浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

人口減少への対応策

香取照幸『教養としての社会保障』(13)

今回は、第4章 変調する社会・経済 第2節 人口オーナスとライフスタイルの変化 の続きと、第3節 経済縮小と消費縮小 である。

 

年金制度の社会的意義

  • 人間いつ死ぬか分からないので、長生きすることを前提に蓄えを考える。そうすると貯蓄は過剰になる。
  • 貯蓄が増えれば、消費は減る。老後の蓄えはすべて自己責任でということになれば、ますます過剰貯蓄が増える。これは個人にとっても、経済にとっても壮大な無駄である。
  • 年金制度はこの無駄を少なくする効果を持っている。一人ひとりが老後の生活で必要なコストを社会全体で賄うことで、過剰貯蓄をもっとも合理的に小さくしようとしているのが年金制度である
  • 年金制度がなければ、誰もが老後に備えてもっと過剰な貯蓄を始めるから、今以上に消費が減少し、経済はもっと大変なことになる。

年金制度は、過剰貯蓄を減らし、消費を増やすことになるから、経済成長に寄与する。これが香取の考える「年金制度の社会的意義」らしい。

「一人ひとりが老後の生活で必要なコストを社会全体で賄うこと」に社会的意義があると考えるのが普通であるが、香取はあえてこのように述べることによって年金制度を維持しようとしているのかもしれない。

 

地域生活のインフラがなくなる

  • 今後、増加する高齢者人口の6割を都市部が占めるため、高齢化の問題が都市部で顕在化する。
  • 地方の問題は人口減少である。既に高齢化の問題が顕在化している地方では、今後高齢者すら減少する。生活に必要なインフラサービスが維持できなくなっていく。

地方の過疎化の問題は、地方再生とか地方自治の拡大とかで片付く問題ではない。都市の問題とあわせ考えなければならない。社会インフラ整備は、(地方を含めた)未来都市の計画を必要とするだろう。これは理想的には、(国家を超えて)グローバルに考えるべき問題である。

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人口減少問題を抱えながら、これまでの拡大・成長路線のまま突き進むと日本は崩壊の道を進むことに。日本に生き残る方法はあるのだろうか?(写真:peshkov/iStock) https://toyokeizai.net/articles/-/303854 

 

人口減少と構造的デフレーション

  • 人口減少→消費減、労働力減、供給減。
  • GDP維持のために、生産性向上→消費が減るほどには供給は減らない。構造的な生産過剰、デフレになる構造が内在している。
  • 政府が頑張って成長戦略をつくり、なけなしの予算をつけてイノベーションを推進し生産性を上げれば上げるほどデフレになる。デフレスパイラルに陥ってしまう。
  • 成長が行き詰まった社会は、多かれ少なかれそういう陥穽に落ち込む。

2番目のGDP国内総生産]維持のために、生産性を上げようとする、という前提がおかしい。個別企業は、国全体のことなど考えない。営利追求で行動する。

デフレの議論は、2~3行で片付くような話ではない。

 

経済の縮小への対応

  • 人口減少は経済の縮小と消費の縮小に直結するので、それへの対応を考えなければならない。
  • 経済縮小の根本的解決策は、子どもが増えること、若い世代に子どもを産み育ててもらう以外にない。
  • 出産育児の支援と就労や起業を促進する支援の同時実施、つまり両立支援が必要不可欠である。

第3部で詳説するということなので、そこで考えよう。

 

消費の縮小を食い止める

  • 新しい「所得再分配」のシステムを作って、潜在需要を顕在化させる、つまり有効需要化して総需要を拡大することを考えなければならない。
  • ポイント1…若い世代への所得移転。現行の社会保障は、高齢者に厚く現役世代に薄い制度になっている。若い世代の生活をもっと安定したものにしなければならない。
  • ポイント2…貯蓄の調整。高齢世代が保有する巨額の貯蓄をどうすれば消費に回せるかが大きな課題。所得再分配にはフローの調整機能はあっても、ストックを調整する効果的な仕掛けが無い。
  • 税制には所得再分配の機能がある。資産に対する課税もあるから、社会保障よりは期待できる。
  • 財産課税となった途端、資産家の財産は、海外に逃げてしまう。
  • 相続税を強化して、高齢富裕層のストックを社会に還元してもらうべきという考え方もある。

所得再分配」を、総需要拡大の観点から考えるという考え方があるとは知らなかった。

高齢者間の格差、現役世代間の格差が問題なのであり、「若い世代への所得移転」が必要などと単純には言えない。

高齢者間の格差を考えれば、「高齢者が保有する巨額の貯蓄」などとは言えない。

高齢富裕層の財産課税は確かに問題である。タックスヘイブンも問題であるが、土地という資産の相続も大きな問題である。

 

若い世代の給料を上げる

  • 若い世代の所得が増えないと、結婚もできない、子どもも産めない、自分の人生、将来に希望が持てない。それでは社会全体の活力が失われる。将来に対する不安や諦観のある社会は停滞してしまう。
  • 非正規社員を正社員に転換することや労働分配率を引き上げて給与改善にあてるといったことをもっと真剣に考えて欲しい。(内部留保はある)

香取は誰に向かってこんなことを言っているのだろうか。

改善のための諸施策(法改正)は、すべての人に平等に作用するわけではない。多数の関係者の利害が錯綜する。だから議論するのだが、そのような議論がどうあるべきか(手続き)も、議論内容とともに重要なことである。

一方的な主張をするだけでは、ものごとは進まない。