山口裕之『ひとは生命をどのように理解してきたか』(37)
今回は、第4章 機械としての生命 第4節 さまざまな力学系モデル の続き(p.196~)である。
本節では、生命現象の「力学系モデル」として論じられてきた様々な古典的な理論(反応拡散系、散逸構造、セル・オートマトン)の概略が説明されているが、今回はセル・オートマトンである。(セル:細胞、オートマトン:自動機械、ロボット)
ノイマンが研究したセル・オートマトンは、各々のセル(格子)の状態が、周囲の格子の状態によって次々に規定されていくことで、碁盤の目に様々なパターンを描いだしていくようなものであった。
- ノイマンは、セル・オートマトンという抽象的なモデルの中に、情報をもとに自己増殖するようなパターン(自己増殖オートマトン)を構築できることを示した。
- つまり、設計図(情報)に基づいて任意のパターンを作り出す「万能機械」と、設計図を単に記号列としてコピーする「コピー機」と、両者の「設計図」とを、セル・オートマトンのパターンとして表現することができる。
- コンウェイは、セルの状態がオンとオフの2種類だけのセル・オートマトンで「ライフゲーム」というゲームを作った。
- ウルフラムは、セル・オートマトンの振る舞い方を4つに分類した。
クラス1 |
最終的にほとんど全てのセルが同じ状態になってしまう場合 |
クラス2 |
短い周期の循環的な変化を示す部分と固定的な構造(パターン)とが形成される場合 |
クラス3 |
非周期的・カオス的な変化が生じる場合 |
クラス4 |
複雑な構造が増殖するような場合 |
- ラングトンは、セル・オートマトンがクラス4のような複雑な振舞を示すのは秩序状態と無秩序状態(カオス状態)の境界線上の現象であるとして、「カオスの縁(エッジ)」となづけ、その出現条件を調べた。
- ラングトンは、ある規則のもとでのセルの「生存確率」をλ[ラムダ]と名付け、任意のλ値になるような変換規則を自動的に生成するプログラムを作成した。その結果、λ値[ラムダ値]が0.273前後になるような規則が「クラス4」の振る舞いを生みだすことが明らかになった。(※)
- ラングトンは「人工生命」という言葉の創始者としても知られる。セル・オートマトンの振る舞いを調べることは、所謂「複雑系」研究における常套手段となり、「カオスの縁での複雑な構造の形成」が生命現象についてのアナロジーを提供するものとなっている。
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(※)以上のような言葉だけでは分かりにくければ、YouTubeを参照。
ここでは、1つだけ「生命のパターン(セルラーオートマトン)」(岡 瑞起)を挙げておく。
この動画の中で、「各クラスの割合」と「カオスの縁」の図が興味深いが…。
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セルの状態が、オン・オフ(0・1、生・死)の二値であること、近接したセルしか影響を与えないとしていることなど、素人でも気づくような現実離れした前提で「ライフゲーム」や「カオスの縁」などと言われても、「遊び」でしかないように思われる。「カオスの縁での複雑な構造の形成が、生命現象についてのアナロジーを提供するものとなっている」とは、とても思えない。
もっとも、「動き・複製・自己言及」という生命の基本原則に似た機能として、セルラーオートマトンのルールを、
- 格子状に並んだ「セル」で世界が構成されている。
- それぞれのセルは状態を持つ。
- 周りのセルの状態により。自分の状態を更新する。
とし(上記動画より)、「単純から複雑へ」理論構築しようとする意図は分からないでもないが、「単純」にとどまっていては、「本質」なのか「粗雑」なのか判別し難い。
また、「動き・複製・自己言及」が、生命の基本原則であると言われても、「ああ、そうですか」としか言いようがない。(別に否定しているわけではなく、私にはわからない、ということです)