浮動点から世界を見つめる

「井蛙」には以って海を語るべからず、「夏虫」には以て冰を語るべからず、「曲士」には以て道を語るべからず

「経済財政運営と改革の基本方針」について

神野直彦『財政学』(16)

今回は、第9章 予算過程の論理と実態 の続きである。予算過程は、(1)編成過程(立案過程と決定過程)、(2)執行過程、(3)決算過程に区分される。

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第1段階は、毎年6~7月に出される「経済財政運営と改革の基本方針」(上図右上)である。

最近のものは、2019/6/21に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019」(全75頁)である。どういう内容か目次を見てみよう。

第1章 現下の日本経済

 1.内外の経済動向と今後の課題

 2.今後の経済財政運営

 3.東日本大震災等からの復興

第2章 Society 5.0時代にふさわしい仕組みづくり

 1.成長戦略実行計画をはじめとする成長力の強化

 2.人づくり革命、働き方改革、所得向上策の推進

 3.地方創生の推進

 4.グローバル経済社会との連携

5.重要課題への取組

第3章 経済再生と財政健全化の好循環

 1.新経済・財政再生計画の着実な推進

 2.経済・財政一体改革の推進等

第4章 当面の経済財政運営と令和2年度予算編成に向けた考え方

 1.当面の経済財政運営について

 2.令和2年度予算編成等について

サブタイトルが、<「令和」新時代:「Society 5.0」への挑戦>となっているので、第2章1の細目次を見てみる。

(1)Society 5.0 の実現

① デジタル市場のルール整備

フィンテック/金融分野

③ モビリティ

④ コーポレート・ガバナンス

⑤ スマート公共サービス

(2)全世代型社会保障への改革

① 70 歳までの就業機会確保

中途採用・経験者採用の促進

③ 疾病・介護の予防

(3)人口減少下での地方施策の強化・人材不足への対応

① 地域のインフラ維持と競争政策

② 地方への人材供給

(1)①デジタル市場のルール整備の本文は、次の通りである。

(ⅰ)内閣官房にデジタル市場の競争状況の評価等を行う専門組織を設置…国際的データ流通の枠組み構築に当たっては、その前提として、国内におけるデータの収集・保管・管理・流通等について、強固かつ明確な枠組みを構築していく必要がある。具体的には、データセキュリティに資する研究開発、データ・フォーマットの共通化・汎用化、データクレンジングの推進、データ流通の際のプライバシーやセキュリティの確保、Society 5.0におけるサイバーセキュリティ・フレームワークの推進、産業競争力強化の観点から機微技術から一般技術情報までデータの種類や構造に応じた戦略的管理、データポータビリティやAPI開放などの方針作成、など課題は省庁横断的に多岐にわたるこのため、省庁横断的に多様かつ高度な知見を有する専門家で構成される、国内外のデータ・デジタル市場に関する専門組織 (「デジタル市場競争本部」(仮称))を早期に創設する。同組織には、データポータビリティやAPI開放をはじめとする上述のデータ利活用に係る多岐の課題への対応を通じたイノベーション促進のための権限とともに、グローバルなデジタル・プラットフォーム企業がせめぎあうデジタル市場を俯瞰・評価し、競争・イノベーションを促進する観点から、独占禁止法などの関係法令に基づく調査結果等の報告を聴取する権限、デジタル市場に関する基本方針の企画・総合調整の権限、各国の競争当局との協力・連携の権限を付与する。デジタル市場競争本部(仮称)は、IT総合戦略本部・サイバーセキュリティ戦略本部や各省庁との密接な連携の下、データ駆動社会における戦略的枠組みを構築していく。

(ⅱ)デジタル・プラットフォーム企業と利用者間の取引の透明性・公正性の確保のためのルール整備…(略)

(ⅲ)5G整備やG空間社会実現に向けて…Society 5.0 の実現に向けて、2020 年度末までに全都道府県で5Gサービスを開始するとともに、セキュリティの確保に留意しつつ、通信事業者等による5G基地局光ファイバなどの情報通信インフラの全国的な整備に必要な支援を実施し、2024 年度までの5G整備計画を加速する。その際、地方創生の実現に向け、自らの地域課題を解決する具体的な取組を有する先駆的な地方公共団体を優先して支援する。地理空間情報高度活用社会(G空間社会)の実現に向け、地理空間情報を使った高度な技術の社会実装を進める。

ほんの一部を紹介したが、「経済財政運営と改革の基本方針」に、何が書かれているのかの雰囲気はわかる。

会議資料や議事要旨は、内閣府のホームページにある。

概要は、全4頁のPDFにまとめられている。→ https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2019/summary_ja.pdf

第2章1の「成長戦略実行計画をはじめとする成長力の強化」は、以下のようにまとめられている。

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これだけを単独にみても分らない。過去の基本方針→予算の重点実施事項とどこがどう違うのかを把握しなければ、妥当かどうかは判断できない。

本書『財政学』は、このような具体的な内容の是非を判断するものではなく、「仕組み」の解説なのだが、具体的なイメージを持たないと、無味乾燥になってしまうので、紹介した。