸かった現代の野蛮人」の視点からであるに過ぎない。さまざまな競技において、勝者を認定しないこと、勝者を目指す者の参加を認めないという価値観は素晴らしい。「競技」とは、「技を競う」ということであり、勝ち負けを決めるとか、順位を決めることではない。…「オリンピックは、勝つことではなく参加することにこそ意義がある」なる精神はどこへやら、メダル競争とカネまみれのオリンピック。それに「ニッポン、ニッポン」の大合唱、国粋主義。私は、「勝者を認定せず、勝者を目指す者の参加を認めないオリンピック」なら評価する。
一般に複数の共同体が存立するとき、共同体内部では「協力」による結束が見られるが、共同体間では「戦争」をも辞さない激しい「競争」が見られる。但しこれは非常に雑な言い方であって、「何に関しての協力／競争なのか」を明確にしなければ、議論にならない。上記の記述も割り引いて考えなければならないかもしれない。
だけれども、「企業」という共同体を考えてみれば、「協力」と「競争」が併存していることは明白である。私はこのことにいつも違和感を覚えてきたのだが、「企業」（特に私企業）という概念を相対化しなければならないだろう。
ではこの話のポイントは何か。ミードは述べている。
この調査から得られる最も基本的な結論は、ある社会のそれぞれの成員の競争的な行動と協力的な行動は、社会全体において重んじられているものに条件づけられるということであり、またそれぞれの個人が目指す目標は、文化に規定されるのであって、文化的に無規定な、外的な状況に対する人間の反応によるものではないということである。
競争か協力かを規定する最大要因は、社会的な要因であるということである。この結論にほとんど同意するのだが、より根本的に細胞レベル（遺伝子レベル）での競争と協力を考えなければならないと思うので、断言することはできない。
コーンは、本節の冒頭で「自民族中心主義」（自国中心主義）について述べている。それは２つの形をとって現れると言う。
- 馴染みのない文化の慣行は、そのことだけで劣っている。(異なったものは、それだけで悪いものだ)
- 自国にあるものは普遍的なものに違いない。（ここにあるものならば、どこにでもある）
アメリカファースト［ニッポンファースト－日本の国益］を思い浮べれば、良いだろう。アメリカ社会［日本社会］の競争文化は、優れたものであり、普遍的なものであるという信念である。そのような信念を抱いている人には、異文化（未開社会）に関する知識が目を開かせることになる（かもしれない）。
「協力VS競争」とは直接の関係はないが、
エチオピア南部のオモ川渓谷の人々／Hans Silvester の写真
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