浮動点から世界を見つめる

井蛙には以って海を語るべからず、夏虫には以て冰を語るべからず、曲士には以て道を語るべからず

無観客の見世物としての「アリーナ」

久米郁男他『政治学』(29)

これまで、浦部法穂『全訂 憲法学教室』に寄り道していたが、今回より本書に戻る。

第2部 統治の効率―代理人の設計 の各章は、次の通りである。

 第10章 議会

 第11章 執政部

 第12章 官僚制

 第13章 中央地方関係

 第14章 国際制度

私は、第2部の副題「代理人の設計」という言葉がちょっと気になるのだが、何か目新しい主張があるのだろうか?

今回は、第10章 議会、第1節 議会の比較 である。

 

変換型議会とアリーナ型議会

アメリカの政治学者ポルスビー[1934~2007]は、議会を「変換型議会」と「アリーナ型議会」に分類整理したそうである。(Polsby,1975)

  • 変換型議会…国民の要求を議会が法律という形へと変換する場。議員が政策立案の主人公となる。アメリカの議会が典型。
  • アリーナ型議会与野党が、(次の選挙を意識しつつ争点を明確にして)自らの政策の優劣を争う討論の場。イギリスの議会が典型。

ほとんど同じだが、次のような説明もある。*1

  • 変換型議会…社会からの要望を議会が集約して政策を形成、修正して法律に変換するという、いわば自律的能力が高い議会。政党の一体性が低いために、個々の議員が文字どおり立法者として政策を立案する。法案等の審議では、発達した委員会制度を活用しているのが大きな特色である。
  • アリーナ型議会…社会の多様な要望を妥協しつつ立法化することよりも、与野党の論戦による争点提示機能が中心となっている。委員会の機能は比較的弱く、その結果として政策の立案、修正という変換型の機能が低い。政治体制としては議院内閣制をとり、政府と与党の一体性が高いという特徴がある。

Wikipediaは、「変換型は、議員が民意を法案に変換する議員立法に重点を置く。アリーナ型は、主に内閣提出法案の討論に重点を置く」(ネルソン・ウルフ・ポルスビー)と述べている。

 

本書は、政治を「本人」「共通の目的」「代理人」という三つの要素に注目して説明しようとしているので、変換型議会とアリーナ型議会は、以下のように説明される。

  • 変換型議会現代社会においては、本人である国民に代わって政策を作成する代理人を選ぶことが必要である。その場合、変換型議会では、政策形成に重要な代理人個々の議員ということになる。代理人たる議員は、重要と考える委員会に所属して政策の形成にあたる。
  • アリーナ型議会…これに対しイギリスのようなアリーナ型議会では、政策形成に重要な役割を果たすのは、議会でさらに選ばれる代理人たる内閣である。
  • その結果、変換型議会では、政策決定は多元的・分権的となり、アリーナ型議会では集権的となるのである。国民の多様な声を反映する上では変換型議会が、政策決定の責任を明確にする上では議員内閣制をとるアリーナ型議会が適任である、ということができる。
  • 政府が問題を認識し、それへの迅速果敢な対応をできるようにする「統治の効率性」を重視するか、社会の多様な利益や意見ができるだけ法案に反映されることを求めるか、というトレードオフがここに顔を見せている。代理人としての統治機関をどのような理念に基づいて設計するかは、難しい問題である。

国民=本人、個々の議員=代理人、内閣=代理人代理人、という捉え方のようであるが、このように捉えることによって何か新しい知見が得られるのか(統治機関の設計に役立つのか)、よくわからない。たぶん今後、詳しい説明があるのだろう。

 

隈研吾氏デザインの国内最大級アリーナ

f:id:shoyo3:20210706172530j:plain

愛知県新体育館のバスケットボール試合時の観客席イメージ(資料:愛知県)(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00585/021800071/

 

ナポリ近郊にある、ポッツォーリの円形闘技場

f:id:shoyo3:20210706172619j:plain

ローマ帝国各地にあった円形闘技場―歴史や特長、現在でも残っている都市など―

https://anc-rome.info/amphitheatrum/

 

イギリス下院議会

f:id:shoyo3:20210706172724j:plain

イギリス下院議会で、ブレグジット案が3度目の否決(https://parstoday.com/ja/news/world-i52380

 

アリーナ(arena)とは

アリーナは、スタンド(傾斜がある階段状の観客席)に全周またはほぼ全周を囲まれた、闘技場・競技場・劇場などの施設。

ラテン語のarenaの原義は「」で、そこから「流血を吸収するために砂を撒いた闘技場」の意味に転じ、さらに、そのような闘技場が設けられたアンフィテアトルム(古代ローマ円形闘技場)のような施設の意味に転じた。

競技場としては、バスケットボール・アイススケートなど室内競技用の競技場を特にアリーナと呼ぶ。それに対し、アリーナのようなスタンドがあっても、野球・サッカー・陸上競技など屋外競技用の競技場はスタジアムと呼び区別することが多い。(Wikipedia

 

アリーナ型議会

さて、アリーナ型議会が、「与野党が、自らの政策の優劣を争う討論の場」(本書)であるとするならば、「討議場」と言っても良いかもしれない。

しかし、日本の国会審議を念頭に置いて言うならば、議院内閣制のもとでは、論争となる法案をめぐって「討議」のうえ合意を目指そうというよりは、大臣に対する質問の事前通告と官僚作成の答弁書読み上げとなっているようである。

「砂を撒いた闘技場」(多数派の専制)ではなく、「よりよき政策を産み出すための討議場」たりうるアリーナは可能なのだろうか。

そしてまたアリーナが「無観客」だとしたら……。