浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

各省庁の概算要求と財務省による予算査定

神野直彦『財政学』(18)

現在、第9章 予算過程の論理と実態 を読んでいる。予算過程は、(1)編成過程(立案過程と決定過程)、(2)執行過程、(3)決算過程に区分される。

今回は、「予算の概算要求に当たっての基本的な方針について」(概算要求基準)が閣議決定された後の予算編成過程を本書により見ていこう。(現在は変わっている部分があるかもしれない)

ある程度以上の規模の会社の予算編成に関わったことのある人なら、容易に理解されよう。

  • 概算要求の作成過程は、2段階にまとめられる。
  • 第1段階:各省庁の各局ごとに、概算要求の原案をまとめる段階…各省庁の各課が原案を作成し、各省庁の各局の総務課が査定し、(復活折衝をした上で)各局の概算要求の原案を決定する。
  • 第2段階:各局ごとの概算要求の原案を、各省庁ごとの概算要求の原案としてまとめる段階。…各省庁の大臣官房会計課が、各局の総務課との間で、査定、復活折衝を重ね、各省庁の概算要求を決定する。
  • 例年ほぼ8月31日には概算要求が出揃い財務省主計局において査定作業を行う概算査定の段階に入る。財務省のレベルでも、原案査定、内示、復活折衝、決定というプロセスをたどる。
  • 12月中旬頃には財務省の概算概略案、いわゆる財務省原案が策定される。財務省原案は閣議に提出され、各省庁に内示される。(不満のある)省庁は財務省に復活要求書を提出し、復活折衝に入る。
  • 復活折衝では事務レベルの折衝が行われ、政治判断を要する重要事項については、大臣折衝に持ち込まれる。
  • こうした復活折衝に対して財務省は、公開財源あるいは隠し財源を準備して臨む。隠し財源は、各省庁や財務省の官房調整費や退職金などの、すぐには支出されない項目に隠されている。こうした財源の分捕りという政治的ドラマの幕が下りると、概算閣議で概算が決定される。

 

Wikipediaは次のように述べている。

予算編成と主計局の1年のサイクル…通常、6月末の経済財政諮問会議における骨太の方針策定を経て7月、予算要求の基礎となる概算要求基準閣議決定される。これを基にして8月末日、各省庁の概算要求財務省主計局に提出される。9月1日より、主計局が中心となって予算編成が始まる。まず各省庁の担当者による概算要求の説明が行われ、一項目ごとに確認を行う。11月頃に説明がすべて終わると、各課の主計官と主査全員で要求額ひとつひとつを査定し、最終的に主計局長が加わって局議を行い、12月上旬に予算編成大綱閣議決定される。近年は論点となるような予算はこの時点で事前大臣折衝で修正が行われ、12月20日ころに財務省原案が内示される。ここから更に大臣折衝を経て、24日頃に正式の予算案が決定、翌年1月下旬に国会に提出される。主計局はこの期間が最も忙しく、12月には昼間は業界団体や国会議員の陳情の対応に追われて仕事にならず、必然的に徹夜、泊まり込みが続くことになる。Wikipedia、主計局)

主計官(定員11名)は、総務課2名を除くと9名であり、担当領域は、①内閣、復興、外務、経済協力係担当、②司法・警察、経済産業、環境係担当、③総務、地方財政、財務係担当、④文部科学係担当、⑤厚生労働係第一担当、⑥厚生労働係第二担当、⑦農林水産係担当、⑧国土交通、公共事業総括係担当、⑨防衛係担当である。(Wikipedia

 

上記④の文部科学予算に関する対談記事(予算査定の悩みと醍醐味 ― 教育・科学技術をめぐって)があったので、見ておこう。(一部引用)

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小嶋主査 総額で言えば、平成29年度予算で約5兆2,000億円ほど。これを、我々を含む文部科学係19名で分担して査定している。平成29年度予算といえば 、給付型奨学金の創設が目玉でした。

片山主査 給付型奨学金は日本で初めての公的な支給型の奨学金で、世間から大きく注目される中での新制度の創設でした。大きな考え方の整理、規模も含めた詳細な制度設計、財源の捻出方法、どこで何を打ち出すかという段取り、その過程でのマスコミ対応など、様々なプロセスがあり、産みの苦しみを味わいました。いくらでも支給すべきといった声もありましたが、そうも行かない。支給対象にならない人との公平性をどう考えるのか、モラルハザードを防ぐためにどうしたらよいか、という論点もありました。…納税者への説明責任を果たしつつ、勉学へのインセンティブをつける形で合意できました。財務省発の提案も多く、まさに「提案型査定」を地で行った印象です。

小嶋主査 特に科学技術の場合は、事業の優先順位付けが難しいように思います。例えば、100億円の財源があるとして、これをスパコンとか、ロケットとか、バイオとかにまんべんなく配分するべきなのか、それとも、思い切って一つの分野に集中投下するべきなのか、相当難しい問題です。また、大隅教授がノーベル賞を受賞したことをきっかけに、基礎研究と応用研究のバランスも一つの論点になりました。…私の場合は、夜な夜な文科省のカウンターパート[対応相手]と議論して、予算を作っていきましたが、実は泣く泣く削った予算というのもたくさんあります。

奥主計官 科学技術のように専門性の高い分野は特にそうかもしれないが、どんなに勉強したって、予算を受け取る側の研究者に知識面で絶対にかなう訳がない。研究者や文科省は、自分の研究がいかに大切かを諄々と説くだろうが 、主計局は、彼らとは違う地平に立ってものを考えることも大事。資源投入効果などに基づく研究開発の優先順位を、科学者も国民も納得できるような形で決める仕組みを作るというアプローチがその一つの例。「査定」という言葉から一般的にイメージされる「切った、貼った[張った]」とはだいぶ違うけど、そういう仕組み作りの知恵を相手省に提案していくのも主計局の重要な仕事だね。

片山主査 教育分野については「教育は将来の日本にとって大事だ!」「学校の先生は苦労してるんだ!」といった意見が多いです。それらには同意しますが、そこでストップして冷静な政策議論がなかなか前に進まない面もあります。少子化トレンドを反映する必要もあるし、限られたリソースの中、優先順位付けをしながら、効果的な教育手法で「質」を高めていく努力も不可欠です。そのため、査定で文部科学省からの要求額以上に措置した事業もあります。記者にそうした政策パッケージを丁寧に説明しても、結局は相手省や政治と財務省の対立を煽り、短絡的に「財務省は予算削減しか考えていない」とする記事を目にすることが多かったように思います。予算編成期の風物詩になりつつありますね。“まじめな政策分析”よりも、“ケンカの中継”の方が分かりやすくて視聴率が稼げるということかもしれませんが、もう少しちゃんと解説してほしい気も・・・。

奥主計官 主査時代は、一つ一つの事業を全部自分で見るので、日々どんどん担当分野に詳しくなっていく実感があったね。予算は過去の経緯や政治的な要因で左右されることも多々あって、そうすっきり整理できるものじゃないから、制度を詳しく知れば知るほど迷宮の中に入っていくような感覚も覚えたけど、それも主査の醍醐味の一つかもしれない。それから10年強経って主計官になってみると、分野が同じであっても、見える風景の違いに驚いた。当たり前と言えば当たり前だけど、普段付き合う相手の役職が高いだけあって、自ずと視野が広がるし、中長期の観点で考えたり議論したりする時間が圧倒的に長くなった実感がある。あと役所の外で主計局のスタンスを責任もって説明する機会も増えるから、どうやったら正確さを損なわず、かつ相手の頭にすっと入る説明ができるか、なんてことを考える時間もすごく増えたなぁ。

 

予算政府案が作成されるまでの過程を見れば、あらためて「行政国家」なのかなという感がする。