浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

パワハラと「根本的な帰属の誤り」

山岸俊男監修『社会心理学』(7)

今回は、第2章 社会心理学の歴史的な実験 のうち「基本的な帰属のエラー実験」をとりあげる。*1

基本的な帰属のエラー」とは何か?

人がある行動[例えば暴力行為]をとったときに、なぜそうした行動をとったのか原因を考えることを原因帰属と言う。原因には、その人の性格や能力といった内的な属性によるものと、その人が置かれた状況などの外的な原因がある。基本的な帰属のエラーとは、他人の行動の原因を考える際に、外的な原因よりも、本人の性格など内的な属性に原因を求める傾向が強いことを言う。

これを理解するには、具体的な事例、即ちパワハラ、セクハラ、学校でのいじめ等を考えるのが適当だろう。これらのハラスメントは、加害者の性格に起因するものか、環境に起因するものか?

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https://hrd.php.co.jp/shainkyouiku/management/6-1.php

 

このハラスメントの問題を念頭に、「根本的な帰属の誤り」(Fundamental attribution error)に関する解説記事を見ていこう。(https://liberal-arts-guide.com/fundamental-attribution-error/

  • 根本的な帰属の誤りとは、他者の行動を説明する際、個人的な特徴や性格などの内的な要因を過剰に重視してしまうことである。
  • 日常生活や社会生活などの場面において、人間がどのような行動を選択するのかは、その人の置かれている環境や選択行動に干渉する他者の有無、その人の性格などさまざまな要素が複雑に絡み合っている。
  • 他者が何故その行動をとったのかがわからないとき、人間は他者のもつ個人的な「性格」や「思想」といったものに原因を帰属してしまいがちである。たとえ他者がある行動をとった原因が、その人の置かれた環境や事情にあったとしても、その人の個人的な要素に原因を求めてしまう恐れがある。

パワハラとはどういう行為をいうのか。

  • 職場などで、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、相手に精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為。上司から部下に対してだけでなく、先輩・後輩、同僚間、部下から上司に対する行為や、顧客や取引先によるものも含まれる。(デジタル大辞泉
  • 厚生労働省は典型的な行為として (1) 暴行や傷害(身体的な攻撃),(2) 脅迫・名誉棄損・侮辱(精神的な攻撃),(3) 無視や仲間はずし(人間関係からの切り離し・隔離),(4) 遂行不可能なことの強制や仕事の妨害(過大な要求),(5) 程度の低い仕事を命じたり仕事を与えない(過小な要求),(6) 私的なことに過度に立ち入る(個の侵害)をあげている。(ブリタニカ国際大百科事典)

このような典型的な行為の例を見て、個人的な「性格」のみに原因を帰属してしまうのは単純すぎる。パワハラする側の「事情」を考慮しなければならない*2。それは「指導・育成」という「事情」である。とりわけ「営利(効率性)追求」(競争に勝つこと)が至上目的となっているところでは、「指導・育成」が強化されがちである。

 

何故このような「根本的な帰属の誤り」が生じるのか。

  • (定説はないが)人間が物事を認識するときに生じる「行為者-観察者バイアス」という認知バイアス(解釈するときに生じる偏見)が影響しているという説がある。
  • 自分が「行為者」の場合は外的要因に、自分が「観察者」である場合は他者の内的要因に帰属してしまう。(認知バイアス
  • 自分が「行為者」である場合、思い浮かべる視界に自分自身はおらず、状況のみが広がっている。そのため、行動の原因について考えるとき、自分の起こした行動の原因は外的な要因(置かれた状況など)にあると考えてしまいがちである。
  • 自分が「観察者」である場合には、行動を起こしている他者を含めた風景を想像する。このとき、観察者である自分の風景の中で最も目立っているのは、行動を起こしている人になりがちである。
  • このように、他者の行動の原因を考えるときには、想像する風景の中で焦点となるその人に目を引かれ、その人のもつ内的要因に原因を帰属してしまう可能性があることが指摘されている。

なるほど。「行為者-観察者バイアス」という認知バイアスか。

確かに、私が、ある行為(主張)をするときには、状況のみが広がっている。だけれども、他者は私の「状況」をうかがい知ることはできないだろう(私自身でさえ、私の状況を言語化しえない)。

 

根本的な帰属の誤りを低減する方法として、「対応バイアス」を提唱したダニエル・ギルバート(Daniel Gilbert)は、以下の3つの方法を紹介している。

  1. 評価対象者と同じ状況に自分がいたら、どのような行動をするかを考える。
  2. 評価対象者がとった行動の原因として考えられるものの中で、本人以外からはわかりにくい原因や目立たない要素がないかを慎重に検討する。
  3. 評価対象者の他に、同じ行動をとった者が周辺にいたかどうかを確認する。同じ行動をとった人が多い場合、評価対象者は状況に従い、自分の意に沿わずともその行動を選択した可能性がある。
  • ギルバートの示した3つの方法には、他者の視点に立って行動の原因を探るということという共通点がある。それは第三者である自分の視点から、他者の行動の原因を探ることとは大きな異なる認識の仕方である。

「他者の立場(視点)に立ってみる」ということは、難しいが大事なことである。

「行動」には「主張」を含めて考えよう。何故そのような「主張」をするのか。他者の視点にたってみること。

観察者バイアスにかかっていないか。物事を皮相にとらえていないか。

*1:「観察学習実験」、「フットインザドア(foot in the door)実験」はパスする。

*2:河北隆の「パワハラする側の心理」が参考になる。